誰かになって世界に挑むVR×物語「グッバイリアル」制作秘話
作品概要
本作「グッバイリアル-proto-」はVR-TRPGサークル「ぐだぐだぶとん」と東京大学VRサークル「UT-Virtual」によって制作された、clusterゲームワールドだ。2022年2月にプロトタイプとして公開され、現在は開発中止となっている。
総評
結論から先に書くと、このゲームはプロトタイプとして見ればかなり面白いが一つのゲームとして見るとゴミ。神ゲーになる資格はあったかもしれないがそこまで作り込めていない。お前(俺)の作品おもんね~~~~(度々聞こえる幻聴)
作品コンセプトは良さげでゲーム性もあり、一応複数人で何度か遊べる。しかし、作品コンセプトを完全には達成できていない、ゲームの量(ストーリー量)が足りてない、動線が雑・動きが少ないなどの問題がある。
そんな感じの「グッバイリアル-proto-」だが、制作中の思考や作品解説などを以下で行っていこうと思う。
作品コンセプト:誰かになって世界に挑む
VRで異性の肉体に入る事で異性への理解度が増す、そういった話をどこかで聞いた事があるだろう。
しかし、対象への理解度増加の為に障がい者や異性の肉体を使うのではなく、「VRで他人を理解する」をエンタメとしてもっと親しみやすい形で使ってやる事はできないだろうか。そんな考えから「グッバイリアル」の制作はスタートした。
「グッバイリアル」は、他人の人格と肉体を与えられ、自由な選択ができるようにしたら、プレイヤーはより深く世界に没入できるのかを試すゲームだ。
しかし、残念ながらプロトタイプでは「グッバイリアル」専用アバターや衣装は公開されない。作品を十分に楽しませる事ができないのは申し訳ない。
VRSNSらしいゲームの開拓
本作は「自分のアバターが使えない物は遊ばない」というVRSNSでたまに見かけられる主張に対抗しに行く作品でもあった。
肉体と人格を与えられながらも「○○をしろ」といった命令を減らしているので、アバター(自己の一部)とアバターの活用(自分の可愛さを楽しむなど)に制限があっても自発的体験(他人の気持ちを考えて自分で行動する)ができる。
そして複数人でのロールプレイを扱う事で、コミュニケーションのプラットフォームであるVRSNSらしいゲームとなる。VRのゲームではなくVRSNSのゲームだ。(まあ結局アバターは用意できなかったが)
大きい・多い・身体性
先程は「VRSNSらしさ」の話をしたが勿論「VRらしさ」も重要だ。本業(?)のVR-TRPGを作っている時にクソほど言われるが、そこらへんの議論は別の記事でちょっとやっている。
「VRらしさ」を考えるにあたって重要視したのは「そこに自分がいる事」であり、一人の人間としてその場にいるのであれば、大きい・多いはVRにおいて効果的な演出になる。
また、身体性も欠かせない。自分がその世界にいる事を実感する為には世界との相互作用が必要なのだが、ただボタンを押して物語を進めるだけでは微妙だと「ハローバーチャル」の制作で実感した。
ということで現実の肉体とVRの肉体をリンクさせた動きを要求する事を意識して作っている。詳しい話は該当箇所で。
ストーリー解説
「グッバイリアル-proto-」のストーリーを追いながら、シナリオ制作・演出の話もちょっとだけする。
国際現実軍拠点
自分がなるキャラクターを選択した後、そのキャラクターの人格に目を通す事になる。
一癖も二癖もありそうなキャラクターだが、これで良い。「演じやすい=キャラ設定が浅い」では無いのだと制作中の試行錯誤で実感した。(これでもまだ全然足りない)
司令官のセリフにはCoefontのアベルーニを使用している。すごいぞCoefont!
Virutal Home 上層
懐中電灯を持って施設を探索するパート。マップ内にメモリーチップが隠されているほか、浮遊しているドローンを銃で破壊してもメモリーチップが出てくる。これは個室で中身を見る事ができる。
Virtual Home 中層
「ハローバーチャル」において、現実と仮想との戦闘はどうなっているのか、とPLに聞かれたことがあるが、これが1つの答えだった。技術格差とかも現実と仮想の均衡を保つ要素として"REAL"はどこからか生物兵器(ショゴス)を回収している。
Virutal Home最深部
Virtual Home最深部では当初の目的であったREALのコアは見つからず、時限式核爆弾"スフィア"を起動して敵施設であるVirtual Homeを破壊するかの選択になる。
ここが明確に問われる選択なのだが、正直ストーリー的には微妙だ。正式版を作る事になったらもうちょいキャラクター個人と関連させたりキャラクター間の会話を生むようにして頑張ろうと思う。
個室
あぁ、俺、明日死ぬんや…って下を向いて手を組んでいる中、ふと見た情報に人生を揺さぶられるというのは非常にそそる展開だ。こういう惨めな人間好き。
ポッドの中に入る
この非現実感がたまらん。アニメや映画で見たようなワンシーンを新たな物語として体験するのは楽しい。
培養液とかホログラムの演出とかはAmplify Shader Editorのprefabを使用した。自分で色々弄れるようになりたいけどやる事多すぎ!!
ど こ か で 見 た よ う な
制作メンバーのむと君と話している時に、仮想現実に侵入する際にSAOとかTGSVRみたいな演出欲しいよねという話になり、UT-Virtual制作班のむと君に作って貰った。
少しすると謎のエラーが発生して画面が赤くなり、謎の墓場に呼び込まれる。やはりVRで入ってみるとこれ良いっすね~となる。
墓場
奥にある樹は「ハローバーチャル」にも登場した未来予測樹が変色したもの。共存が完全に不可能となった世界線であるが故に変色している。
「世界を滅ぼすことができるのは、一人だけ」と書かれたゲートをくぐると、ステラ作戦の目標であった仮想現実内にあるREALのコアにたどり着く。
…そういえば制作中期の想定では、墓場は仮想現実に侵入した際にランダムに飛ばされるマップの一つだったような。コストの都合と思ったより試作品の出来が良かったために必須ルートとなった。
REALのコア
仮想管理AI"REAL"は二つの世界の共存が不可能になった為、どちらかの世界の剪定をプレイヤーに委ねる。
プロトタイプであるが故、プレイヤーがメモリーチップを回収しきったとしてもここを十分に納得できないのが問題点。やはり1周をもっと長くしたい。「ハローバーチャル」通過者だと分かる気もするがそれはメタ視点込みだしな…
REALの声は草羽エルさんのCoefontを使っています。良い声!
選択
仮想管理AI"REAL"のセリフに続いてフラッシュが起き、閉鎖的な空間から急に開放的な空間に変わる。VRワールドって広い空間の方が好まれる印象あるけど作るの結構めんどうだからここぞという時だけ。
プレイヤーの前方では、REALが仮想の滅びを受け入れるかのように、これ以上の問答は不要であると言うかのように、両手を広げてプレイヤーの方に視線を落とす。
巨大な姿はプレイヤーとREALが対等な存在でない事を印象づけ、彼女が滅ぼすべき悪であるように見せる。
そして後方では核のマークのついた地球儀がある。こちら側の銃を取れば現実世界を破壊することになる。
プレイヤーが複数人いる場合は誰が引き金を引くか話して決めると良いだろう。まぁこれを本気でやるならもっとキャラクター間の関係性を深堀りするシーンとか欲しいんだが。
仮想世界を滅ぼす
仮想世界を滅ぼす事を選択すると、仮想管理AI"REAL"は完全に破壊され、仮想世界の住民及び仮想世界にいるプレイヤーも死亡する。
視界が赤く染まった後には"REAL"の仮面だけが残り、彼女の姿は消えているが「さよなら、私の、愛した世界」と聞こえる。「グッバイリアル-proto-」でREALの本心を聞けるのは仮面が外れたこのシーンだけというのは書いてる側のニチャリポイント。
現実世界を滅ぼす
現実世界を滅ぼす事を選択すると、現実世界に核が落とされ、現実世界の住民が死亡するが仮想世界にいるプレイヤーは生き残る。
地球が黒く染まって落ちて行った後、後ろにいるREALが「ようこそ、新しい世界へ。貴方を、歓迎しましょう。」と言う。
開発の目的
さて、ストーリーの解説はこれくらいにしてゲーム制作の視点でもう一度この作品を解説したいのだが、後に言い訳として使う為にここで開発の目的について記述しておこうと思う。
「地下壕の讃美歌VR」を作る前にUnity・CCKへの理解を深める、使える素材を作っておく
「地下壕の讃美歌VR」を作る前にVRでの演出・身体性について理解を深める
事前準備無しで遊べるロールプレイ風ゲームを作る
こんな感じで、本作は「地下壕の讃美歌VR」への準備としての意味が強い。
「グッバイリアル-proto-」も神ゲーになる資格のあるゲームだったが「地下壕の讃美歌VR」を優先し、今回の制作で得た演出の知見を、既にストーリーが作り込まれている「地下壕の讃美歌VR」に使う事で夢を叶える作品を作るつもりだ。
「グッバイリアル-proto-」は以下の条件のうち2.3個クリアできたら制作が再開されるかもしれない。(戯言)
逆凪・Florレベルで技術と時間があるゲーム制作班の追加(監督を任せられるレベル)
ClusterCreatorKitの機能追加(主にアイテム周り)
ClusterAwards2022の詳細公開
アバター制作者の参加
「地下壕の讃美歌VR」制作完了
ゲーム制作の視点で解説
国際現実軍拠点
Virtual Homeに侵入
初期段階ではステルスアクション風に最奥を目指すゲームパートだったが、ステルス要素は現状のclusterでは十分に作れないため、懐中電灯を持って施設を探索するパートとなった。
ちなみに完全な暗闇はLightingの設定を開いてEnvironmentにある2つのIntensity Multipularの値を0にすることで出来る。
完成版を作るならもっとマップを広くしたり、毎回マップが変わるようにしたい。メモリーチップの数も増やしたい。というか自分、マップ作り向いてね~~~~(勉強しろ)
Virtual Home中層
銃を拾って向かってくる生物兵器(ショゴス)を撃ち殺すパート。
着弾時のパーティクル・死亡演出・ショゴスを放置した時のデメリットなどに対してもっとまじめに作れと言いたくなるが、まあ「地下壕の讃美歌VR」では多分使わないし…という言い訳。
Virtual Home最深部
スフィアの起動は、身体性を意識したギミックとしてなかなか良い。以前身体性に関する考察をした時にclusterでは「引っ張る」が最も扱いやすい動きだという結論になり、それをここで採用した。
両開きのドアを開けるように左右を同時に掴んで開けても良し、片方ずつ手前に引っ張って起動しても良し。ボタンやレバーのように間接的に物を動かすのではなく、直接的に物を動かしている所もポイントが高い。
grabした時にスフィアが遠く離れたプレイヤーの手にワープするとつまらないので一定距離まで近づかないと掴めない仕様にしている。grabbable Itemの周囲をIs TriggerのMesh Colliderで囲めば良いだけ。
ちなみに分かる人には分かるだろうが、「大乱闘スマッシュブラザーズX」の亜空間爆弾を意識して作っている。
裏の意図と制作の感想
VR-TRPGを広めるために
VR-TRPGワールドの宣伝に悩んでいる話は以下noteでもしている(Cluster Awards2021でVR-TRPG「ハローバーチャル」がノミネートし、1カ月程で訪問者数が1.5倍程に増えたが、今はワールド紹介から消えている。)
あと結局ユーザーがVR-TRPGワールドに入った所で、ちゃんと遊ばれているのかは甚だ疑問だ。GMをやりたがる人が少ない?そもそも少人数で予定を決めて遊ぶまで成熟していない?あんま興味ない?いくら宣伝しても「ハローバーチャル」遊ばれないじゃん!!(最近はちょっと遊ばれてるらしい・結局動画収録をして安く消費させる事にした)
ならGM無しで一人でも遊べて事前準備が要らなくて短時間で遊べて自分の作品の魅力が伝わってVRで遊びたくなるTRPG風ゲームワールドでも作ってみるかという裏の意図が「グッバイリアル-proto-」にはあった(相変わらず注文が多い)。これならclusterワールド紹介の「ストーリーのあるワールド」位には載るかも。
ゲームワールドを広めるために
clusterのゲームワールドはあまり遊ぶ人がいないと問題視され、改善の為の意見が挙がっていたのを遠目で観測していたが、新たな改善策として「#もくもくメタバース」というタグで字幕実況を投稿する事を考えた。
今までclusterのゲームワールドはclusterユーザーやcluster民をフォローしているTwitterユーザー、Youtuberのファンにしか届かなかった。だが、字幕実況は新たな層に魅力的なゲームワールドの存在を伝える事ができるのではないだろうかという発想だ。
そして先行例として「グッバイリアル-proto-」の字幕実況を投稿した。
制作中の悩み
cluster、VR-TRPG、ぐだぐだぶとん、UT-Virtualの各方面において定期的(2~4カ月)に作品を出すのが一般的・出すのを求められる圧を感じているのだが、自分の制作スパン(半年~1年)と合っていないために限界制作・クオリティ不足になって満足のいく結果を得られない悩みがある。チーム制作と言いながらもほぼ自分でやる箇所が多いのも問題点。「グッバイリアル-proto-」はこの悩みをモロに喰らい、プロトタイプでの公開となった。
クレジット
制作に関わったメンバーを紹介する。感謝。
①ぐだぐだぶとん
2021年8月のclusterGAMEJAMで「グッバイリアル-proto-」の前身となるものを制作した。
[シナリオライター]朝月葵・逆凪
[3Dモデラー]逆凪・とくロ
[システムデザイナー]br・Flor
[ディレクター]Flor・逆凪
[ボイス]朝月葵
その後、8月末に最低限のバグ修正を行うが凍結。10月に別チームを作って再始動する。
②UT-Virtual
2021年11月に東京大学VRサークル「UT-Virtual」が開催する秋の展示会、「Coloring XR」に向けてチーム開発をやる企画が立ったのでグッバイリアルのリメイクを検討。メンバーが集まったのでUnityのプロジェクトを新しく作り直して開始。
この時、別で2件ほど自分メインのプロジェクトを抱えていたので地獄になっていたが、まあ何とか間に合った。
逆凪:その他
むと:仮想に侵入するシーンの制作・素材収集
k山:モデリング(クラロイド)・素材収集
miyuki:素材収集
私(逆凪)が①②両方に所属しているためにこのような制作メンバーになった。この展示会の後(1月・2月)にこのnoteを書いたり軽い手直しをして「グッバイリアル-proto-」が公開された形だ。制作開始から半年経ってるってマジかよ…
正式版を作るなら&メモリーチップ情報公開
2周目の実装&No.4の実装
本作には2周目が存在し、各キャラクターの新たな設定が追加される。この新たな設定というのがキャラ選択画面の■に隠されている。例として挙げると、No.1は1周目では臆病/■と表示されるが、2周目では臆病/愛と表示されるようになる。
1周目を夢として認識し、2周目で更に己に向き合う事で新しい答えを見つける。救いが無い世界に、何か一つ自分の答えを見つける。うーん良いぞ、楽しくなってきた。
このシナリオは初期段階の時点でほぼ完成しており、1周目より2周目がメインだったのだが、プロトタイプでは実装できなかった。また、No.4は1周目を遊ぶ事はできるのだが2周目があってこそのキャラクターなのでプロトタイプで公開するのはやめた。
正式版のネタバレはこの際少しだけやってしまおう。No.1の1周目と2周目のテキストだけ公開する。方向性は逆凪が決めているが、No.1のテキストは朝月葵が大体書いてる。
その他やりたかったこと
No.2プレイ中に幻聴で妹の声が聞こえる。段々とその声が弱っていくなど。
日常パートとして1周目の国際現実軍本部でNPCに簡単なお使いを頼まれるが、2周目ではNPCはいなくなっている。1周目は夢であり、実際はNPCが仮想との戦争で死亡している事に気づく。
仮想世界に侵入した後、クラッキングによって仮想世界を破壊するアクションパート。
メモリーチップ情報公開
作中では最大8つのメモリーチップが取得できる。正式版作る事になったらもっと増やすかも。
終わりに
ここまで読んで頂きありがとうございました。
色々それっぽいことを書いたものの、プレイヤーにとってこの作品が面白かったか自分ではいまいち分かりません。良ければ感想を「#グッバイリアル」で投稿して頂けると嬉しいです。(次回作に期待とか書いといてください(笑))
お相手は、逆凪でした!次回は最強のVR-TRPG「地下壕の讃美歌VR」でお会いしましょう!