【ADVゲームレビュー】シロナガス島への帰還 -Return to Shironagasu Island- / Steam (2020)
シロナガス島への帰還 -Return to Shironagasu Island- / Steam
個人製作の同人ゲームとして人気を博し、2020年にSteamでプレイできるようになったミステリーアドベンチャー。
探偵・池田戦を視点人物として、完全記憶能力を持つが、極端なコミュ障という天才少女・出雲崎ねね子とともに、自殺したロイ・ヒギンズの娘、エイダからの依頼で、シロナガス島で起こっている出来事の真相に迫っていく。
孤島の館で発生した殺人事件。
通信設備が破壊され、連絡船も当面来ないという典型的なクローズドサークルの中で、果たしてふたりはすべての謎を解き明かし、島を脱出することができるのだろうか、というのが大まかなあらすじ。
基本的には古式ゆかしいノベルゲームで、オーソドックスなクリック式の探索と、選択による分岐でストーリーを進めていく。
要所要所で、制限時間の中で回答を見つけ出さないとゲームオーバーになる場面もあり、ほどよくサスペンス要素を取り込んでいるのも飽きさせない工夫になっているのだろう。
本作の魅力は、なんといってもコストパフォーマンス。
500円という破格の値段で、10時間程度の濃密なシナリオを堪能できる。
インディーズ作品ということで、音声対応はしていないが、CGの枚数は豊富で、絵柄にやや癖があるとはいえ、十分に満足度は高い。
クリア後にも、相応のボリュームのおまけシナリオが用意されており、ミステリー系のノベルADVが好きなら、たまらないのではなかろうか。
ある意味ゲームらしいというか、後半はダークファンタジー要素が強く、はっきりと答えが示されないオカルト的な解釈もあるのだが、あくまで推理パートについてはロジックで突き止められるようになっているのもポイント。
基本的にはノーマルエンドとバッドエンドしか存在しないため、答えを間違えないようにこまめにセーブを続けていればクリアは難しくないはずだ。
難易度的には、簡単すぎず、難しすぎずのちょうど良いバランスだと思う。
ただし、凄惨な殺人事件が扱われ、グロテスクな描写が存在するため、R-15となっている点については要注意。
シンプルだからこそ、かえって不気味ということもあるのだな。
【注意】ここから、ネタバレ強め。
ストーリー的には、コンパクトな中に、ぎゅっと設定を詰め込んだなという印象。
登場人物全員に何らかの秘密があり、それらが伏線となって徐々にひとつの真実に結びついていく。
タイトルに込められた意味が判明する終盤のシーンは、ストーリーモノの醍醐味を感じずにはいられないな。
客人側だけでなく、屋敷側の人物像の掘り下げももう少し欲しかった、という側面はあるにせよ、シナリオの進め方が上手く、完全に徹夜ルート。
頑張れば一晩で最後までプレイできてしまう、というボリュームも絶妙なのだ。
基本的にシリアスで、少しホラー要素も加えつつ、主人公たちのやりとりにはコミカルさも残しているのも良かった。
親近感を与え、ストーリーに没入しやすくなっている。
被害者たちに同情の余地がないだけに、巻き込まれ組全員が助かるトゥルーエンドもあってほしかったけどな。
なお、おまけシナリオは、コミカルなショートストーリーかと思いきや、想像以上にオカルトホラーに振り切っていたので、意表を突かれた形。
その他諸々、制作者の趣味が全開なのだろうな。
選択肢がどうストーリーを動かすか想像しきれず、短いと言えば短いのだが、本編よりも最後まで進むのが難しかったかもしれない。
続編も制作中とのことなので、仕上がりが楽しみ。
もう少し価格を上げても余裕でしょ、これ。