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【名盤レビュー】Beautiful&Resistance / RIBBON(2002)

Beautiful&Resistance / RIBBON

2001年に結成したRIBBONが、その翌年にリリースしたミニアルバム。
特典音源やオムニバスへの楽曲提供を除けば、彼らにとって唯一のCD作品となる。

本作のリリースは、衝撃的な事件からちょうど2年経ったタイミングだった。
メジャーデビューを果たして勢いに乗っているはずだったLAREINEから、Vo.KAMIJO以外のメンバーが全員脱退。
事実上のソロ作品となったVHS付8cmシングル「GRAND PAIN」が発表された一連の動きが、2000年の8月~10月にかけてのことである。
それを機にKAMIJOの耽美趣味は影を潜め、モード系への活路を見出すと、LAREINEの凍結と同時にNEW SODMYを結成。
現在の彼の活躍を知っていればこそ信じられないことだが、KAMIJOの離脱により、ヴィジュアル系から耽美の火が消えかけたのである。

2001年には、Vo.Klahaを迎えて再興の先頭に立つと思われていたMALICE MIZERまでもが活動停止となり万事休す。
そんな耽美系冬の時代に颯爽と登場としたのが、奇しくもLAREINEを脱退したBa.えみるを中心に結成されたRIBBONであった。
キャリア的にはえみるがバンドの看板を背負う形になっていたものの、評価が高まりブレイク寸前というタイミングで解散したMARRY+AN+BLOODのVo.KAMIYA(RIBBONでは神崎名義)、バブル期のKEY PARTYの中では地味な存在であったがセンスは確かだったLar~MiaのGt.瑠叶(RIBBONではLUCA名義)、動員記録を常に更新し続けるもシーンの移り変わりの波に飲み込まれたoriviaのDr.KAZUMIと、ステップアップが確実視されていた注目度の高いメンバーを揃えていて、メディアでアルバムのリリースが告知されたときのワクワク感は今でも覚えている。

そして、送り込まれた作品が、十分に高騰していたと言える期待値を大きく超えるクオリティだったのが決定打だった。
LAREINEでは作曲の機会が限られていたえみるだが、メインコンポーザーとしてメロディメーカーとしての才能、および堂々たる構成力を発揮。
ニヒルにキャラ付けされた神崎の立ち振る舞いも、楽曲の世界観や歌唱スタイルにハマっていて、根強く待望論が叫ばれるほどのオリジナリティを確立していた。
5,000枚のプレス数は強気だと思われたものの、気が付くと完売。
現在ではプレミア価格を覚悟しないと現物を手に入れることは叶わない。

もっとも、彼らがMALICE MIZERやLAREINEと並ぶバンドに上り詰めることはなかった。
これからというタイミングでLUCAが脱退、活動が安定しないまま、えみるとKAZUMIがLAREINEに吸収され、本格始動からは1年程度で活動を終えてしまうのである。
大きな実績があったわけでもない彼らが今でも語り草となるのは、結局のところ、実績としては可視化しにくいワンポイントリリーフのインパクトに尽きるのではないだろうか。
「Beautiful&Resistance」を聴いて耽美系の復興に想いを馳せたリスナーは少なくないはずで、期待感が最高潮の時点で刹那的に終わりを迎えてしまったことも、ある種の伝説化に拍車をかけた部分はあるのかもしれない。


  1. ROSETTA STONE~リボンの系譜~

統制のとれた軍隊の行進曲を連想させるSE。
あえてアナログな音質にすることで、実際に目の前でマスゲームが展開されているように錯覚。
RIBBONという可愛らしいバンド名とは裏腹、なかなかにハードボイルドな緊張感が伝わってくる。

2. TERRIITORY

リードトラックが配置されることが多い、事実上のトップバッター。
セオリー通り、スピード感と爆発力のある楽曲を持って来たな、と。
イントロのピアノのフレーズが耳に残り、生き急ぐような焦燥感や、失敗してはいけないスリリングな空気が、ゾクゾクと気持ちを昂らせる。
役に入り込んだような神崎の歌唱スタイルはアクの強さもあるのだが、SEを長めに設定したことでリスナーは既に仮想現実に没入済。
最初からフルスロットルで駆け抜けていく。

3. 真夜中ノ黒イ太陽

ダークな要素を強く帯びたギターのリフと、台詞や舌打ちなどギミックを打ち出しながら、あくまで硬派に突き進むメロディアスチューン。
サウンドワークについて、耽美系が出自であるのは間違いないものの、彼らの場合、煌びやかで華美なヨーロッパテイストよりも、スパイ映画のエージェントのような世界観がオーヴァーラップしてくるのが面白い。
サビになると正攻法のお耽美歌謡。
モノトーンの世界を色付けしていくようでたまらない。

4. 24 hours

緊迫感は、ここにきてピークに。
激しさを求めてのアクセント的な楽曲なのだが、それでも端麗なスタイルと美しいメロディの追求は怠らない。
スリリングなサウンドにも動じず、常にクール、常にニヒル。
吐息の成分を多く含んだ神崎の歌声には、安易にシャウトやダミ声に頼らないぞという矜持すら感じ取れる。
多少ブレるピッチを味わいに変えるのも上手い。

5. PARADOX

淡々としたリズムからスタートするビートロック。
そもそも、ベースにあるのは90年代の王道なのだが、この楽曲には特に源流的なサウンドが伺える。
言ってしまえば、ベタなのかもしれない。
ただし、ここまで来ればハードボイルドな世界の一幕にすっかり染まり切っているから不思議なもので、バリエーションとして昇華。
言葉にすれば類似性の高い楽曲が並んだアルバムにも関わらず、通して聴くと緩急があり、ドラマ性があり、それぞれに違いがはっきりわかるところに彼らの構成力の凄みがあるのでは。

6. 極東の恋人-THE FAR EASTERN LOVE-

ここまでも十分にインパクトの強い楽曲を放ってきたRIBBONだが、それらを更に凌駕するレベルでキラーチューンだったのが、この「極東の恋人-THE FAR EASTERN LOVE-」であろう。
象徴的な華やかさで、すべてがサビのようなメロディの強さ。
LAREINEやANUBISでも形を変えて歌い継がれ、えみるのキャリアを通しての代表曲となったのも納得である。
とはいえ、艶やかな歌声からシームレスにファルセットに移行するサビメロの美しさが圧倒的な高揚感に繋がっているRIBBON Ver.が、やはり至高。
装飾が多いからといって、イントロからアウトロまで捨てるところがないアレンジセンスのたまものである。


仮にギタリストが加入し、活動が継続していたらどうなっていたのだろうか。
初期衝動をマンネリを恐れずぶつけることができたからこそ、これだけ濃密なものが出来たと言えるのかもしれないし、連携が深まっていない中でこれだけの作品を作れるのだから、成熟によって更なる名盤を生み出していた可能性があったとも想像できる。
ひとつ言えることは、もう1枚だけでもいいから、神崎&えみるのコンビでの作品を残してほしかった。
強いて言えば、本作の特典だった「finale」が存在しているのだが、途中でコメントが挿入されるデモver。
復活ブームも今や恒常的なムーブメントとなりつつあることを踏まえ、ここにきて正式音源化なんてニュースが飛び込んでも驚かないぞ、なんて言いつつ期待してしまうのである。


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