見出し画像

解散したってオリジナルアルバムは残したい -解散後に1stアルバムを発表したバンド5選+α-

つい先日、keinが解散から23年の月日を経て、1stアルバム「破戒と想像」をリリースした。

ゼロ年代の中盤ぐらいから宅録環境が充実し出して風向きが変わるのだが、keinの活動していた時期は、まだ音源制作のハードルが相応に高い時代。
単独公演が出来る規模のバンドであっても、デモテープやシングルしかリリースしていないなんてケースはザラにあって、ライブでしか演奏されていない未音源化曲が多数存在することになる。
口コミから注目度が高まり、発売された音源が即完売するレベルに至っていたkeinが解散したのは、ちょうどそんなタイミング。
10曲弱の未音源化曲を生み出しておきながら、彼らの活動とともに沈黙することとなった。(例外的に「ブルーベジー」はdeadmanに継承されたが、メロディや歌詞の一部は書き換えられていた。)
あまり大きな声で言えないけれど、彼らの音楽への渇望の結果として、シーンの中でももっとも単独公演のテレコ音源がダビング交換されてきたバンドだったのではなかろうか。

破戒と想像/kein

そんな背景もあって伝説化していたkeinが、2023年に1stアルバムをリリースしたのである。
当時の音源を加工したベストアルバム、あるいはデッドストック集ではなく、完全に新作としてレコーディングを敢行。
しかも、2000年当時にフルアルバムを発表していたら、というお題に沿ったかのような収録曲のラインナップだ。
現在の彼らが演奏することを前提にアレンジは変わっているものの、今年の名盤候補に挙げるリスナーは少なくないだろう。

やはり、思い入れのあるバンドに未発表の楽曲が取り残されていれば、世に出してやりたいというのが人情というもの。
同じように、解散後に制作された1stアルバムを5枚紹介してみようと思う。
時を経て、奇蹟的にもリリースに漕ぎつけられたオリジナルアルバムは、勢いのある新人バンドのそれとは、また違ったパッションを感じるのである。



百番目の黒い羊/ギルト

keinと同じ、2000年に活動休止となったギルト。
名目上は活動休止ではあるものの、その後、明確に活動に踏み切ることはなく、事実上の解散であると捉えてもいいだろう。(あくまで現時点では。)

そんな彼らが、2009年に突発的に発表したのが、「百番目の黒い羊」というフルアルバムであった。
彼らが現役時代に残していたのは、公式には1本のデモテープのみ。
当然、未発表曲を多く残していただけあって、再録を含むとはいえ12曲のボリュームを確保している。

ゼロ年代も終盤、デジタルサウンドが進化してキラキラ系の原型になっていったり、そのカウンターとして本格派のラウドロックやメタルコアへの移行がはじまったタイミングに送り込まれたコテコテ系バンドのフルアルバム。
しかも、当時絶滅寸前だったツタツタ発狂系バンドのど真ん中となればインパクトは絶大で、その後の温故知新的な懐古主義ブームを間接的に扇動したという見方も出来るのでは。


FANTASIA/CHARLES

2001年に解散し、2015年に初のオリジナルアルバムをリリースしたのはCHARLES。
それまで、デモテープがリリースされていたのみの知る人ぞ知るバンドであったにも関わらず、そのロマンティックな世界観とクラシカルで耽美な旋律に、待望論は根強かった彼ら。
タイトルしか知らなかった楽曲が遂に聴ける、とテンションが上がった1枚である。

デモテープの楽曲も、全曲ではないが大幅にレベルアップして再録。
彼らの音楽性を踏まえると、シンセが重要な役割を果たしている部分も多く、機材の向上がそのままサウンドのレベルアップに繋がっていたりもするので、ゴージャス感がはるかに増した形だ。
現在の彼らのサウンドで、と言われたところで、その間にバンド活動を継続していたか、実質的に引退していたのかでも意味合いが違うと思うのだけれど、彼らの場合は、本来の楽曲の姿が遂に明らかになったといったところ。
CHARLESとしての世界観を大事にしているのがわかったことも収穫だった。

レアなデモテープしか存在しない地方バンドとなると、なかなか触れる機会がないのも事実。
時間が経つと、再び入手困難になってしまうので難しいところではあるが、潜在的な"フルアルバムが聴きたい"という想いを引き出してくれた復活劇。
解散から14年経ったにも関わらず新譜が聴けた喜びは、今でもはっきりと思い出せる。


Ruellia ~全ての華達に捧ぐ~/Ruellia

Ruelliaは、現役時代からフルアルバムを制作している旨のアナウンスはあったのだが、発売延期が続き、最終的には発売中止。
解散後にVo.イリアが結成するkc+loidにて発表することになった。
作曲者が異なる楽曲をカットした結果、ミニアルバムサイズになっていたことを踏まえると、初のフルアルバムは正真正銘、Ruelliaとしてのリリースを果たした「Ruellia ~全ての華達に捧ぐ~」であると捉えて問題ないだろう。

本作は、2014年ごろの再始動から制作が開始され、2016年に完成。
当初に想定していたものと収録曲は大幅に異なるものの、実に16年越しのアルバム完成となった。
結果的に、リリース後は再始動後の活動も止まってしまったため、フルアルバムを出すというのをひとつの区切りとしていたプロジェクトだったのかもしれない。

独特だったのが、その制作方法。
過去に在籍していたメンバーを中心に、10人以上がクレジットされており、同じバンドでありながら、収録曲によって演奏メンバーが異なる面白さが。
音質やアレンジの方向性にバラつきが出る要因にもなっているが、ダークバンドにも関わらず協力的かつ円満的な復活劇に、なんだか安心してしまったのは僕だけだろうか。


BIOGRAPH/MIRAGE

2022年に第三期として再結成されたMIRAGE。
他のラインナップと比較すると意味合いが違う気もするが、2000年に解散となり、20年近く活動を停止していたのも事実。
解散後に1stアルバムをリリースしているバンドとして、彼らも名を連ねる権利はあるはずだ。

彼らの場合、当時に発表していなかった楽曲を世に出す、という概念はあまりなく、再結成の一環でフラットにオリジナルアルバムを制作したという印象。
楽曲にしても、再結成後のナンバーも多く含まれているのだと推測する。
とはいえ、アルバム未収録だった「...Air」や、ライブ音源だけが残されていた「I.D」が正式音源化したのは、やはり当時からのリスナーとしては熱いものがある。
第二期から引き続きVo.AKIRAが正式メンバーとして君臨する一方で、第一期のVo.TOMOがレコーディングに参加しているのも、解散から22年経って初のオリジナルアルバムというお祭り感を意識しての企画だろう。

過去にベストアルバムをリリースしているなど、既に発表されていた楽曲も豊富なMIRAGE。
フルアルバムを出さなかったのは、戦略上の理由なのだと思われるが、そういった背景を認識したうえで、過去の楽曲は現代ナイズして更に格好良く、新曲もしっかり入れてアップデートを、という方針が的確である。
想い出補正抜きで、2022年のヴィジュアル系シーンを代表する名盤に仕上がっていた。


受胎告知-Anunciacion-/CROW-SIS

1997年に解散したCROW-SISが、2022年に1stアルバムをドロップ。
実に四半世紀、keinの23年を上回る、25年かけての発表である。
彼らは、1996年にミニアルバム「CLOSE」をリリースしているが、本作との被りはなし。
当時の楽曲をパッケージしているという意味で"Bestアルバム"と銘打ってはいるものの、初音源化の楽曲が多数を占めていることを踏まえれば、25年の歳月を経て届けられたオリジナルアルバムと言っても良いはずだ。

もっとも、作品自体は2021年に配信アルバムとして先行リリース。
正確には解散から24年と捉えるべきかもしれない。
CD盤は、そこから1年後にようやく発売となったが、ヴォーカルテイクについては再レコーディング、楽曲の追加もある完全盤に。
やや苦しいのは自覚しつつ、1stフルアルバムが完成したのが2022年末ということで、キリ良く四半世紀としておこうかと。

やはりミニアルバム1枚で評価しては見誤るな、と思わせる充実の内容。
彼らの場合、発表されていたミニアルバムに相応の流通量があったため、良くも悪くも「CLOSE」を前提に評価される傾向があったと思うのだが、本作を聴くことで、彼らの音楽がより立体的になったのでは。


In the Shade/el:cid

1992年に結成し、1996年頃から事実上、活動を停止していたel:cid。
最後に番外編として、彼らを紹介する。

2021年に初のアルバムをリリースした彼ら。
番外編としたのは、90年代後半にレコーディングは行っていたものの、発売予定だったレーベルが解体したことにより、宙に浮いていた楽曲をまとめた作品となるから。
1996年に表舞台から姿を消したタイミングを基準とするなら、解散後にレコーディングした作品と言えなくもないのだが、当時としては解散後という意識はなかっただろうし、かといって採り上げないのももったいないし、ということで苦肉の策の枠外紹介である。

内容としては、UKロックをルーツとしたシューゲイザー的な手法を取り込んでおり、インダストリアルやアンビエントといった趣向も見られる。
現代でもそのまま通用しそうな音楽性であり、これをヴィジュアル系バンドが90年代後半に完成させていたのかと驚かせる内容だ。
ex-BEASTのNAGANOの監修により、サウンドトリートメントを行っているとのことで、その観点でも遜色なく聴くことが出来る作品に仕上がっている。
それまでリアルタイム世代を除けば、ほぼ無名だったバンドが、大きく再評価されるきっかけとなった1枚。


総括して、2000年前後に解散したバンドが多くなった。
この時期だと、Luinspear、After effect、babysitterあたりは、未音源化の楽曲が多いので、フルアルバムのニーズが強い印象。
ヴォーカリストが現役活動中なだけに、何かの拍子で制作したりはしてくれないだろうか。
また、この話題で出さざるを得ないのは、アルバム制作中に解散したLamiel。
録音済みデータが残っているなら、是非世に出してほしいと思っているリスナーは少なくないはずだ。

当然ながら、名前を挙げたバンド以外でもまったくかまわないので、眠っている楽曲があるならアルバムにして聴かせてくれよ、と。
keinのアルバムが2023年に出るのだから、もう何が起こっても不思議じゃない。
ファンの声がきっかけで、その気になってくれることだってあるかもしれない。
そんなわけで、今後も好きなバンド、好きな音楽の紹介は、新旧問わずに続けていこうと思うのである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?