硬骨魚類のための寓話「落人の火」
壇ノ浦の戦いに敗れた平家の武士が命からがら逃げ延びていた。
嵐の中、いつ沈むかもわからない粗末な船の上でひたすら、命だけは助けて欲しいと念じていた。
すると海の向こうから観音様が現れこう告げた。
「舳先に灯されたあの火が消えない間、源氏がお前を見つけることはないだろう」
翌日、嵐から火を守り切った彼は陸地を見つけ、上陸した。そこは侍のいない南方の島だった。
住民は彼を丁重にもてなし、十分な食事と寝床、さらには美しい配偶者まであてがった。彼の傷ついた体は回復したが、火がいつか消えるのではないかと、そのことばかりを考えていた。
やがて彼は食事することも眠ることもなくなり、洞窟に一人移り住んで死ぬまで火を灯し続けた。彼が死ぬと火は消え、島は源氏の軍勢に制圧された。