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花魁道中に起こったアクシデント

江戸時代の遊郭、吉原の花魁とは、遊郭の中でも最も位の高い遊女のことです。

位の高い花魁

その花魁が華やかに着飾り、客の待つ茶屋に向かう道中、あるいは特定の日に美しく着飾って遊郭の中を練り歩くパレードの様なものを「花魁道中」と言いました。
吉原の花魁道中では、まず履き物が独特で、三枚歯下駄と呼ばれる黒塗りの重い特殊な下駄を履きます。
今で言うところの超厚底です(高さ17cm〜20cm、片足約3Kg)
レディーガガも真っ青です(笑)。

三枚歯下駄


そして、花魁の歩き方は「外八文字」というもので、まず腰を落とし気味にし、外側に大きな半円を描くようにして一歩踏み、その足をちょっと引く。一歩出して、半歩引くという踊りのステップの様な歩き方です。
当然、なかなか目的地には着きません(笑)

花魁道中

元々この歩き方は、京都伝来の「内八文字」という歩き方が元となったそうなのですが、江戸の廓では、それを改良し、独自のスタイル(外側に半円を描く)の大胆な歩き方を生み出しました。
外側に大きく股を割った時に裾からチラリと覗く、緋色と白い足は、チラリズムの極みとも言える花街ならではの様式美です。

チラリと見える緋縮緬(ひぢりめん)の腰巻は色っぽいのです。
腰巻は、直接素肌に纏う下着ですから、男たちの想像力はピークに達し、その緋色(赤)がさらに興奮度を高めます。

さて、時は、享保年間。
吉原のとある花魁が道中をしている最中、なんと裾から腰巻がズリ落ちて来てしまいました。
そもそも遊女の腰巻には紐がついていません。
紐が無い理由は二つあります。
一つ目は、すぐに脱ぎやすい(脱がされ易い)ように。
二つ目は、紐による首締めなどの危険性の回避の為。
だから基本的に腰巻はずり落ちやすいのです。
現代なら女性が風呂上がりに腰にバスタオルを巻き付けているのを想像していただければどれほど落ちやすいかはお分かりいただけると思います。

緋縮緬の赤

ところが、この時の道中の本人は全く気がつきませんでした。周囲がハラハラしているうち、ついにはパラリ。
なんと、腰巻が落っこちてしまったのです。
ところが、この花魁、少しも慌てず騒がず、着ていた豪華な打ち掛けをすぐさま腰巻の上にサラリと落とし・・・・・
そのまま何事もなかったかのように、悠々と道中を続けたのだそうです。

さらには、その後、ご迷惑をかけたお詫びにと、その事件現場前の茶屋に、三枚重ねの豪華な打ち掛けをプレゼントしたのでした。

この花魁の粋な振る舞いは、瞬く間に評判となり、花魁道中の逸話となり、河東節(かとうぶし)の名曲『松の内』に歌われるまでになったのだそうです。

その花魁の名は?・・・・・それは、「言わぬが花」

和文化デザイン思考 講師
成願義夫

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成願 義夫(ジョウガン ヨシオ)
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