花札を晴れ着の図柄に使ってはいけない理由
江戸、明治、大正、昭和初期(戦前)という長い時代の中で、『花札』をデザインモチーフとして用いた晴れ着は、作られませんでした。
一方、同じ遊具カードの一種である『百人一首かるた』は、文芸文様として、帯や着物の柄に好んで用いられてきました。
『花札』を、晴れ着や祝い着のデザインモチーフに使わなかったのには理由があります。
花札は、今でこそ花鳥風月を表した和柄の遊具カードだと認識する人が増えましたが、そもそも『花札』は江戸時代以降、主に博打場(バクチ場)で用いられ、裏社会の資金調達の道具だったという血なまぐさい歴史があります。
江戸時代、幕府は何度も賭博禁止令を発令しています。
当時、博打場では、サイコロを用いた丁半博打、そして数字が書かれた札によるカルタ博打が主でした。
当然、禁止令に背くと重罪でした。
そこで幕府を欺く為に考えられたのが、数字を描かない「花札」でした。
しかも、お上の目を欺くために、あえて縁起の良い柄を花札には描いています。
本来晴れ着の図柄は、幸福や良縁、繁栄や無病息災を願う図柄、つまり吉祥文様が基本です。
百人一首や源氏物語などの古典文学模様も、知的、高貴、優雅などのイメージがあり、人気がありました。
では、花札はどうかというと、それらの対極にあるものなのです。
伝統文様には必ず時代背景と意味謂れがあります。
殆どの和柄は吉祥文様です。
そして花札の中に描かれている花鳥風月もそれぞれ吉祥紋様です。
ところがそれが「花札」になった途端にアウトロー達の血生臭い歴史的背景が浮かび上がってくるのです。
着物が伝統的な衣装である限り、図柄の歴史的背景を無視することはできません。
よって、成人を祝う振袖や成長を祝う七五三の晴れ着にわざわざ用いる図柄ではありません。
しかし無知ゆえに、安易にこのようなタブーを犯す人達が増えつつあります。一時流行った成人式の『遊女コスプレ』同様に、これもまた無知故なのでしょう。
粋なお兄さんの羽裏や、お姉さんのオシャレ付け下げなんかには「かっこいい」と言われるもしれないデザインモチーフですが、間違っても晴れ着には使ってはいけない図柄なのです。
着る人達の無知は許されますが、作る側、売る側、着付けする側の無知は許されません。
伝統文様や伝統的なデザインには守るべき型やしきたりがあります。
これらは美術大学やデザイン専門学校では学ぶことができません。
このような常識とも言えるしきたりを知らない人が増えたのは、学ぶ機会がないことと、教える人が減ったことにあります。
私の着物図案教室では、このような着物に関わる人が知っておくべき伝統デザインの常識から描き方まで、それぞれの目的に応じて学びの機会を提供いたします。
着物デザイン教室(オンライン or オフライン)
https://www.jogan-kimono-design-school.com/
着物デザイナー
伝統文様研究家
●成願義夫 Jogan Yoshio プロフィール
株式会社京都デザインファクトリー代表取締役
伝統文様研究家、装飾画家、アートディレクター、着物デザイナー、グラフィックデザイナー、伝統産業商品開発アドバイザー
●代表作と最近の活躍
関西国際空港の初代ウエルカムボードのデザイン。
長野県善光寺の納骨堂の納骨壇の扉デザインの他、納骨堂のデザインは多数。
サッポロビールワインラベルなど、手がけたデザインは多数多岐に渡る。
●近況
2018年、秋、成願がデザインした金属製スマホケースが英国ウェールズ国立博物館に永久保管決定。
2018年、冬、和柄をテーマにした民放テレビ番組に解説者として出演。
2019年、春、ジョルジオアルマーニビューティー主催のイベント講師に招かれる。
2019年、夏、京都駅ビルのフォトスポット四箇所のデザインを手がける。
2019年、秋、京都高島屋のバイヤー向け『伝統文様勉強会』講師を務める。
2020年、埼玉県秩父市の招きで2日間に渡り講演会と伝統デザイン勉強会を開催。
2022年、NHKのテレビ番組『美の壷』に出演。
●近年はグラフィックデザイナー、壁面装飾画家、着物デザイナー、伝統文様研究家、伝統産業の商品開発アドバイザー、講演家として、テレビなどにも出演し、幅広く活躍中。
著書は、和柄デザイン素材集を10冊以上執筆。総販売数は40万冊を突破。
また、著書の大人の塗り絵『和柄のヒーリングぬり絵ブック』(PHP研究所発行)は、累計6万5千冊を突破していまだにロングセラーを続けている。
成願の和柄デザイン素材集は日本中のデザイン事務所に、必ず1冊以上置かれていると言われている 。
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