物を販売する人の心構え
平成1年、今から34年前のお話です。
私はある呉服販売チェーンの依頼で仕事をさせていただくことになりました。
そこで、仕事を受ける前に、私の希望で、呉服店にとって最も収益性の高いイベント、つまり『展示会』を見学させていただきました。
場所は3ヶ所、東京の有名ホテル、そして熱海の有名ホテル、そして名古屋の有名ホテルの催事会場でした。
当時、有名な染織作家さん達が集められ、多数のお客様が来場して、展示会場はどこも賑わっていました。
私がそこで最も驚いたことは何でしょうか?
私が驚いたのは、それぞれの作家さんの素晴らしい作品でもなく、大勢のお客様達でもありません。
私にとって衝撃だったのは、「商品の雑な扱い」でした。
会場はお客様でごった返していたとしても、私にはありえない光景でした。
訪問着や振袖、帯などの主力商品の販売価格は安くても何十万円。高価な物だと何百万円もするのですが、私が見た光景は八百屋で野菜を売り買いしているように見えたことです。
今も目に焼き付いている衝撃シーンは、購入が決まった商品を畳んで丸め、透明な帯の袋に差し込んで伝票と共に脇に挟んでバックヤードに行くおばちゃん販売員の姿でした。
BtoBのセールならいざ知らず、わざわざご来場くださった大切なお客様に高額な商品を売りつけて、この扱い?
初めて見た私にはショックでした。
当然、愛情を込めて作っている職人さん達にも失礼です。
「こんなことしていたら、この会社はいつか潰れる」
予言めいた私のイメージは、その後、現実のものとなりました。
着物愛がない人々が着物を扱うことが、着物業界にとって最大の脅威です。その理由を理解しないと、和装業界の未来はないです。
現在、残っているメーカーや販売会社は、着物愛に溢れ、商品を大切にしている人々によって運営されているものと信じたいです。
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着物デザイナー 成願義夫
#和文化デザイン思考 講師
#呉服繁盛店の作り方 アドバイザー