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これから、正絹の着物を購入しようと思っている貴女に私が伝えたい大切な事。

基本的に正絹の着物は、買ってから貴女の体型に合わせて仕立てます。

身長や体型によって身幅や身丈や裄の寸法を決めて仕立てるのは当たり前ですが、実は着姿の美しさを左右する重要な寸法があるのです。

それは、

袖丈です。


袖丈以外の寸法は、否応無しに貴女の体型に合わせて仕立てなければならないのですが、袖丈だけが、多くの場合、貴女がこれから購入するお店の考え方によって決められるのです。

実は、これはとても大きな問題で、そもそも着物の袖丈は身長の3分の1が基本とされています。

このような基準値に「体型」「年齢」「用途」「アイテム」「好み」を考慮して最終的に寸法を個々に合わせて決めるのが正しい決め方です。

(例えば、身長150cmの人の場合、訪問着53cm、染め小紋50cm、紬48cmなどといったように・・・)
この例で3種類の袖丈を書きましたが、なぜかお分かりでしょうか?
基本的に着物は袖丈が長いほど格が高くなります。

せっかく格の高い訪問着や色留袖を購入しているのに、わざわざ袖丈を格の低い着物に合わせるのは、残念なことなのです。

以下の写真は昭和初期の街着(訪問着)です。袖丈をよく見てください。

昭和初期の訪問着の袖丈


特に最近よく聞くのが、「長襦袢に合わせて一律の袖丈にしています」という言葉。
長襦袢は着物に合わせるものであって、長襦袢に合わせて着物の寸法を決めるのは本末転倒です。

店側も客が要望しない限り、袖丈を一律(客の身長の違いに関係なく)にしている呉服店が少なくないのです。
しかも、多くの場合、格の低い紬などの袖丈に統一しています。

理由は一つです。「一律にすれば楽だし、寸法ミスも起きないから」です。
つまり、店の都合で決めているので、客のことを考えていないということです。
これでは、新品を購入しても、まるで「母親のお下がり」のようににしか見えません。

一律の袖丈で仕立てられた着物を着ている約半数の方が、短過ぎる袖丈の着物を着ていることになります。

美はバランスにあり。

本来ならば袖丈は、身長に比例して個々に違わなければなりません。
単純に考えても身長150cmの女性と170cmの女性の身長差は20㎝あるのに、袖丈が同じは、おかしいですよね

にもかかわらず多くの呉服店では、一律にしているのです。

これは、どういうことかというと、
まず、呉服店に「美しい着姿の基準」が無いということです。
これが悲しい現実です。
これは、長い間、着物屋は「生地屋」で良かったからです。

明治、大正、昭和の戦前までは、お客は着るプロだったので、自分に相応しい袖丈や仕立て方、そして好みのコーディネイトは客が熟知していました。
だから呉服屋の商いは客に生地の地値打ちを語るだけで良かったのです。
つまり、ある意味B to Bのビジネスだったのです。

しかし、戦後、お客が素人になってしまった為、B to Cの商売をしなければならなくなったにも関わらず、いまだに昔の呉服屋の古い癖が抜けないのです。

現代の呉服店の位置付けは着物という特別な物を扱っているといえども、「衣類(最終商品)の小売業」です。つまりファッション業界の一翼をになっているのです。にも関わらず、いまだに「生地屋(素材屋)」の思考から脱却できない呉服屋が多いと言うことです。

着物を「着る物」として捉えるならば、染料が何、糸が何、産地はどこ、作家は誰・・・などの話は客が尋ねない限り語る必要はないのです。
それよりもっと伝えるべきことがあるのです。
客に伝えるべき重要度の優先順位が現代は変わっているのです。

それが伝統文化がビジネスとして継承される為の永遠不変の原則「不易流行」なのです。

だから、一律の袖丈を客に押し付けるのは店主の勉強不足であり怠慢と言わざるを得ません。

お客の着姿の美しさを何よりも重視して、袖丈の重要性を理解している呉服店なら、必ず自店独自の方程式や美の基準があり、客それぞれの1cmの違いに拘るはずです。

さらに客のライフスタイルに合わせて様々な提案ができるはずです。

大正時代の薄物の訪問着の袖丈

例えば、身長160cmの貴女の着用シーンが、洋装の方と同席するテーブル席のパーティだけだとするなら、写真の様な65cm以上の袖丈も有りです。

貴女のことを考えて着姿に拘るなら、この様な提案も、お店は当然できるはずです。

貴女がたまたま入った呉服店に、たまたま気にいった着物があったら、購入する前に「私に最適な袖丈は何センチでしょうか?」と尋ねてみて下さい。

店の返事を聞いて、どうするかは、貴女次第です。

貴女の美しい着姿に拘ってくれる素敵な店主がいるお店に貴女が巡り合うことを祈っております。

追記・・・・・・
これまでの古着市場での最大の問題点は、サイズの問題でした。

しかし最近は古着市場が活況を得て、テレビコマーシャルまで打てるようになっております。
この結果リサイクル市場に多数の古着が集まり始めています。
当然、数が集まれば選択肢が増えるので、自分のサイズを見つけることも容易になります。

これまでのリサイクルショップの商品は「安かろう悪かろう」でしたが、しつけ糸のついた物も含めて、大量に商品がリサイクルショップに流れると、「安かろう、良かろう」も混ざり、数量が増えることによって、ユーザーの選択肢も増え、満足度も高くなります。
お客様の立場に立って、最適な袖丈も提示できないような不出来な呉服店で買うぐらいなら、好きな着物を選べる上に価格の安い古着を買うのは当たり前です。

その結果、生地屋の地値打ち思考から抜け出せない既存の呉服店はファッション思考で着物を捉える新たなユーザーには不必要な存在になります。

つまり新たな着物ファンが増えれば増えるほど、既存の呉服店の存在価値がなくなるのです。

この「新たな」がキーワードです。

この「新たな」ユーザーの目的は、「着ること」です。

着物をファッションとして捉えられるかどうかが呉服業界存続の大きな分かれ道なのです。


着物デザイナー 
伝統デザイン研究家
和装研究家
成願義夫
https://www.jogan-kimono-design-school.com/


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成願 義夫(ジョウガン ヨシオ)
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