銭湯の壁画はそのうち日本から消えるかも知れない。
銭湯の壁の絵と言えば、やはり富士山が真っ先に思い浮かびます。
私達ぐらいの年齢の者から見れば、とてもノスタルジックです。
この定番の組み合わせは大正時代に生まれたものらしいです。
特に富士山が身近な関東では圧倒的に富士山の絵が多く、職人が描くペンキ絵が主流でした。しかし関西ではタイル絵が中心で、必ずしも富士山が定番ではなかったらしいです。
銭湯の壁専門に絵を描く絵師を『銭湯絵師』といい、以前、現役の絵師は全国で3人だと聞きました。今はさらに減っているかも知れません。
数年前、その一人に弟子入りした女性のことがニュースになっていました。
余談ですが、壁画の色調は圧倒的に青系が多いことにお気づきでしょうか?美しさを求めるなら、それこそ夕焼けの赤い色調でも美しいはず。
しかし、青の色調が多いのにはそれなりの理由があります。
青は心身の興奮を鎮め、心を落ち着かせる効果があります。長時間そこにいても疲れません。心身ともにリフレッシュするには青が最適な色と言えます。
余談ですが、私の仕事部屋の壁も目に優しい押さえたブルー系にしています。
さて、ピーク時には全国で2万6千軒以上あった銭湯は2022年現在、3400軒を下回わりました。(スーパー銭湯を除く)
さらに追い討ちをかけるように、現在、円安やロシアのウクライナ侵攻の影響で燃料の重油やガスなどが高騰しています。
銭湯は入浴客数に関係なく、一定の固定費が掛かります。
この経費が燃料高騰などで上昇し、銭湯の経営を圧迫しているのです。
銭湯の主な収入は入浴料です。入浴料はスーパー銭湯とは違って、銭湯業者が独自で決められず、各都道府県が金額の上限額を決めています。
そして、多くが個人経営なので、後継者問題がさらにのしかかってきます。
全浴連によると、入浴料の最高は大阪府と神奈川県の490円。最低は佐賀県の280円となっています(いずれも2022年4月22日現在)。
普段、銭湯に行かない者が銭湯の減少を嘆くこと自体、身勝手極まりないのですが、しかし言いたいです。
「銭湯の富士山を時々見たい」と。
和文化デザイン思考 講師 成願義夫