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救世主のはずのインクジェットプリントで墓穴を掘った着物業界


以下は、成願が35年前に描いて、没になった振袖のデザイン画です。

没になったデザイン画


実はこのデザイン画は、私がインクジェットプリントの為に描いたデザインです。
当時の私は、「インクジェットプリントにしか表現できない世界があるはずだ。」
「インクジェットプリントは着物業界の救世主だ」
と信じて、いくつかの提案をしました。

残念ながら、それらはことごとく採用されませんでした。

この図案は没になったデザイン画の一つです。

既存の手描き友禅や手工芸の着物。あるいは型友禅の着物には表現方法や色数制限があるのですが、インクジェットプリントは基本的に色数無制限です。
だから、既存の着物とは競合しない新しいデザイン優先の着物が作れることに私はワクワクしながら、「インクジェットプリントにしか表現できない世界」を提案しました。
これにより、既存の着物のデザインに興味がなかった新しい価値観を持つ着物ファンを増やすことにつながるに違いないと思いました。

ところが、業界は私の期待とは真逆の驚くべきことをし始めたのです。
当然私の提案など理解されませんでした。
なんと、インクジェットプリントを手描き友禅や絞り染めなどの手工芸品の高価な着物のフェイク商品を作ることに使ってしまったのです。

つまり、手っ取り早くお金になる道を選んだのです。

結果、偽物の辻ヶ花染が作られたり、手描き友禅風の紛い物が作られ、消費者までも騙すような使われ方をしました。
当然、本物の手仕事の商品にまで悪影響を及ぼすことになりました。

その為、インクジェットプリントは「偽物製造機」「フェイク印刷機」として、負のレッテルを貼られ、本物思考の人々から嫌われ、業界は自ら墓穴を掘ったのです。

そして、技術と経験をもつ職人が減り続け、現在、染工場は職人の代わりにインクジェットプリンターを導入せざるを得なくなったのです。
ところが、一旦自分達で貼った負のレッテルを剥がすのは大変です。
自業自得とはまさにこのことでしょう。

結果、多品種小ロットでありながら薄利多売の生産を余儀なくされ、現在生き残った工場は必死に頑張っていらっしゃるようです。
あの時、業界全体が染色の新しい可能性に着目し、現代にふさわしい着物を世に送り出せていたら・・・・と、思うと残念で仕方ありません。


江戸時代末期から明治時代にかけて「型友禅」を広めブームを作った「廣瀬治助」はこんなふうに言っています。
「伝統の型を守りながら、今様を取り入れ常に新しいものを作り、現代の大衆に支持されなければ伝統文化は残らない」

この言葉は「不易流行」を表し、それは永遠不変の真理です。


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成願 義夫(ジョウガン ヨシオ)
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