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着物の『思い込み』と『常識』を疑ってみる。

以前、とある着物専門家の本を読んでいたら、女性の着物に関して気になることが書いてありました。

「ホッソリ、スラリ、見える着物の着方」について。

着物ファンなら興味のあるタイトルですね。

早速読んでみました。そこには4つの秘訣が書いてありました。

1番目は「まず、できるだけ身幅を狭く仕立る」とあります。
これは、理解できますが、限度の見極め方が難しいかもしれません。

2番目は「フキを厚く仕立る」とあります。
これは、「立ち姿をホッソリスラリ見せる効果がある」と書いていますが、正直、よく解りません。

3番目は、「裾柄はできるだけ低いものを選ぶ。理想は江戸褄模様」とあります。

これは、私も同感ですね。着姿のおはしょりから下に空間が広くある方が足は長く見えるからです。

そして問題の4番目です。
「縦縞は縦長に見えて、スラッとホッソリ見える」と書かれています。

これは完全に筆者の思い違いですね。

確かにある程度細身で身長がある方が縦縞を着たら縦縞柄は粋でおしゃれで、かっこよく素敵なのですが、縦縞には実は思っていることの全く逆の視覚効果があるのです。

本題に入る前に・・・・
人間の脳は実によくできていて、「真実を見る」ということ以上に、「見たいように見る」という性質を持っています。
いわゆる「認知バイアス」ですね。

言葉の「縦」は「縦に伸びる」や「縦長」を連想させます。
それが「思い込み(先入観)」となるのです。

だから鏡の自分を客観視できない場合があります。
特に縦縞は細く背を高く見せるという「思い込み」が強ければ、本人には、そのように見えるのです。しかし、他人は客観的にその人を見ます。他人の目を意識するならば、不本意な結果となってしまうのです。

真実を見るとは、冷静な客観的視点で主観を交えずに見ることです。
「見たいように見る」は人間の素晴らしい性質でもあるのですが、主観を優先して、時には真実を捻じ曲げてしまいます。


さて、以下の図A、B、Cの輪郭は、全て同じの正方形です。
そして、Aの横縞を90度回転させたものがCの縦縞です。

明らかに違って見えているはずです。問題はそれぞれの正方形の輪郭がどう見えるか?です。

これは則、身体のシルエットがどう見えるか?ということになります。

実際には想像とは逆に縦縞は横に膨張して見えてしまうのです。
スマホでご覧の方はモニターを90度回転させて見比べて見てください。
背が低くてポッチャリされた方が、ホッソリスラリを期待して着たら、結果は期待したことの真逆になる可能性が高いのです。

もちろん、縞の太細や縞の間隔、そして配色によって、その効果は高まったり薄れたりすることも事実です。

だからと言って、横縞を着なさいとは申し上げるつもりはないのですが、縦縞の真実を知っていて損はないと思います。

結果として、着物を着るご本人が縦縞は細く見えると信じて気分良く縦縞を着ている分には何の問題もいと思います。

しかし、着物を「作る人々」、「売る人々」、「着方を教える人々」が間違った常識に侵され、真実を知らないのは非常に問題だと思います。



写真の女性は若き日の宇野千代さんです。

宇野千代さん

作家であり着物デザイナーであった彼女は小柄な体型を着物でカバーする為に横縞の着物をデザインし、多用していました。

また、カジュアル着物に限って言えば「おはしょり」が帯の下にできるだけ出ないように仕立てて着ていました。

これは帯から下、つまり下半身を長く見せるための彼女の工夫です。

和文化デザイン思考 講師
伝統デザイン研究家
成願義夫

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成願 義夫(ジョウガン ヨシオ)
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