着物は健常者だけのものではない
何年か前、私の元にある女性から電話がかかって来た。
その女性は女子大生で、卒業式には振袖に袴姿で出席したいと言う。
彼女が通っている女子大は全員袴姿が恒例で、自分も着たいが呉服店やレンタル店が対応してくれず困っていると言う。
「それは、どういうことでしょうか?」
私は詳しい理由を尋ねた。
聞けば、彼女は小人症(低身長症)という特殊な体型だった。身長は137cm。肩幅やバストやヒップは普通の成人女性と同等サイズなのだが、極端に手足が短い。
その特殊な体型故に呉服店に対応できないと言われたらしい。
もちろん私に電話する前に呉服店には何店も問い合わせたが、全て断られたと言う。そんな呉服店ばかりではないはずだが、たまたま問い合わせた店が悪かったのだろう。
それでも、どうしても、みんなと一緒に袴姿で卒業式に出席することを諦めきれない彼女はインターネットで私の会社を探し当て、藁にもすがる思いで、私に電話をかけたと言うのだ。
悲痛な彼女の訴えに、何とかしてあげたいという思いに駆られ、「分かりました、お任せください」と、言ってしまった。
何とかしてあげたい一心で引き受けたものの、困った事に卒業式まであと一ヶ月しかない。
背が低いからと言って子供の着物が着られるわけでもない。身幅は大人サイズ、身丈が子供サイズだ。特に極端に手が短いのは難題だった。
どうすれば良いのやら・・・・・とにかく時間が無い。
困って、ふと子供用のカタログを見てひらめいた。
そうだ、肩上げをして裄を調節しよう!これなら袖幅が狭くなり過ぎない。しかし、袴も着物も一から作る時間はない。
そこで、既製品をリフォームして対応することにした。袴は裾を短くして彼女の寸法に合わせた。
着物はせめて好きな色柄を選んでもらいたいので、お得意先のプレタ振袖カタログから選んでもらい、長襦袢と振袖を取り寄せた。
そして、仕立て屋さんに無理を言って、急いで彼女のサイズにリフォームしてもらい、何とかギリギリで間に合わせた。
卒業式の後、彼女から一枚の写真と、2通の手紙が届いた。
一通は彼女から、そしてもう一通は彼女の母親から。
写真には友達と袴姿で晴々とした笑顔の彼女が写っていた。
母親の手紙を読んで、胸が熱くなり、思わず波が溢れた。
着物デザイナー 成願義夫