【サッカーW杯】なぜ日本は左サイドを起点にすると「ボール出し」ができるのか!? vsドイツ(後半)日本の攻撃を振り返る③
なぜ、日本は逆転できたのか!?
なぜ、日本はドイツ戦後半、残り15分で2得点して逆転勝ちできたのか!?
攻撃、特に「ボール出し」の側面から分析すると、
日本の「ボール出し」成功率:
前半の「ボール出し」成功率は 0%
後半の「ボール出し」成功率は50%(10回中5回成功)
5回の「ボール出し」の成功は、左サイドを起点にしたのが4回、中央を起点にしたのが1回、逆に右サイドを起点にしたのはすべて失敗となった。
前半、日本の「ボール出し」は存在しなかった。ほとんどのプレーがリスクを極力避け、「ダイレクトプレー」を選択した。とにかく低い位置でボールを失うことを避け、ミスで失点しないことに終始した。
この状況を見たドイツは、後半油断したのだと思う。日本はボールポゼッションができない、あとは追加点さえできれば勝てると思ったに違いない。
結果論であるが、偶発的な要素があるとはいえ、ドイツは日本の戦略にはまったのだ。
日本は後半の最初に富安が左CBに入り、右CB板倉、CB吉田と3バックを形成した。ドイツの4−2−3−1の「ボール出しへの守備」は、3バックに対応できなかった。
おそらく、ドイツは日本が3バックで「ボール出し」をすることは想定していなかったと思う。
なぜなら、それまでの日本は基本的に4バックであり、3バックを試したのはW杯直前の親善試合カナダ戦、それも試合の終盤残り10分程度試しただけである。誰も試合で使うとは思わなかったのだ。森保監督を除いて。
10分程度の少しの時間とはいえ、3バックを試すことができたこと、これが、ドイツ戦の勝利に直結したのだ。
ドイツの選手、監督、コーチ陣やスタッフも、カナダ戦を観て分析したと思うが、まさか日本が後半最初から3バックで来るとは思いもしなかったはずだ。
「勝利の女神は細部の宿る」の言葉通り、些細なことが勝負を大きく分けることになった。
今回は、W杯日本対ドイツ(後半)、日本の組織的攻撃における
行動:「ボール出し」について振り返り分析をする。
行動:左サイドからの「ボール出し」が成功
GKを含めた「ボール出し」と、フィールドプレーヤーだけのDFライン(ペナルティエリア前)から始まる「ボール出し」は、システムも選手の配置も異なる。
W杯日本対ドイツ戦データ詳細
なぜ3バックのボール出しは成功したのか!?
3バックの「ボール出し」はすべて左サイドが起点
3バックでサイドから「ボール出し」をするには、最初、中央にドイツの4−2−3−1の「ボール出しへの守備配置」を引きつける必要がある。
左サイド(左ハーフスペース含む)を起点にする場合、左ハーフスペースで左CB富安が前を向いてフリーでボールを受けることが大事だ。
左CB富安は「身体の向き」がよく前方180度がほぼ見える。
ボールは常に左足アウトサイドに置き、パス、ドリブルどちらもできる状況にあるので、相手を引きつけ意思決定をギリギリまで遅らせることができる。
後半53分の「ボール出し(アニメーション)」では、左PVに田中が配置され、左CB富安からの縦パスや斜め前方へのパスを受けることができる。
この状況で左PV田中は、ドイツのトップ下と右WGの間の背後にポジションを取り2人を引きつけ、左CB富安から左PV田中へパスを受けるスペースはないが、左サイド高い位置を取る左SB長友へのパススペースをつくりだした。
3バックの「ボール出し」、左PV鎌田が左CBに落ちる効果は!?
後半74分に成功した3バックの「ボール出し」は、鎌田が左PVに入り、遠藤とドブレPVとなっていた。
左PV鎌田は、左CB富安がCB吉田からボールを受けると、吉田と富安の間に落ちて、左CBのような配置を取る。それを察知した左CB富安はボールを左サイドへ運び、左SBのような配置へ移動した。
左PV鎌田が左CBに落ちる効果は、ドイツの4−2−3−1の配置を4−4−2のような配置に変え、ドイツのドブレPVと2トップの間にスペースをつくったことだ。
日本が3バックから4バックのような配置を取ると、ドイツの1トップではプレッシングが難しい(一人で2人のCBにプレッシングをかけることになるので)。
トップ下ホフマンは左PV鎌田が左CBの位置に入ったら、マークするしかないのだ。CFハバールは、CB吉田を監視しているので自然と2トップのような配置になる。
4−2−3−1は4−4−2よりも、左WGと右WGがトップ下と同じ高さを取るので、同サイドのWGとSBの距離が開く傾向がある(4−4−2のMFラインはフラットになるので)。
また4−2−3−1のドブレPVは両WGより一段低い位置にいるので、2トップとドブレPVの間にオープンスペースができる。
ドイツの4−2−3−1は、いつしか4−2−4のような「ボール出しへの守備配置」になった。
おそらく鎌田はそのようなことを念頭においてのプレーだ。
左WGB三笘が左SBに移動した富安からボールを受けると、ドイツ2トップとドブレPVの間に空いたスペースへドリブルしドイツのプレッシングを引きつけ、逆サイドへ展開、右CB板倉と右WG伊東がフリー。右CB板倉がボールを受け前進し「ボール出し」に成功。
右サイドからの「ボール出し」はできない! なぜ?
なぜ、右サイドからの「ボール出し」は機能しないのか!?
上の画像は52分の「ボール出し」だ。
理由はいくつかある。
右CB板倉の配置が少し右サイドに開きすぎて、ここから右サイド高い位置を取る右SB酒井へパスをすると、縦パスの傾向が強くなる。
サイドレーンの縦パスはなぜ悪い!?
サイドレーンでの縦パスは、受け手が前を向いてボールを受けるのが非常に難しく、後ろ向きでボールを受けることが多くなり、ボールを受けても効果的な次のプレーにつながらずボールを失いやすいのだ。
もし右CB板倉がサイドへ開かずに右ハーフスペースの位置から、右SB酒井へパスをすると角度ができるので斜めのパスになる。受け手は半身になり、グラウンド全体を見ながらパスを受けることができるので、次のプレーのための良い判断ができる。
右CB板倉はポテンシャルがあり素晴らしい選手で、これからの日本代表の中心になると思うが、身体の向きが悪いときがあり、前方の可能性を見逃すことがある。
右CB板倉がボールを保持しているこの状況では、右PVに田中が入っているので、例えば、右SB酒井にパスをして、その落としたボールを右PV田中が受けてボール出しを完了することもできたかもしれない。
もちろん、これは可能性の話であり、右CB板倉はドイツの激しいプレッシングでボールを失うことを予測し、プレーを変更したのかもしれない。
GKを含めた「ボール出し配置」は基本4バック
「GKを含めたボール出し(ゴールキック含む)」は、基本的に4バックだ。
右サイドからの「ボール出し」は失敗
「GKを含むボール出し」においても右サイドは機能しなかった。
上の画像を見ると、右CB吉田から右SB板倉へパス、しかしPV遠藤のサポートがない。
右SB板倉はドイツの左SBラウムと左WGムシアラの激しいプレッシングで「ボール出し」が難しい状況。
右SB板倉は、右CB吉田へバックパス。吉田は苦し紛れの「ダイレクトプレー(中盤を経由しない浮き球のロングパス)」を選択。ドイツにそのパスを取られる。
なぜ、右PV遠藤はDFラインを積極的にサポートしてパスコースをつくらないのだろうか。一つの大きな疑問である。
相手のプレッシングでボールを失うのが怖いのでサポートしないのだろうか。前半はリスクを極力避けたプレーをするという目標があったと思うので構わないが、後半は積極的なプレーで得点を狙っていたはずだ。
板倉がパスするかどうかは別として、PVがパスコースを提供しないと相手を引きつけることもできなく、他にパスコースを探すことが難しくなる。
チーム内で、PV遠藤にはゾーン1の「ボール出し」のときは、できるだけパスをしないという了承があったのだろうか。
中央からの「ボール出し」は成功
DFラインから戻されたボールをGK権田はフリーのPV田中へパス。
PV田中はトップ下ミューラーと左WGムシアラの間でボールを受ける。
ドブレPV田中と遠藤は、左右場所を変わりながらプレーをしている。PV田中は積極的にチームメートをサポートしてプレーしている。
PV田中はトップ下ミューラーをコンドゥクシオン(スペースへ運ぶドリブル)で振り切ることができれば、左サイドにスペースと数的優位(3対1)があり、さらに良い「ボール出し」、次に「前進」になったことだろう。
左サイドへ相手を引きつけ逆サイドへ展開する「ボール出し」
PV田中が左CBの位置に入ったことで、左CB富安は少し開いて左SBのような配置に。PV田中が左CBに入ることで、トップ下ホフマンを引きつけ、ドイツの「ボール出しへの守備配置」を4−2−3−1から4−2−4のような配置にさせた。
前述したようにドイツの4−2−3−1の「ボール出しへの守備配置」は、構造的にトップ下が前に出て2トップのようになると、2トップとドブレPVの間にオープンスペースができる。
ドイツのドブレPVの一人ゴレツカは左サイドへ移動したトップ下鎌田をマーク、左ハーフスペースのFWラインの背後のスペースにはPVキミッヒ一人だけになる。
左サイドでボールを受けた鎌田から、左CBの位置に入っていた田中は、この左ハーフスペースにできたオープンスペースへ素早く移動してボールを受け、ドイツのFWラインを引きつけ、フリーの左CB富安へバックパス。
この後、左CB富安から中央でフリーな右CB吉田へパス。吉田は前方のスペースへコンドゥクシオン、ボール出しを完了させる。
上の画像では、左SB鎌田がボールを受けたとき、GK権田がパスコースを作ることができた可能性がある。右サイドで右SB(右CB)板倉がフリーとオープンスペースを得ている。
PV遠藤は積極的に鎌田をサポートしない。誰かがボールを失った場合に備えてプレッシングの準備をしているのだろうか。
例えば、PV遠藤が前に移動すると、トップ下ホフマンはマークするだろう。しなければ、遠藤は前方のスペースで鎌田からボールを受けることができる。
トップ下ホフマンが前に移動した遠藤をマークすると、遠藤がいた場所がオープンスペースとなり、鎌田に次のプレーの選択肢が増える。
この状況の左SB鎌田は周囲にパスコースがないので、内側のスペースへコンドゥクシオン(スペースへ運ぶドリブル)、逆サイドでフリーになっている右SB板倉へ浮き球のロングパスでサイドチェンジ。
ボールを受けた右SB板倉はフリーでゾーン2へ前進する。
日本の「ボール出し」の「強み」と「弱み」
再現性か、それとも個人の即興性か!?
W杯 日本対ドイツ戦(後半)の「ボール出し」についてここまで振り返った。左サイドを起点とした「ボール出し」は成功することが多く、右サイドからは失敗した。中央を起点としたボール出しも1回成功した。
ただ、左サイドを起点とした「ボール出し」はデザインされた、チームで何回もトレーニングした組織的な「ボール出し」ではないと思った。(おそらく日本代表はトレーニングをする時間は限られているので、難しい面もあると思うが)
チームで「左サイドを起点として、相手を引きつけ逆に展開しよう」「PVがDFラインに入り相手のトップ下を引きつけ、FWラインの背後にスペースを作り、そのスペースを利用しよう」というキーファクターはあったにせよ、あまりにも個人の質に頼った再現性のない、その試合に出場している選手の個人能力と調子次第だというように見えた。
デザインされていない組織的ではない「ボール出し」やその他のプレーは相手にとって、プレーを読むのが難しく、その日、その選手の調子がよければ手がつけられないだろう。
しかし、個人の質に頼ったプレーには波がある。なぜなら個人の閃き次第だからだ。少しでも調子が悪かったり、周囲にいる選手と呼吸が合わなければプレーはうまく機能しない。
もし、ドイツ戦(後半)で、「ボール出し」がうまく機能しなかったら、選手は何を基準としてプレーをしたら良いのだろうか。
サッカーはチームスポーツである。サッカーは一人ではできない。
ボール保持者は、周囲にいるチームメートと連動しなければ良いプレーはできない。ボール保持者から遠くにいるチームメートは次に起こるであろうプレーを予測してポジションを取らなければならない。そのためにはチームにプレー原則や基準、約束事が必要である。
チームとして戻るべき基本的なプレー基準/原則を持たないと、選手はどうして良いかわからず途方にくれることだろう。
これからの日本の課題は、個人の質を上げることは当然必要だが、それは個々が自分のクラブで行うことで、日本代表としてはさらに個人の質を活かした組織的なプレーを次のW杯に向けて根付かせる必要がある。
W杯で優勝するために。
今回は、W杯日本対ドイツ(後半)の「ボール出し」だけの振り返り分析となりました。
次回は日本のドイツ戦後半の「前進」について振り返り分析をします。
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ポジショナルプレーを実践したい、知りたい、試合をポジショナルプレーの視点で分析したいという方に、選手4人がひし形(ダイヤモンド)を形成するダイヤモンドオフェンス でポジショナルプレーを見える化した本です。
また、この本を読むと、サッカーを構造化するとは、どういうことかもわかると思います。
よろしければ手にとって読んでみてください。