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なまはげを 書 にして贈る👹🖌(2)

🖌 次は句を作る為に

8月13日、次は俳句を詠んでくれる人への依頼だ。同じく「渋ラジっこあつまれ」のゲストに出てくれた、私と同じ渋ラジボランティアディレクターの古和田貴子さんにメールを送ることにした。古和田さんは番組の中で俳句について話してくれている。番組の中の話では毎日俳句のことを考えているとのこと。今も続いていると嬉しいのだが。
古和田さんと話すようになったのも「渋ラジっこあつまれ」という番組。古和田さんはこの番組で俳句についての熱さをたくさん語ってくれていた。

☛  渋ラジっこあつまれ|「渋谷のラジオ」|note

古和田さんには太田穂摂書作品展が1月東京日本橋で開かれている時にこの作品展を紹介させてもらっていた。自分が行って素敵な作品を観た時に古和田さんのことを思い出し、時間が合えば見てきてほしいと思った。この時もお久しぶりですという挨拶からで、本当に久々にやりとりをした。また今回も突然の依頼メールだったが、古和田さんも太田さんの書作品展をとても気に入ってくれていたそうで、すぐに快諾してもらえた。
俳句の世界には結社と言う(古和田さん曰く、少し厳しめの勉強会のような)団体があり、そこに今も所属して俳句を作り続けているそうだ。今回もとても嬉しいありがたい返事であり、本当は今月中とお願いしていたのに翌日には俳句五首を送ってきてくれた。

8月16日、太田さん古和田さん二人とのやり取りを同時にしていた。ありがたいことにご両人返信が早く、その日の内に話はとんとん拍子で進んで行った。五つの句を太田さんに送り、太田さんから二つの句に絞られてきて、私がその内の片方に決めさせてもらった。
やっと繋がりは、すぎもと → 太田さん → 古和田さん まで来た。
句が決まった。

「 なまはげの なかの眼(まなこ)や にっこりと 」 🖌 👹


🖌 句と書の合体

菓子「なまはげのおくりもの」
選んだ着物地と初めての書

8月19日、着物地と書を合わせた書作品のイメージの写真が太田さんからメールで届いた。表具があればこのまま完成できそうな素敵な作品に見えた。

「ちょうどいい布がありました 左の赤はぐるぐるぐる
紺色ですがキラキラ細い銀色の糸で筋が入っています いかがでしょうか
これ以外ですと綺麗なブルーとか、緑がかったのはあるのですが
なかなか純正の青はないのです
左のぐるぐる赤は最初から思いついていましたが
これに合わせるのは無地より横縞が幾何学的に面白いと思います
これでよければ作品のほう進めます」

その時の縦書き3行は「なまはげの なかの眼や にっこりと」だった。
着物地も2分割で写真どおりの左が赤色、右が青色だった。見るほど考えるほどこの句は「なまはげのおくりもの」をよく表していると思える。

「なまはげの」は文字通り なまはげのおくりもの を指してるし、「なかの」も「まなこ」も最中(もなか)と読み音が似ていて、「にっこり」は小さい っ をよけると「にこり」を連想。
なんだか不思議な暗号のようにも感じる。詠んだ古和田さん自身が気づかないままテーマのもっとも近くに存在していたこの句は、自然に詠み手の頭に飛びこんできたのかもしれない、なんていう考えが浮かんだ。
降りてきた、とでもいうか。

太田穂摂さんは書家であると同時に画家だと思う。書は画に通じる。今はまださらっと書いた下書きの段階だがこの先どんな風にこの作品が仕上がっていくのか、その過程が楽しみでならない。

中 を なか にと、おっしゃられた時に
実は冒頭の な、と2行目も な、が続くので
これは無理じゃないかなと思ったんですけど
とりあえず書いてみたら か で、幅広く取れたので
逆に寂しい感じの 中 より変化がついたと思って
こちらにしようと思います」


私が「眼」の他はひらがなが良いと言ったので「中」の字を変えることに悩まれたようだ。でも突破口が開いたと。さらに良くなったと。平凡な私が読んでもすぐには深い意味が解らない。でもアーティスティックな言葉だと感じる。
完成品を見ているだけでは伝わってこない制作過程の言葉を記せるのはnoteならではだ。こんな風にして上の写真のような組み合わせが決まった。若干斜めってる写真をパソコン機能を使ってそれらしくバランス修正。表具がまだだがこんな感じか。ここに立派な額が合わされると更に重厚感が出てくる、出来上がりが頭の中に描かれ始めた。

着物地は太田さんの手持ちから選んで提供してくれた。 いつもの書作品は1枚の着物地で作ることが多い。ただ、なまはげのおくりものは最初は赤色の胡麻味だけの製造だったが昨年(2020年)秋に青色の塩キャラメル味も出てきて二色になった。だから着物地も二色で考えてもらった。
早速太田さんから布の連絡があり、なまはげの赤と青のイメージにしてほしいと所望すると、幸いにも太田さんは先ず赤いぐるぐる巻の模様の着物地を考えてくれた。イメージにピタリと合う布が無い時もあるのだそうだが、さらに青い布を探すと紺色で銀の細いラメの横筋が入っているものを持っていて、赤のぐるぐる丸に対してラメの横線が図形的にも面白のではと提案してくださった。
私は二枚の着物地の組み合わせに一目惚れしてしまった。
これから太田さんは作品を書き込むそうである。配字や大きさ、作品は、その都度変わるのだそうだ。なぜなら生き物だからだ。どんな作品になっていくのだろう。きっとこれからが大変な作業に違いない。

8月20日、太田さんとはメールのやり取りが続いている。今日はお宝が手に入ったんだと太田さんから写真が送られてきた。呉服屋を営んでいた女主人が店を閉めたのでその着物の端切れを持ってきてくれたと。布を見てわくわくしている、と。写真のような普通は使い道の無い端切れを太田さんは大切に保存し、それをそのまま、または組み合わせて書作品に合わせる。最近でこそたくさん布が集まってきたが当初はほとんど来ないので以前は布からイメージを得て俳句や詩を探し作品にしていた。わかりやすく言うと桜の着物の布があれば桜の俳句や詩を探すという具合である。

色々な着物地とのご縁

太田さんは俳句や詩ばかりでなく、一般の人が読めない草書や続け字の作品も書かれる。とにかく何でも書ける。ご本人曰く、

「私は書の女優でありたい
作品の内容や布で演じ分けたい
俳句や詩、そして着物地が主役で
私の字は黒子でいいのである」

日常は今どきの字を書いているそうで、字が汚い、読めない、書道の先生には思えないと言われているとは、ご本人の弁。
・・・にわかには信じられず、ほんとにそうなのか? とは思うが。

ところで、このとりどりの端切れたちはどのように姿を変えてお目見えするのか。残念ながらすべてが作品になる訳ではないが、その中で書に合う端切れが選ばれ額縁と共に作品となっていく。
太田さんの所には自分の着物の端切れで作品を作って欲しいというオーダーが来る。「思いを着物に託して下さる居そうで居ない貴重な方」なのだそうだ。なまはげの句はどのように端切れと合わさりどんな作品に仕上がっていくのだろう。

8月22日、また新たなメールと写真が届いた。早くも太田さんからの草稿(下書き)だった。私たちにはよく分からない細やかな部分、「は」や「な」の文字などを少しずつ線の角度や長さを変えながら試行錯誤しているとか。このままどれかの形に収まり、更にまた書き込むのだと言う。

草稿、いろいろ

太田さんも毎日毎日この作品に関れるわけではない。他にお教室や自分の書作品展の作品も書かねばならないからだ。また、書の作品というものは一度にたくさん書き切ってしまうとコピーになってしまうと言う。手だけ動かしていると頭を使わないので何枚書いても同じになる。だから、その時々で気持ちの余裕のある時に1点、2点ポツポツと書き溜めて、その中で良い作品を決めるのだと言う。

「字は手で書くものではなく、頭脳と感性で書くもの
なぜなら人は運動場で 足のつま先で字を書いても同じ字が出てくる
人間の字はその人の頭の引き出しの中に収納されているのだ
綺麗な字を書くということは
各自の脳の引き出しの中の1文字1文字を美しく畳みなおすことである
その字の癖というのはその人の畳み方の癖である」

にこりさんへのお渡し目標十周年(2022年11月)まで、まだ1年以上ある。作品はゆっくり進めていただく。私はそれを note に記しながら完成を待つことにする。

8月29日、深夜にメールBOXを開くと1週間ぶりの進捗メールが届いていた。昨日私が「そういえば太田さんににこりさんのお店の写真を送っていなかった!」と気づいて送信したメールへの返信だ。そのメールには1枚の新しい写真も添付されていた。

太田さんにはにこりさんの店舗の外観、店内を含めた写真をネットから拾って10枚ほど送っていた。すると予定していた額のカラーを少し変えようと思うという返事が来た。思っていたイメージと少し違ったようだ。多分一般的に額の色を考える際には作品を基本に最も適した色や模様が選ばれるのだと思う。制作の過程では誰のどんな部屋に飾られるかまでは判らない。作品は展示会を経てその作品を気に入った人の手に渡っていくことが多いだろう。
逆に今回の作品は理に適ったとても贅沢な作り方だ。飾られる場所を頭に描きながら書く「五・七・五」の文字はよりその場所にフィットするだろう。洋服で言うとオートクチュールのドレスみたいな感じ。いやいや太田さんの書く文字と着物地だから純和風の作品のはずだ。私の思いも完成の日へと馳せる。

「にこりさんのお写真をありがとうございました
店内がオレンジ黄色で可愛いのですね
赤と紺色の組み合わせで額は黒にしようと思ってましたが
ちょっときついような感じもしてきました 茶色が優しいでしょうかね
なまはげの強烈なイメージしか持ってなかったので
どちらかと言うとなまはげというよりハロウィンのイメージですね
ぼちぼち考えます ご無理せずに残暑を乗り切ってくださいね
今日は作品、なまはげの「はげ」の組み合わせを考えてました
その写真をお送りします」

「はげ」

太田さんの制作風景の一コマから。
私たちは書を見ると何気なく書いているように見えるが書き手は神経を使うらしい。だが、その神経を使っていることが見えているような作品ではまだまだだと太田さんは考える。また、勢いだけで書ききったようなものも長く見ていると飽きるのであまり大げさな表現はしない方がいいかもしれないと考えている。あくまでも自然に見えるそんな作品を作りたいそうだ。
なまはげの「はげ」は、左側が縦角で同じように並ぶと単調になるので自然な変化をつけたいらしい。それを考えている、とのこと。確かに方向や長さが違っている。作者に聞かなければきっと素人の私ではそんな細かい部分まで気づけない。こういう制作途中の作者の考えを知ることができるのはこの note を記すメリットで、沢山の人にこの作品の過程が届けられるなら note の存在もまた大きい。


なまはげを 書 にして贈る👹🖌(3)に続く
なまはげを 書 にして贈る👹🖌(3)|すぎもとかよこ|note

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