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エンタメを美味しく摂取するスキル

 先日、兄と会話していたら「映画を観る力って人によって違う」「鍛えることで観る力が強くなる」という話題が出ました。

 今回はタイトルにありますように「エンタメを美味しく摂取するスキル」について考えていきます。

 エンタメは食事に似ています。

 それぞれ「咀嚼力そしゃくりょく」、「嚥下力えんげりょく」、「吸収力」、「排出力」に分けて考えてみましょう。


■エンタメを摂取する

 映画を観たりマンガを読んだりする行為は食事に似ています。

 美味しい料理を食べる。
 栄養を取り込む。
 料理に詳しい人にとって食事は、ただ食べるだけではなく、どのように調理されているのかも気になったりするでしょう。

 また、新しい調理法での食べ方を学んだり、栄養を逃さないように体内に吸収しやすくしたり、という具合に調理法や食事法によっても料理そのものの味わい方が変化していきます。

 エンタメの受け取り方や感想の書き方などを食事になぞらえて解説していきます。
 そして、その後「映画を観る力って人によって違う」「鍛えることで観る力が強くなる」について改めて考えてみたいと思います。



咀嚼力そしゃくりょく

 まさしく「かみ砕く力」です。
 よく噛んで食べないと吸収が悪いですからね。

 簡易的な物語(勧善懲悪など)は咀嚼力が弱くても飲み込めますが、難解な物語は咀嚼力が強く無ければかみ砕けない場合もあります。

 咀嚼力は自身で鍛えることも出来ますし、誰かにコツを教わることも出来ます。
 物語を分解したりカテゴライズして受け取りやすくする方法と呼べるでしょう。

嚥下力えんげりょく

 これは「飲み込む力」です。
 せっかくかみ砕くことが出来ても、飲み込めなければ意味がありません。

 量が多かったり、飲み込みづらい形状のものは飲み込む力が必要です。

 これまで接したことが無いジャンルや苦手なジャンルの場合でも、嚥下力が強いと飲み込むことができるでしょう。

「吸収力」

 飲み込んだあとは栄養分を吸収しなければなりません。
 吸収を邪魔された状態ですと、せっかく摂取しても自身の養分にはならず、そのまま体外に排出されてしまいます。

 読書や映画鑑賞をしていても、内容が頭に入ってこないという状況になったことがありますでしょうか。
 それらは吸収力が落ちている証拠です。
 心身の健康が大事です。
 よく寝ましょう。

 また、成分の理解度を深めることでも吸収力が変わってきます。
 物語を分解し、カテゴライズをしたり、似ている作品と比べたりすることで吸収しやすくなります。これは咀嚼力の強さが関わっているということです。

「排出力」

 食べたら出しましょう。
 体内に溜めたままではいけません。
 栄養を搾り取ったら不要なものを体外に排出しましょう。

 おなかに溜まったままだと次が食べられません。
 エンタメも同じです。
 誰かと感想を言い合ったり、感想文を書くことで脳内に溜まったものが出力されていきます。

 出力も鍛錬によって鍛えられます。
 いっぱい出そう!


■エンタメの食べ方

 以上のように、エンタメは食事に似ています。

 この項目では、僕がどのようにエンタメを食しているか例を挙げてご説明いたします。

「マンガが上手い」ってなんだろう

 マンガをほめる時に「マンガが上手い」と表現する場合があります。
 ここ10年くらいで一般化した表現だと思います。
 僕の感覚ですと、漫画評論家の夏目房之介氏の漫画批評が話題となった平成中期ころから漫画分析などが一般化し、その後「画力が高い」や「おもしろい漫画」とは違う褒め方として「マンガが上手い」という表現が発生した気がします。

 マンガが上手いかどうかを判別するには、他のマンガについても知っていなければなりません。
 例えば美味しいカレーライスがあったとします。
 このカレーライス1種しか食べたことが無い人と、100種類のカレーライスを食べ比べてきた人とが、この「美味しいカレーライス」を批評する場面を想像してみましょう。

 1種類の方は「このカレーライスが一番美味しい!」としか言えません。
 100種類の方は「味わい深さや具材とのバランス。また食べたくなるリピート性。他には無い独自性」なども批評し、「これまで食べてきたカレーライスの中でトップ5に入る」などと評することができるでしょう。

 つまり知識量や経験値と「マンガが上手い」と判別できる素養は比例関係にある、ということです。

 では「マンガが上手い」とは何か。

 それは、画力だけじゃなく、ストーリーの面白さだけじゃなく、コマ割りの斬新さや読みやすさだけじゃなく、セリフの熱さだけじゃなく……
 という具合にさまざまな要因が掛け合わされて出来ています。

 総合力とでも言いましょうか。
 まさにスイム、バイク、ランで競うトライアスロンのようです。
(ついにスポーツで例え出しちゃった。料理で例えろよ)

 映画も同様に「上手い映画」というのがあるでしょう。
 演技が上手いだけではなく、ストーリーの見せ方やカメラの配置や撮り方、編集の上手さ、音楽の使い方などなど。様々なものの複合体です。
 これらは自分の好き嫌いとは別の軸として存在します。
 自分に合わなかったり、思想が違ったとしても上手いものは上手い、ということです。
 これも料理の好き嫌いと似ています。
 美味しいであろうことは想像できるけど、食べたくない、と言ったような。


 ではいよいよ、僕がエンタメを見る時にどのようなことを考えているか。つまりどう味わっているか書いていきます。
 それぞれ3つの軸があり、「自分事」「社会性」「この世界」で見分けています。

軸1 自分事

 登場人物の誰かがまるで僕であるかのようにその作品世界で生きている。
 僕がこの社会を生きているように、僕がこの世界を眺めるように、その登場人物も生きている。
 こうした時、僕はその作品に強く惹かれます。

 映画で言えば『JOKER』のジョーカーや、『PERFECT DAYS』の平山です。

軸2 社会性

 作品を見て「確かにこの社会はそうなっているな」と感じられると、僕とその作品とが接続されるのを感じます。
 登場人物たちはそこに行けば実際に生きていると感じますし、俳優としての名前を忘却し、作中の人物名として認識されます。

 映画で言えば『ラストマイル』がそうです。
 「確かにこの社会はそうなっている」というのが強まるほどに、社会批評性も効果を発揮します。

 それは「いかに現実を正確にトレースしているかどうか」とはまったく違う軸であると認識することが重要です。
 例えば現実の政党名に似ているとか、現実の有名人に似た顔をしている、などを利用せずとも良いのです。
 舞台が動物園でも、幼稚園でも、火星でも、どんな設定でも、この社会を批評する力は発揮できます。

軸3 この世界

 「この世界軸」は軸1「自分事」、軸2「社会性」ともつながっています。

 エンタメには、この世界の真理を映し出しているかのような作品が存在します。
 僕の場合それは、哲学的であったりすることが多いです。
 映画『インセプション』の夢が入れ子状態になった構成や、ラストの演出。『マトリックス』が描く仮想現実を現実と思い込んで生きている人々など。

 故事の「胡蝶の夢」に惹かれるような、「人間万事塞翁が馬」に惹かれるような、そのような感覚です。
 キリスト教には「予定説」という思想があるそうです。天国に行くか地獄に行くか、生まれた時からすでに決まっている、という考えです。
 これらすべて「この世界は確かにそうなっている気がする」と思わせてくれます。

 エンタメ作品からこれらを感じ取ることがあります。
 20歳の頃に映画『CUBE』を渋谷の映画館で観たのですが、観終わって外に出ると、まるでこの世界がCUBEのように感じました。道を間違えると残酷に死んでいくこの世界を。

 以上、3つの軸で僕の味わい方を説明してみました。

 エンタメはただ摂取を繰り返すだけではもったいないです。
 作者の人生観ごと喰らい尽くすつもりで食べた方が美味い。
 ぜひ軸を意識してみてください。


■「映画を観る力って人によって違う」 「鍛えることで観る力が強くなる」

 さて、ようやく冒頭の言葉に戻ります。
 映画を読み解く力について。そしてそれは鍛えることで強くなることについて。

 エンタメは食事に似ているというところから、エンタメの受け取り方や表現の仕方について「咀嚼力」「嚥下力」「吸収力」「排出力」の4つに分類しました。

 そして次に、「マンガが上手い」とはどういうことを意味するのか考えました。

 最後に3つの軸として「自分事」「社会性」「この世界」をご説明しました。

 エンタメは食事と同じく、よく食べ、吸収し、排出するというサイクルを繰り返すことで成長していきます。
 肉体が成長するかのごとく、エンタメのインプット能力とアウトプット能力が育っていくのです。

 そしてさまざまな料理を食べるかのごとく、さまざまなエンタメを味わい尽くすことで、「エンタメが上手い」か否かを見抜くことが出来ます。
 美食家が舌で見抜くかのごとく、観ただけでエンタメの善し悪しを見抜くことができるようになります。

 さらに自分の中に評価の軸を用意することで、エンタメを観る時の観やすさや受け取りやすさが向上します。

 そしてこれらはエンタメだけに限りません。
 すごい人がなぜすごいのか。スポーツやテレビゲームはなぜすごいのか。この社会はなぜすごいのか。この世界はなぜすごいのか。
 すべてを自分の言葉で表現することができるようになります。

 つまり、人は成長が止まらない。止めようがない。勝手にどこまでも成長していきます。
 それは「エンタメを美味しく摂取するスキル」も一因なのです。
 エンタメを摂取すれば大きく成長できる。

 準備は整いました。
 エンタメに限らず、好きなものを食事のように美味しく摂取して、いろんな形で表現しましょう。

 美味しく食べているだけなのに成長し続け、しかも他の人もその魅力に巻き込むことができるなんて、とても楽しいではありませんか。


■最後に 過去の感想記事を

 最後までお読みいただきありがとうございました。
 映画やマンガを観る際のヒントになりましたら幸いです。

 ということで以前僕が書いた映画、マンガ、ドラマの感想記事のリンクを張っておきますので、併せてお読みいただけますととても嬉しいです。
 感想コメントもものすごくお待ちしてます。それはもうお待ちしてますよ。



 僕の人生の中でもトップクラスに大好きな映画です。
 映画を観慣れている人ほど刺さりやすい作品な気がします。



 ハチワレ激推しの僕。
 ちいかわ世界がいかに過酷で救いが無いかについて。



 伊藤沙莉さんの代表作だと思っています。
 毎年再放送すべき。


 映画、マンガ、ドラマから各ひとつずつリンクを上げました。
 僕のマガジンでは映画やドラマなど感想記事をまとめてます。
 それぞれお好きなジャンルを覗いてみてください。

 ここまでお読みいただきありがとうございました。
 良きエンタメライフをお過ごしください。




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