【映画】『ラストマイル』の先は死なのか 13個目の爆弾について
監督:塚原あゆ子さん、脚本:野木亜紀子さんの映画『ラストマイル』を鑑賞しました。
鑑賞前は『アンナチュラル』と『MIU404』の登場人物が出てくるって楽し過ぎるでしょ!と思っていたのですが、鑑賞後は作品からのメッセージの深さと重さを食らいました。
まず、商業映画として。とても面白い映画で観客も多かったですし、二転三転するストーリーも最後まで飽きさせない素晴らしいもので、大成功と言えると思います。
そして社会派映画として。僕はとても意義深いと感じました。そして重くて暗いと感じました。
◾️善と悪との社会派作品
『MIU404』第5話「夢の島」では、外国人の留学生が低賃金で働かされていることがテーマとなっています。
野木亜紀子さんの過去作を振り返ると、『フェイクニュース あるいはどこか遠くの戦争の話』以降、特に我々にとって身近なテーマを精力的に描かれている印象を抱きました。
我々の誰かが悪で、他の誰かは善で。でもその悪はとても見えにくい。なぜならそれは社会に組み込まれたシステムであったり、個人ではどうにもならない相手(資本主義)であったりするからです。
大きなものに翻弄されながら生きている我々は、何かのきっかけで悪の方に転がったり、運良く善側に傾いたりします。
『MIU404』では悪へと傾倒してしまいそうな人を善側に連れ戻そうとしたり、すでに手遅れだったことに絶望する物語でした。
『ラストマイル』公開前に何が描かれるのかを想像してみたのですが、ある意味お気楽だったと言えるでしょう。
本作はとても重く暗い印象を残す作品でした。
(繰り返しになりますが、商業映画としてはとても面白くてハラハラドキドキのエンタメ映画で、『アンナチュラル』と『MIU404』の登場人物が出て来る度にニヤニヤしてしまう感じで、ほんと最高でした!)
映画では『アンナチュラル』と『MIU404』の登場人物たちの活躍はほんの少しなので、ドラマを観ていない方でも十分映画を楽しめます。
ドラマを観てきた方はおまけで楽しさが倍増する、という程度です。ファンサービスという感じ。
では何が重く苦しいのか。
キーワードは「13個目の爆弾」です。
以下、『ラストマイル』の重大なネタバレは書きませんが、作品内容には深く触れます。鑑賞した方を対象とした文章となりますので、予めご了承ください。
鑑賞後にまたこのnoteでお会いしましょう。コメントお待ちしております。
◾️13個目の爆弾が爆発している
本作のテーマとなっている「過酷な労働環境」。
海外の巨大通販サイトの仕分け倉庫と、物流を担う日本の運送会社。
倉庫では日々出荷数の目標達成を上から煽られ、運送会社はさばき切れないほどの膨大な荷物を抱え込み、ドライバーは1個150円の単価で休憩時間を削ってまで多くの荷物を個人へ届けようとしています。
そんな中、配達された荷物が爆発。死者を出します。
爆破予告とも受け取れるCMを模倣した動画から、どうやら1ダース(12個)の爆弾が荷物に仕掛けられたとして捜査が始まります。
今回の爆破テロ事件の発端となった出来事。
それは通販サイトの大イベントであるブラックフライデーの前日に、「ベルトコンベアーを止められなかったこと」にあります。
命よりも優先すべきことが「お客様のため」という何にでも、どんな事柄にでも使えるマジックワードです。その社訓が産んだ惨劇と言えるでしょう。
作中では、犯人が仕掛けた爆弾は無事全て見つけることが出来ました。
幸い死者は1名のみ。どうやら犯人は人を殺すことが目的ではないようです。
結果、巨大通販サイトに対して運送会社の賃上げ要求が通りました。
巨大通販サイトは数百億円の損失となり、運送会社のドライバーは配達荷物1個につき20円アップとなりました。
めでたしめでたし、と言えるでしょうか。
ここに幸福が感じられますか?
作中、ドライバーの親子(火野正平さんと宇野祥平さん)が、以前はがんばれば月50万円は稼げたが、今は同じだけがんばってもその半分しかもらえない、となげきます。
荷物1個20円アップ程度では、人生を削り落としながら働き続けても月50万円にはならないのです。
なぜこの作品が重く暗いのか。
それは満島ひかりさん演じる舟渡エレナが上司に放った言葉に込められてます。
「爆弾はまだある」
(正確なセリフをご存知の方はぜひコメントください!記憶力悪過ぎて覚えてらんない!)
13個目の爆弾はどこにあるのでしょうか。
それは僕の中、みなさんの中です。
日々どこかで命の爆弾は爆発しています。
通勤電車への飛び込みという形で。
電車に飛び込み運行が停止するも、1時間ほどで運転再開をするような社会を我々は生きています。
社会のインフラを止めてはならない。確かに、電車が止まり困っているお客様のために、電車は再び動き出す必要があるでしょう。
ですが、散った命に対する向き合い方として、この異常なまでの対処の早さと合理性は正しいのでしょうか。
ベルトコンベアー=電車です。
ブラックフライデーのプレッシャーに心が壊れてしまった元センター長は、ベルトコンベアーを止めるために飛び降りました。ですが荷物を止めることは許されない。なぜなら「お客様のため」です。
命を賭けて止めようとしても、もう社会がそれを許してくれない。
この社会はもうとっくに異常です。
毎日のように13個目の爆弾が爆発しています。
まるで無差別テロのように。
いつの間にかテロリストとして洗脳され。
何かのきっかけで、爆弾の起動スイッチが入り、いろんな方法で爆発させられます。
◾️最後に
この映画は重く暗い。
なぜなら『アンナチュラル』や『MIU404』のようにすっきり解決してくれないからです。低所得者は低所得者のままだし、飛び降りた者は意識が戻らず、例え意識が戻ったとしても恋人はもう居ません。
もちろん、この映画が大ヒットをしたところで、運送ドライバーの生活が豊かになるわけでもないでしょう。
この社会はテロにより、いともたやすく壊れてしまいます。
ですがこの社会は壊れて止まることを許しません。
壊れたことを無かったことにして、また再び回り始めます。
せめて僕が出来ることは、「自分の中に13個目の爆弾が仕掛けられていることを自覚」し、そして「他の人の13個目の爆弾が起動しないよう人間として接すること」だと思いました。
『アンナチュラル』と『MIU404』と『ラストマイル』を観てきた僕なら絶対に出来ます。
ラストワンマイルの先が死であってはならないのです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
ぜひご鑑賞くださった方々のご感想もお聞きしたいです。
コメントお待ちしております。