無職回顧

涼しくなって秋めいた日差しを浴びると無職だった時のことを思い出す。転職活動するまで半年、実際に転職するまで11ヶ月仕事無し状態だった。

9月最終営業日に最後の辞令をもらって退職して、職場の仲間に見送られたほぼ24時間後には今の家に入居しているという計画的犯行だった。職場に退職意思を告げてから4ヶ月、家族にも友人にも知られることなく言わば亡命を完遂した。飛行機に乗って津軽海峡を渡った時、もう戻れないんだなと他人事みたいに思いながらも実感がようやく湧いた。

入居した日の夜は購入した寝具だけ届くようにしていたので、文字通り何もない部屋で一夜を過ごした。戻らないと決めて出てきたのに戻れないという実感だけが上積みされていく感覚があった。完璧に綺麗な新居と何もかも新しい景色の中、自分だけがまだあらゆる「古い」を身に纏っている感覚だった。仲間からの寄せ書きを側に置きながら眠った。

入居した次の日の昼に引っ越しの荷物が届いた。人と接している時は不安要素を忘れられていたので、引っ越し業者が帰った途端孤独になった。溢れかえったダンボールに塗れながら、そのままの状態で届いたソファーから暫く動かなかった。
取り敢えずテレビだけ床置きで設置して、見もしない番組を流して生活感を出したら少しだけ抜け殻感がなくなった。1年ぶりにTwitterを新アカウントで再開したら、「もしかして〇〇さんですか?」と言ってくれる方がいた。完全に新しい場所に来たのに昔からのご近所さんがいるような感覚がもたらされてかなり救われた。


そこから暫くは家具の設置や購入、役所手続きなど一日でやるべきことを一つずつ潰していく日々が始まった。家具や物を整頓していくと空間と一緒に脳内も整理されていった。仕事ではやるべきことがあんなに億劫だったのに、今では何かやるべきことがなければと思っているなんて皮肉だなと感じながら。
でもなくなってから気づくとは…などとは思っていなかった。今までおざなりにしていたものが、一旦全てを捨て去ったことでクリアになった気がしていた。生活を再構築していく感覚に新鮮味を感じるくらい、それまで生活を除け者にしていたんだと思う。

この時決めていたことがあった。①午前中に起きる②毎日掃除をする③一日一回は外に出る、ということ。今の自分に見習って欲しいくらい健康的だよ。と言っても午前中に起きてすることはゲーム、掃除は適当、外に出るのは酒を買いに…というもの。でも割とこのサイクルを乱さなかったことは、今考えれば肉体的にも精神的にも良かったのかなと思う。ただ無職=貯金取り崩しということと食に元々興味がなかったことが組み合わさって体重が激減した。この時の体重が成人してからの人生での最低記録である。


暫くは仕事をしないと決めていたけど、越してきてから1ヶ月後には何か仕事したいと思っていた気がする。でも事を急いだら本末転倒だと思っていた。自分に何が必要か分からないままでは、無職になった意味がないと考えていたと思う。
結果半年後にようやく転職活動を始めることになった。その約4ヶ月後に今の仕事が決まった。早いか遅いかは分からんけど、これが自分のペースだったんだなと思う。自分の存在意義が自分で掴めていない時期だったので、書類が通っても面接で落とされるとそれなりにダメージはあった。今でこそ「こんな会社こっちから願い下げだよ見る目ねぇなアホがよ!」と思えるものなんだが。人って変われるものですね。


無職時期に、こんなことしてて意味があるのか、それこそこんなに休養していていいのかという葛藤は当然のようにあったけど、その時点では意味なんか感じられなくて当たり前と今なら分かるかもしれない。というか、意味なんてその時点で感じられることの方がこれまで少なかった。惰性でも生きていたら、意味があると思える点に気がつかない内に辿り着いているのかも。気がつきたいし最初から分かりたいんだけど。ものによっては死んだ時に誰かが意味があるって思ってくれるのかもしれない。

転職活動を開始するまでの6ヶ月間は、自分を取り戻す期間だったのかなと後付けかもだが思う。楽しいことや嬉しいことを無意識に後回しにしてきたせいで、何が楽しくて嬉しいのかが分からなくなっていただけでなく、それを求めることが罪みたいに思っていた時期があった。誰よりもそれに焦がれていたのにね。これは子供の頃から癖で、自分で自分にかけていた呪いみたいなものかもと思う。今じゃ散財お化けだよ。呪いよどこいった仕事しろ。でもこうなれたのもこの期間があったから。

今やっと、今にフォーカスして生きていられる感がある気がする。ずっとできなかった今欲しいから買う、今したいからするということが、この年になってようやく出来てきた。ノロノロ歩みでの7年越しの変化。意味がなくてもいいやって思いながら多分意味があることを日々やっている。多分それに意味があるんだろうな、くらいの認識と臨戦態勢で、これからも潰れたらその時という前向きと後ろ向きプラマイゼロ!赤字になるよりマシ精神でやっていきたい。それが自分に合っているんだと分かるから。





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