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安いけどチープじゃないってスゴイこと

都営新宿線の曙橋の駅近くに「山さき」というとんかつ専門店がある。

地下鉄の駅の近くと言っても曙橋は極めて地味な駅。かつてフジテレビの本社があった頃にはにぎわっていた。
けれどそれももう25年も前のこと。
今では中小規模のオフィスビルとマンションが建ち並ぶ、都心にあって郊外みたいなのどかなムードが漂っている。
駅前というのがはばかれるような路地に面して店はあり、開業してまだ10年経たぬというのに老舗の風情を漂わす。
入り口脇にテイクアウトコーナー。

ズラリと並んだ料理を単品で買って帰ることも、弁当に仕立ててもらうこともできるというのがなんとも便利。隣には地元密着のスーパーがあるのも利しているのでしょう。流行ってる。
ちなみに向かい側はいきなりステーキ。いきなりステーキが「ある」というか「残っている」ということは家賃と集客のバランスがほどよくとれている場所ということでもありましょう…。

システムにたよるのでなく、人の力でおいしいものを提供するお店は、忙しくなりすぎると提供が遅くなったり仕事が雑になったりする。一時的に売上が取れたとしても、持続させることがむつかしく不人気になってしまうおそれすらある。だから「流行らせ過ぎない」「ほどよく流行る」ということが人気者であり続けるには大切なこと。

献立作りにおいても欲張りすぎないことが肝要。例えばここにはかつ丼がない。

かつ丼は安く売れるしテイクアウトにも適してて、作れば売れるに違いない。けれど揚げたかつを「煮るというひと手間」がかかってしまう。テイクアウト用のパッケージも用意しなくちゃいけないし、だから「ほどよい人気」を求める店には鬼門のひとつ。それにここの商品は十分安くて、かつ丼なんかなくても手軽にたのしめる。

ミックスフライ定食を選んでたのむ。

800円という手軽な値段。
お膳でドンっでなく、まず漬物とお茶とお箸がやってくる。
塩味がしっかりきいたゆずの風味の浅漬け大根。
飲みたい人はこれで十分飲める味。
絞り込まれたサイド商品の中でも秀逸なのが「わさび昆布」。
わさびの風味がビリビリ辛い昆布の佃煮なのだけど、ご飯のお供にいい上にこれでビールがおいしく飲める。
しかもたったの100円でというありがたさ。
大きなカウンターの中に厨房。テーブル席が4つほど。どこに座っても料理を作っている気配を身近に感じることができる設え、規模もいい。

ミックスフライはアジフライにエビフライ、串カツ一本でひと揃え。アジは分厚くふっくらやわらか。醤油をもらって油の風味をさっぱりさせてハフッと食べる。

玉ねぎと豚肉を交互に串に刺して揚げた串カツがメニューにあると、良心的なとんかつ屋さんだなぁ…、って思うオキニイリ。

甘くてしゃくっと歯切れてとろける玉ねぎに、むっちりとした豚の食感、そして味わい。いわゆるとんかつにはないたのしさがある。
エビフライのエビは加水をしない正直なエビ。甘み、香りがなんとも上等。鮮やかな色に揚がった尻尾が鮮度を教えてくれる。

千切りキャベツはみずみずしくて、アサリの汁は出汁が効いててしみじみ旨い

おしむらくはご飯の炊き加減がやわらかいこと。「すべてがいいとつまらない。ひとつぐらいは思い通りにならないものがあるくらいがいいんだよ」って硬めご飯が好きだったタナカくんが言っていました。なつかしい。


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