ウーピーゴールドバーガーとタナカくん
東京都内であればどこへでも原付で移動していたタナカくん。
1時間とか平気で原付を走らせていた。
大変じゃない?
そもそも退屈なんじゃないの…、って聞いたら歌いながらのればあっという間さって笑ってた。
ポルコロッソヘルメットをかぶって乗ってた。
紅の豚のポルコロッソが被ってたようなゴーグルと耳当てのついたヘルメットで、耳がすっぽり隠れるタイプ。
だからカナル型のイアフォンを片方だけして、オキニイリの歌を聴きながら運転するのネ。
聴けば自然と歌が口から飛び出してくる。
つまり、歌いながらの移動だった。
あるとき、家の近所で後ろから大声で椎名林檎の歌が聞こえてきて、ふりかえったらタナカくんが遠くに見えた。
上半身を揺さぶりながら歌う姿は気持ち良さげで、でもあまりの声のボリュームにちょっとは加減したほうがいいよ…、って言ったことがある。
そういえば近所のスーパーのレジのおばさんに「この前、お父さんが歌いながらバイクで横を通り過ぎていきましたよ」って言われたこともありました。
気持ちよくなると目をつぶって歌いそうになるから、目をつぶらないようにするのが大変なんだよ…、ってこともなげ言ってのけるところがらしいって思ってボクは目をつぶってました。
なつかしい。
そんなタナカくんが、ウーピーゴールドバーガーが心から愛して、ひとりでよくきていた理由があります。
意外な理由。
タナカくんらしいなぁ…、と思う理由です。
(多くの人に偲んでもらいたいと思い全体公開にさせていただきました。)
ハンバーガーでビールを飲めるかどうか…
お酒が大好きな人でした。
お酒ならばなんでも飲んだ。
ワイン、バーボン、ウイスキー。
日本酒、焼酎、ビール、ウォッカにジン、ズブロッカ。
ただお酒だけを飲むということはしなかった。
お酒は料理のお供であるべき…、それがタナカくんの考えで、例えばビールをたのむときもまず料理をたのんで提供されてはじめてたのむ。
乾杯ビールもひと口舐めたら料理がくるまで飲まなかったくらい徹底してた。
ウーピーゴールドバーガーにはじめて来て、テラス席に座った日。
その日は本当に気持ちの良い日で、太陽の日差しやさしくときおり吹いてくる風も心地よい昼下がり。
テーブルにつくなり、ビールを飲みたくなったって言ったほど。
ハンバーガーを注文し、コロナビールを所望した。
お店の人が「サイドのジャガイモはどうしますか」と聞くんです。
マッシュポテトかフレンチフライが選べるという。
タナカくんは迷わずフレンチフライを注文しました。
ならばとボクはマッシュポテトを選んでドライジンジャエールをたのむ。
注文を復唱し終えたお店の人に、「ビールはハンバーガーと一緒に持ってきてください」って付け加えるのも忘れずに。
ハンバーガーのお皿の上にある肴
ボクが注文したジンジャエールがやってきて、飲む?って言ったら、今、ビールをお迎えする口の準備をしているからいい…、って飲まないの(笑)。
しばらく待ってやってきたハンバーガーにウットリしました。
見た目も香りもおいしくて、なによりフレンチフライの甘いい香りが食欲さそう。
コロナビールにライムを搾って瓶に押し込み、グビッとひと口。
それからフレンチフライを食べてニッコリ。
シアワセだねぇ…、って言ってハンバーガーにむさぼりついた。
ハンバーガーもおいしくってネ。
でもボクのお皿の上のマッシュポテトがおどろくほどにうまかった。
ひと口食べたときのボクのリアクションがすごかったらしい。
曰く。
ガラスの仮面でヘレンケラーが「ウォーター」と発したときの北島マヤの演技みたい
いや、本当においしいよ。
食べてごらんよ…、っていいながらフォークにのっけたマッシュポテトをアーンって運んで食べさせた。
さぁ、困ったぞ…、どうしよう
さぁ、困ったぞ。
マッシュポテトを食べた最初のひと言がこれだったのネ。
おいしくなかった?って聞いたら、おいしすぎて困っちゃったって。
なんで困るの?って聞き返したら、だってこのマッシュポテトじゃビールがおいしく飲めないもんって。
みずみずしいマッシュポテトです。
茹でたじゃがいもを潰したばかりという感じで、水っぽさすら感じる食感。
刺身もビールを不味くするって言ってたほどのタナカくんでしたから、たしかにそういうこともあろうと思った。
その日は結局、ビールをおいしく飲むためにフレンチフライをメインに食べて、マッシュポテトのほとんどを食べるボクのことを恨めしそうにみてた彼。
食べ終わって、こう言いました。
ボクね、今日、いいことを思いついたよ。
原付移動のときにおいしいものを食べたくなったらここにくればいいんだよ。
だって、フレンチフライじゃなくてマッシュポテトを食べなきゃいけない。
マッシュポテトにビールは合わない。
だからビールを飲まなくて済むんだもんネ…、って。
飲む言い訳を思いつくのも天才的だったけど、飲み過ぎは体に悪いってわかってて、飲まなくてすむ理由をみつけたときには本当にうれしそうに理由を言ってた。
そういうときの彼の笑顔は格別で、今日、ウーピーゴールドバーガーを食べながら思い出したら泣けちゃった。
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