名古屋のなごや
駅弁。
日本の食文化の多彩で独特なことの象徴のような存在でしょう。
目にうるわしく、冷めてもおいしい。
地域地域に独特の食があって、特に幕の内なんて少量多品種という日本の食の特徴を膝や手のひらの上にのせることができるステキな提案。
ただ、最近増えてきた。ご当地モノをこれでもかと推すこれみよがしのJR系弁当地雷を踏まないように、慎重に探せばすばらしい弁当がそこここにある。
名古屋駅で売られている松浦商店の「なごや」がそういうお弁当の代表格。
父が好きだった駅弁で、買って食べるたび父のことを思い出す。
とても保守的で曲がったことは嫌いな人で、なのに正直すぎて最後の最後で大きく運命を曲げてしまった。しょうがないほど人間臭くて、手を抜くことが嫌いだった、そういう人が好きな弁当がおいしくないはずないわけで、ぎっしり並ぶ料理のすべてが変わったところはないけれどズルはしないで誠心誠意作られている。
名古屋起点の移動のときには買って二人で並んで食べた。
包みをとくたび、父地は「この駅弁が日本で一番旨いと思うんだ」と、小声でいう。その横顔はうれしげで、少年が遠足の弁当を食べる前のようなウキウキが伝わってきた。
エビがおいしい。
鮮度のいいエビを使って炊いているのでしょう。
炊いた出汁も薄味で、だからエビの甘みや旨味を心おきなくたのしめる。
食感ムチュン。足のところはサクサク崩れ、頭の中にはおいしい出汁が溜まってプチュリ。しっぽもカリカリ、食べられる。
俵に抜いたご飯の上に黒ごまに塩。守口漬がのっているのが名古屋的。
紅白のかまぼこ、筒に仕上げただし巻き卵。
甘辛煮込みの昆布にしいたけ、ご飯のお供に不足なし。
焼いた穴子でごぼうを巻いた八幡巻き。同じように鶏胸肉でごぼうを巻いたの、焼いた魚に紅葉の形の炊きにんじん。
砕いたあられを衣に使った魚のすり身の揚げ物ふたつと、味わい、食感、風味違いが多彩に揃う。
「なごや」という名前なのに味噌かつだとか手羽揚げだとか、エビフライとかいわゆる「名古屋グルメ」と言われる料理が一切入っていないところが特徴でもある。
ご飯のサイドに収められてる、守口漬がかろうじて、名古屋の弁当…、って感じがするのが控えめで好き。
お弁当の中にはいっていてほしい料理はもれなく揃う。普通のものが普通においしいとは、げに尊くてすばらしきもの…、となにかとても大切なものを教えてもらったような気持ちになるオキニイリ。
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