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大庵で秋の冷やし鉢、蕎麦を二種
なかなか本格的にならぬ秋。
新宿の蕎麦屋、大庵のメニューが秋のメニューに変わったというので、一足先の秋にする昼。のんびりとした昼下がり。
お気に入りの、窓に面したカウンターに差し込む光はすっかり秋の陽の光。夏のそれとは違ってやわらか。落ちる影もコントラストがやわらかで、水彩絵の具がにじんだように見えて気持ちがホッとする。
注文をするとまずそば茶。
それからそば前的な一品がつく。夏の間はずっとひじきの煮物だった。それが今日はやまくらげ。
コリコリとした歯ざわり、歯ごたえがたのしいそれに辛子明太子をたっぷりまとわせ、辛さに風味、そしてプチプチ魚卵がはぜる感じをたのしむ。お腹が燃えて、目を覚ます。
辛味大根そばをたのんだ。小ぶりの鉢に粗くおろした辛味大根がドサっと入り、タレも徳利にたっぷり並々。細い十割のそばは角がキリッと立ってて、ツヤツヤ見るからみずみずしい。
タレを注がずまず辛味大根だけをからめてそばを味わう。
辛い!
ビリビリヒリヒリ、頭を突き抜けるような鋭い辛味に口が瞬間、びっくりし、それでもそばをかみ続けると蕎麦の香りや持ち味、甘みが口に広がり辛味がおさまる。
タレをくわえて食べるとタレの甘みや旨味にくっきりとした輪郭がつき、わさびで味わう蕎麦とは違ったスッキリとした後口もよい。
辛味大根そばをほとんど食べ終わったタイミングで、秋の冷やし鉢がやってくる。
冷たくしたガラスの鉢に季節の料理が盛り付けられる。
鱧のつくねに栗きんとん。
茹でたオクラにシャキシャキに炊いた舞茸に、とろけるほどにやわらかに仕上げたれんこん。
料理はどれもキリッと冷たい。鱧のつくねは上新粉をまとわせ茹でてる。それでネットリ。鱧独特のむっちりとした食感をひきたて強い旨味にウットリします。
オクラにしても舞茸も出汁をしっかり飲み込んでみずみずしくて、冷たくしても味わい、風味が揺るぎない。季節季節に変わるここの冷やし鉢。冬にはどんな景色になるのか…、今からたのしみ。
〆は季節の変わり切り。今月の季節の蕎麦は、内藤新宿の唐辛子切りというのでワクワクしながら待った。
江戸時代にブームを巻き起こした内藤新宿唐辛子。400年ほども途絶えていたものが近年復活。唐辛子の中でも辛味がやわらか。ふくよかな旨味があるのが特徴という、その唐辛子を粉末にしてそば粉にまぜて蕎麦にする。
見た目からして辛さを感じ、食べると予想以上に辛くてけれど、蕎麦の香りを邪魔しない。辛いといっても辛味大根の突き抜ける辛さと違ってどっしりうねるような辛味がおいしい。
冷たい蕎麦を食べているのにお腹がポカポカあったかくなる。タレにそば湯を注いで飲むと、ほのかに唐辛子の辛味を感じておいしい余韻にウットリしました。オキニイリ。