冷麺のおかずに昼から肉を焼く
長春館でお昼を食べる。
新宿御苑の周りの並木もすっかり色づき、街は黄金色に輝くごとし。ペールギュントのソルヴェイグの歌をもじってそっと呟く。
春逝きて夏過ぎて、夏過ぎて。
秋も去て月経れど、月経れど。
きみが帰りをただわれは、ただわれは。
誓いしままに待ちわぶる、待ちわぶる。
あぁ、なんと今年の枯葉の儚く哀しいコト。
タナカくんと最後に来た焼肉の店がここだった。花見を終えていつものように蕎麦にしようと思ったらコロナで休業。他の候補も軒並み閉まって食いはぐれ、景気づけに焼肉喰おうとここにした。季節外れに寒い日で桜も蕾。代わりに網の上で花を咲かそうと、肉を並べてガンガン焼いた。これも粋だね…、ってニンマリ笑った2週間後に逝っちゃった。
春は過ぎ夏も過ぎて秋も終わりで木枯らしが吹く。季節は行ってもボクの気持ちは止まったままです。肉を焼く。
焼肉を食べるとき、焼くのはボクの役割でした。人が焼いているのをみると焼き方にあれこれ注文をつけたくなるから自分で焼く。
タナカくんとのときもそう。食べるスピード、状態に合わせて焼き方を変えなきゃいけない。だから食べてる顔をずっとみながら焼いていた。いつも向かい合わせで食べてても、ほとんど彼の顔をみることはないのだけれど、焼肉を食べるときだけは特別で、うれしそうに焼肉を食べる顔が今でも思い浮かんでほっこりとする。
そう言えば肉を焼きながら「老けたなぁ…」って言ったことがある。そしたら「お互いね」って切り返された。ボクらは互いを映す鏡にようなものだったんだってその時思った。なつかしい。
ランチは肉にサラダにキムチにナムルが松花堂スタイル箱に入ってやってくる。
ご飯にスープでひと揃え。
それにハーフサイズの塩モノをたのんで冷麺…、というのがいつもの食べ方で、ランチの肉は和牛カルビ。さしがキレイに入って焼くのがたのしい。
ハーフサイズのハラミをとって、脂と塩が炭で焼かれる風味を味わう。
炭で焼けばおいしくなるかっていうと決してそうではないけれど、芯が真っ赤に焼けた炭と煙というのがおいしい。焼けた肉をタレにくぐらせご飯に乗せて辛味噌添えてパクリと食べる。甘露なり!
そういえばここの辛味噌は小さなコテですくうようになっていて、これがいいアイディアだからって道具街まで買いに行ったことがある。探せば家に多分あるはず。どうだろう。
肉の油と焦げたタレ。風味豊かな辛味噌でご飯をおいしく育てつつ、お汁の代わりに冷麺食べるというのがここでのたのしみ。
なにしろここの冷麺は、まっこと旨い。すっきりとしてコクたっぷりの牛骨スープ。プルプルの麺。なにより具材がたっぷりで、酢漬けのスライスきゅうりであったりキャベツのキムチ、茹で卵。蒸してちぎった鶏の胸肉、白いネギに胡麻に松の実。
缶詰のパイナップルが不思議とおいしく、巨大缶詰チェリーいつも見間違うトマトもプチュと酸味を添える。そこに焼いたハラミを乗せる。脂がジワリとスープに溶け出し塩や胡椒が風味をつける。
チュルンと食べて汁まで飲んでお腹いっぱい。網のお焦げもおいしそう(笑)。
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