ステーキの市場と野菜の市場…、どちらが頼りがいがあるんだろう?
野菜を食べようとシズラーにくる。
今となっては決して不思議なフレーズじゃない。
シズラーと言えばサラダバーで有名な店だから、野菜を食べたいと思ったときにシズラーを思い浮かべるというのは自然ななりゆき。
けれど西新宿のこの場所。
西新宿の三井ビルの二階にお店ができたときにはそうじゃなかった。
28年前のコト。
それまでここにはロイヤルホストがあった。
全チェーンの中で売り上げトップクラスのロイヤルホストで、さまざまな事情から業態を変えた。
最大の目的は営業効率をあげること。
ファミリーレストランといえば営業時間が長くて当然。特にこの店は朝食がおいしいからと周辺のホテルの宿泊客から人気があった。オフィス街のど真ん中だからお茶をしながら打ち合わせという需要も多くて、でもその割に客単価をあげることがむつかしい。
ランチ、ディナーの時間帯に集中的に売り上げをとる。
まだ日本では未熟だったステーキ市場を狙おうと、それでアメリカのシズラーと提携します。
海外からの外食チェーンの進出ラッシュの時期でもありました。
だから簡単に集客できるだろうと思ったのでしょうけれど、これが案外、難敵でした。
アメリカでナンバーワンのステーキチェーンだという触れ込みも、当時の日本においてほどよくこなれた値段でステーキを提供していたにもかかわらずなかなか人気が出なかった。
試行錯誤します。
結果、彼らが発見したのは日本で成功しようとしたら「ステーキ」でなく「サラダバー推し」であるべきだったという事実。
ステーキを食べたいと思って行動を起こす人と、野菜を食べたいと行動を起こす人。
どちらがより大きい市場か?
これがステーキではなく「肉 vs. 野菜」と置き換えると圧倒的に肉を食べたい市場が大きい。
けれど肉の中には焼肉もありすき焼きもあり、牛丼もありハンバーグもある。
ステーキは大きな肉の市場の中の小さな一部。
だからステーキ推しでは競合相手があまりに多くお店選びの決め手になかなかなってくれない。
自分が売り物にしようとしている料理の市場は一体どれほどのサイズなのかをまず考える。そのサイズにふさわしい店のサイズや事業規模をまず想定してそこで一生懸命努力する。
それが商売の原理原則なんだけど、シズラーというブランドを手に入れ、しかも日本一のファミリーレストランがあった場所で商売をするという、その恵まれた環境に酔っ払って、冷静に自分の立ち位置を見極めることができなかったのがこのシズラーの最初の失敗。
サラダバーをメインの売り物にするにあたってサラダの品質を揚げる努力もした。
けれど一番わかりやすかった対策がサラダバーに値段をつけたということ。
週末のサラダバーは2280円です。
普通のお店のサラダバーは、メインディッシュをたのんでそれに500円とか1000円とかを追加するもの。お客様はどうせ500円だからこんな程度でもしょうがない…、とか、これで1000円はちょっとなぁと評価する。
でもそれならば、メインはいらないから500円でサラダバーだけ食べさせて…、って言われてもそれは無理な相談で、駄目って言われる。
ならいくら出せばサラダバーだけを食べさせてくれますかと聞いても答えはおそらくでない。
値段のつけることができないものに、仮の値段をつけて売るというのが大抵のサラダバーという代物で、日本の飲食店が都合の悪いことに対して使う「サービスだから」という悪弊の代表的なモノでもある。
シズラーではメインディッシュをたのまずサラダバーだけで満足して帰る人も結構いるほど。スゴいと思う。
サラダバーだけでも満足できるようにという工夫がしっかりなされているのがステキでもある。
例えば注文するとまずチーズトーストがやってくる。
気泡たっぷりの軽い仕上がりの食パンにチーズをまとわせグリドルの上でこんがり焼く。
チーズが溶けてサクサクに焼き上がり、あんまり食べるとせっかくのサラダバーがお代わりできなくなるって思ってもやめられない。
今日は2枚、焼いてもらってサクサク食べる。
スープはいつも3種類。今日のスープはシーフードガンボ。トマトの酸味と最後に残るピリ辛味で、お腹の入り口がパカッと開く。
サラダはいわゆるサラダ野菜と料理されたデリサラダに大きく分けることができ、どちらも種類が豊富でたのしい。
ちなみにドレッシングの中に「グリーンゴッデスドレッシング」というのがある。
おいしいものが大好きだったロイヤルホストの創業者が、トレーダーヴィックスというレストランで出会ってたちまち好きになったドレッシングをそのまま真似して導入したもの。ポッテリとしたクリームタイプで酸味、旨味のバランスのよい見事な名作。今日もたっぷり使って食べる。
メインのグリルは豚とサーモン。豚はサラダバーに900円ほど追加の値段。サーモングリルは600円。
豚のグリルはさっくりとした噛み心地と繊細な口溶け、上等な旨味は豚肉ならではで、もしかしたら牛肉よりも豚肉の方がおいしいのかもしれないなぁ…、って思ったりする。サーモンステーキは本当はサーモンを筒切りにしたのがこんがり焼かれているところをイメージしていたのだけれど、朝ご飯の鮭みたいな鮭でちょっと気持ちは下がる。あの筒切りサーモンって日本じゃなかなかみつからない。しょうがない。
主食も種類豊富に揃う。
茹でたリングイニがあってサイドにトマトソース。別の場所にタコスを作るための挽き肉、チーズにハラペニョがある。それらをあわせてベーコンビッツをふりかける。
茹でおきのパスタをおいしく食べるにはナイフで切ってマカロニみたいにするといい。茹でおきだからコシが抜けてしまっているを感じずソースをおいしく味わえる。
で、このトマトソースが酸味がキリッとしていて風味豊かでおいしくてそれでおかわり。たっぷりのアルファルファにかけてモサモサ食べてみた。そしたらこれが案外おいしくびっくりしちゃった。健康的にお腹が満ちる。
〆にフルーツ。スイカをたっぷり、パイナップル。初夏のひと皿みたいになった。このスイカが甘くてそれに比べてパイナップルが酸っぱくて、甘い、スッパイを行ったり来たりしながらお腹に蓋をする。いつもはソフトクリームを最後に食べるところ、今日はフルーツだけで〆。
伝票と一緒に丸いお皿に丸いアンケート用紙。担当者の名前がかかれて、小さなミントキャンディーが二個。昔からずっと変わらぬ食後のもてなし。オキニイリ。