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ご当地を売る、ふるさとを売る
ひさしぶりに「いちにぃさん」にやってくる。
銀座ナインという川に蓋して作った高速道路の高架下にある黒豚料理のお店でお昼。
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鹿児島に本店があって六白黒豚のしゃぶしゃぶ、あるいは蒸ししゃぶがたのしめる店。
昼はその名物の蒸ししゃぶを気軽に味わえる定食がある。
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六白黒豚。
100%バークシャー種の純粋黒豚。
黒毛に鼻先、4本の足先、尻尾の6ヶ所にに白い部分があるから六白。希少種です。
脂がおいしく、そのおいしさをこころおきなく楽しもうと思えばしゃぶしゃぶが最適。特にせいろで蒸しあげる蒸しゃぶだとスープにうま味が流れ出さないから一層おいしい。
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長方形のせいろに野菜をギッシリ敷き詰めて黒豚のせて蒸気を通す。
薄切りの豚肉がクシュっと縮んでツヤツヤ仕上がる。
脂がプルプル。黒酢に浸して食べるのだけどその黒酢のタレがおいしくて、しかも体にいいものを食べているって感じがするのがうれしい。
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野菜も生のものをただ置いているのじゃないんです。
豚肉がおいしく仕上がる時間に合わせてすべてのものができあがるよう、加熱時間がかかるものはあらかじめ熱を通す。
秀逸なのはキャベツ。
そのまま入れるととっ散らかって食べにくくうつくしくもないから茹でて折りたたみ長方形にしてせいろにのせる。
蒸し料理とかしゃぶしゃぶだとかを手間のかからぬ料理と思って手を出すお店があるけれど、手間をかけるかかけぬかで料理の品がまるで変わっていくのは他の料理と同じ。
いつもながら感心します。
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蒸し寿司があるのもうれしいところです。
小さな穴の空いた陶器の筒にばら寿司を入れ錦糸卵に生姜に青み。
寿司酢が蒸気でこなれてまろやかになる。
豚汁の味噌は甘めの麦味噌で、食べ慣れた南九州の味に気持ちがほっこりします。
鹿児島の味を楽しむことができる店。本店も鹿児島だから鹿児島料理を売りにしようと思えばできなくもないはずなんだけど、ここはご当地性を殊更強く押し出さない。
でもみんな鹿児島に旅行してきた気持ちになって帰ってく。
ご当地を売り物にする店は多い。
塚田農場なんて宮崎を売り物にして大きくなった。
けれどそれは原材料の産地であったり郷土料理の出身地としてのご当地であって、「ふるさと」じゃない。
偽物のご当地と本物のご当地。
「いちにぃさん」にくるたびその違いをしみじみ感じる。書いてみる。
どこでもない場所の鹿児島
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