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「司の字型」のカウンター。鮨いしかわ

ひさしぶりにとびきりの寿司を食べましょう…、と「鮨いしかわ」にやってくる。

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新宿駅の西口にある超高層のオフィスビルの地下。
レストランだけで構成されてるフロアで、ラーメン店とか日本料理に牛たんの店。気軽なお店がずらりと並ぶにぎやかなフロアの一番奥にひっそり。
漆喰壁に白木の柱、そして軒。生成りの暖簾に小さな看板。
控えめなのに凛とした風情の外観で、この店のまわりだけ別の空気が流れているような気配が上等。
ちょっと変わったカウンターをもった店です。
「司の字型」とでもいいますか。角の取れたL字型のカウンターの中に小さなカウンターがひとつ。炙り、煮物などの火を使う四角い作業台がおかれて「司」の文字になっている。

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大きなカウンターは3人まで職人さんが仕事ができる設えで、中の小さなカウンターは1人用。
だから忙しいときには4人が一斉に寿司を握る。
今日は途中で、そういう壮観にして勢いのある景色がみられた。
4人の手から次々作り出されるうつくしい寿司。
確実な目利きと見事な手際。
スピーディーなのに丁寧で、作られてすぐ口の中へとやってくる正真正銘の出来たてこそが、日本のゴチソウ。

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まずは貝をひと通りとお願いします。
分厚い赤貝はムチッと歯切れる。海藻を食べて育ったからなのか、ヌルンと軽く粘って昆布をなめたときのような強い旨味が口に広がる。ほんの少しの醤油で味が整う、海の旨味を味わってるよう。
ゴリゴリ、奥歯つたいに何かが壊れて砕けるような音が響いてくるつぶ貝。
さっくり歯切れて上品な旨味がにじむタイラガイ。形は同じようでいてとろけるほどになめらかで肉感的なホタテの柱。
分厚い肉がネットリ崩れて軽い渋みと金属をなめたようなミネラル分の風味独特なホッキに、アンモニア臭が不思議においしアオヤギと、貝の味わい、風味、食感の多彩なことにウットリします。

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小柱の軍艦巻きで貝の〆。サクサク歯切れる小さい柱ならでは軽快な食感を引き立ておいしくさせる海苔。
この海苔が本当においしくてせっかくだからとウニの軍艦。甘くてねっとりご飯の粒にからまりとろける。ここのシャリはスキッと酸っぱく自然な旨味で魚の持ち味を邪魔しない。

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マグロの赤身、中トロ、赤身の漬けをもらって食べ比べ。ひんやりとした赤身はサクッと歯切れてすっきりとした旨味がおいしい。同じ赤身も漬けにすると適度に水気がなくなってピトッと舌に貼り付くような食感になる。軽い酸味と濃厚な味。シャリとの相性も抜群で食べながらずっと笑いが止まらない。

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中トロは脂がおいしい。
口の温度でサッととけシャリと混じってとろけて消える。
上等な魚の脂はひきどきがいい。
口の中のものがなくなると同時に脂の気配もなくなりあとには旨味だけが残るというのが面白い。

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光り物を3種類。
身厚のコハダはむっちりとして歯ごたえがよい。
なによりネットリ光る艶っぽい姿がおいしい。
それからアジ。
ブリンとはぜるような食感たくましく、すりおろした生姜と刻んだネギの風味で味が整う。軽く酢〆にしたサバはホロッと崩れるように歯切れてほどけシャリと混じって脂が甘みに変わってく。
白身はカンパチ。ゴリゴリとした歯ごたえがなによりおいしい。
北海道から飛んできたというブリのハラミ。脂をたっぷり抱いた切り身でありながら、脂がスッキリ口溶けがよくペトペトとした脂独特の重たさがまるでないのにまたウットリ。
イカは甘くてやわらかで、噛めば噛むほどとろとろとろけて甘みもましてく。そろそろ〆に向かっていこうと、穴子を焼いてもらうことにする。

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司字型の厨房の「口」の部分に置かれた炭場で、じっくりこんがり焼かれた穴子。半分は塩、半分は甘辛タレをちょこんとつけて2つの味でたのしむ趣向。
塩が脂の旨味を引き立て、苦味、渋みがほどよいタレで焼けた香りが引き立つゴチソウ。そのタレで味わうタコもまたオゴチソウ。噛めば噛むほど旨味がでてきて、若い頃にはタコをわざわざ食べようなんて思わなかった。なのに最近、煮たタコをおいしく感じるコトにびっくり。随分大人になりました。

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冷たい緑茶をお供にずっと食べてきて、〆の巻物が出来上がっていくタイミングで熱いお茶が供される。口の中に積み重なった多彩な味わい、名残がまるで熱々の汁のように振る舞うたのしさ。鉄火にカッパでお腹に蓋する。小一時間の一本勝負。また参りましょう…、と席を立つ。


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