渋谷の福田屋。思い出の冷やしなすそば
寿司をつまむとなにか麺を食べたくなってしまう厄介な性分。
渋谷「福田屋」の茄子の冷やしそばを食べたいなぁ…、と思ってきてみる。
渋谷にあって渋谷にいることを忘れさせてくれるのんびりとした普通のそば屋。
今の渋谷で「普通であること」はむつかしい。いつきても昔通りでずっとかわらぬ普通なそば屋って貴重でとてもありがたく、よくきてた店。
そば前で飲んで〆るのもたのしくて、タナカくんも好きだった。最後に一緒に来たのはみぞれ混じりの雨の冬の日。飲んで食べ、近所のカラオケボックスで歌って笑った。なつかしい。
茄子が好きな人だった。
焼いても揚げても煮てもおいしい。特に甘辛醤油と出汁で炊き上げた煮茄子がすきで鍋いっぱいに作ってもあっという間になくなっていた。
それを冷やして冷たいそばの上にのっける。嫌いなはずがないゴチソウ。開店直後でお店は静か。テキパキ料理ができあがり、お待たせしましたとササッとやってくるのもありがたい。
深くて底がふくらむ形の大きな丼。
持ち上げると手にズッシリと重さを感じるボリューム感。
大根の鬼おろし。削ったばかりの鰹節に刻んだ大葉が山頂かざって目をよろこばす。
その下には茄子がぎっしり。そばをすっかり覆いかくして鎮座する。
立派な茄子です。
揚げて煮付けて油でツヤツヤ。よく煮込まれて箸で崩れてしまいそう。まずそばを食べようと箸でさぐって持ち上げてズルンと食べると、あぁ、おいしい。
細くてなのにハリがある。噛むとざくっと歯切れてバッサリちらかり蕎麦の香りを吐き出す。唇をスルンと撫でてくすぐる感じもにぎやかで、口が一気にすずしくなってく。
甘辛に煮た茄子の風味をほのかに感じる夏のゴチソウ。今年もめでたくありつけました。
なにより茄子がおいしいのネ。とてもなめらか、やわらかい。舌にのっけて上顎にそっと当てるとクチュッと潰れる。潰れながら甘い煮汁を吐き出してやさしく崩れて消えていく。前歯も奥歯も必要のない儚くやわく、なのに味わい力強いこと…、うっとりします。
茄子には辛味がピタッとよりそう。それでたっぷり七味をかけて、そばと一緒にズルンと食べる。歯切れて散らかるそばに茄子のとろけが混じってく。
家で煮茄子を作った翌日、煮汁がしみこんだ茄子と冷たいそうめんを一緒に食べるのが好きだったなぁ…、って思い出しつつズルリズルリ。途中で薬味のネギと生姜をくわえてズルリ。
普通のお店の大盛り分はゆうにあるだろうボリュームたっぷのそばがお腹にたのしくおさまる。丼の中には汁だけ残る。上にキラキラ油が浮かび、おいしい余韻にニッコリします。オキニイリ。
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