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一度は帳場に座ってみたい神田やぶ
神田淡路町には好きなそば屋が二軒ある。
一つは「神田まつや」。もう一軒は「神田やぶ」。
まつやのメニューは多彩。丼もある。一方、やぶの献立は絞り込まれていて極めてスリム。なにしろエビのかき揚げはあるけれど天ぷらはないといった具合。
だから、おいしい蕎麦を気軽なムードで心置きなくたのしもうと思ったときには「まつや」が最高。
けれど神田やぶには心地よい緊張感に満ちた見せ場がある。
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それが壁で隔てられた厨房と客席の間に存在している帳場。女将か主人が必ずそこに座っている。
どの客席に座っても厨房は見えない。けれど帳場に座れば厨房の全景が一目瞭然。料理は必ずお帳場の脇に出てくる。女将か主人がその出来栄えを確認してから客席へと運ばれる。
店主が店主としての責任をまっとうするための完璧な装置とでもいいますか…。
状況の掌握と状態の確認、そしてお客様への感謝を忘れさせないあの場所に一度でいいから座ってみたいと来るたびウットリしながら蕎麦を待つ。
やまかけと天抜き。
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それがいつもの注文です。
キリッと〆た冷たいそばに出汁をまとわせ漆のお椀にクルンと収める。
上からタレで風味をつけた山芋とろろをたっぷり、蓋するようにかけて仕上げる。
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そばをたぐると一緒にとろろがついてきて、口の中はとろろでまみれる。
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そのなめらかとポッテリ感はまるで山芋とろろが麺の形になって口の中へと滑り込んできたかのよう。
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エビのかき揚げをそばつゆに浮かべた「抜き」。
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ふっくらとした軽い衣の上にチリチリ、天かす状の乾いた衣。刻んだ三つ葉も風味を添える。汁を吸い込み衣がポッテリとろけて崩れる。天ぷら油の香りとコクが汁に混じってなんとおいしい。
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天ぷらそばのおいしさのほとんどが衣の含んだ油と汁にあるんだなぁ…、としみじみしながら汁をごくり。山かけそばをズルリと味わいまたゴクリ。かき揚げの底からかまぼこが浮かび上がって、器の中の汁はポッテリ。天ぷらポタージュのようになる。
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お腹も満ちてそば湯で〆。お腹をあっため席を立つ。