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丁寧が作るゴチソウ、小いわし丼の贅沢

贅沢な食材を使えば料理は贅沢になる。
でもそんな贅沢が粋かというと、案外、かっこ悪い料理になってしまったりすることがある。
ありふれた食材を丁寧に扱い、手間をかけることでできるゴチソウ。
しかもそのゴチソウに、手間や手仕事のことを考えると申し訳なくなるような値段がついているとしたら、食べずにすませることは勿体なすぎて申し訳なくなっちゃう。

「安芸路酔心という広島料理店の「小いわし丼」がそういう料理。

新宿の伊勢丹会館にあります。
本店は広島で、釜飯がおいしいことで昔から有名。
ボクの父が飲食店を四国、中国地方で経営していた頃、めざしたチェーンのひとつで、ここの釜飯の味付けや炊き方を勉強に行ったこともあるんだなんて話をしてた。
ある意味、ボクら家族の舌を作った店でもあって、今でも食べるとどこかなにやらなつかしい。

いつきても空気おだやか。和服をキリッと着こなした仲居さんたちのキビキビとしてやさしい仕事にニッコリします。
夏近しというコトなのでしょう…、黒い着物に白い帯。着物の生地は紗で透け感がさわやか、軽やか、涼しげでよい。
いらっしゃいませと分厚いおしぼり、お茶が届いてちょっと待つ。

目当ては今日の話題の「小いわし丼」です。
足の早いカタクチイワシを生のまま使って作る丼で、イワシそのものの入荷が無いと作れぬ料理。
季節によっては入荷自体が無いことがあり、春から夏にかけての今が脂がほどよくおいしい季節。だから入荷されることが多いけれど、それでもぼやぼやしてると売り切れちゃうこともあったりする。
瀬戸内海で今日取れて、空を飛んでやってきて今日の分を今日使ったらもうおしまい…、ってなんて潔くって贅沢な料理だろうなぁと、入荷の札を見つけると思わずふらりと寄って食べちゃう。
今日もそう。

小いわし丼という名前ながら丼でなくお重でやってくる。汁に漬物と三点セットで980円。
正直だなぁ…、と思います。
小鉢や副菜をつければもっと高い値段がとれるはず。
けれど、この丼をたのしみにしてくれる人は数多く、気軽な値段で提供したいとそれでほぼ丼だけで勝負する。
ありがたいな…、と思います。

お重の蓋を開けると中はキラキラしてる。
カタクチイワシの体の色です。
皮は明るい銀色で身は明るい飴色というコントラスト豊かなキラキラ。刻んだネギがたっぷりちらかり針生姜。
手間のかかる料理です。
小さなイワシの体をやさしくなでて細かな鱗をおとし、指でしごいてワタをとる。きれいに洗って臭みを流し、それを乾かし醤油に浸す。
水気をしっかりとっているからゴクゴク醤油を吸い込んで、肉の食感もネットリしてくる。ご飯の上にきれいに並べて仕上げていく、その丁寧で入念な仕事が贅沢。

お重の角近くに箸をそっと縦に入れ、ご飯を角に押し付けながらゆっくり上に持ち上げるとご飯と一緒にイワシとネギが持ち上がる。食べるとむっちり、ご飯と一緒にイワシがとろける。小さいくせして存在感は抜群で刻んだネギのシャキシャキがイワシの食感ひきたてる。
瀬戸内海の醤油は旨い。甘みもほどよくその味わいと風味だけで味が整う。ご飯にたっぷり醤油が染み込み、イワシの脂の旨味が口に広がっていく。

ゴチソウです。鮮度と手仕事、丁寧と誠意が生み出す贅沢にウットリしながら味わい、食べる。出汁をとるため使った昆布を炊いた佃煮。刻んだ柴漬け。豆腐とわかめの味噌汁と、どれもが丁寧。そしてボクの食べて育った料理の味がたのしめるのがオキニイリ。

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