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ソーシャルワークを極める講義NO.7 公的保険制度と民間保険制度



今回の内容は、YouTubeで視聴できます。


1.保険の種類


まず保険にはどのようなものがあるかを確認しておきます。

保険には、社会保険と民間保険があります。

公的保険制度としての社会保険には、
①年金保険
②医療保険
介護保険
④労災保険
⑤雇用保険
の5つがあります。

これらは、公的な費用負担により、被保険者や被保険者の被扶養者が、高齢、疾病、介護、労働災害、失業などのリスクに備えるための制度になります。

これに対し、民間保険制度としては、
①第一分野の生命保険(死亡保険)
②第二分野の損害保険(自賠責保険や任意の自動車保険、火災保険、地震保険)
③第三分野のその他の保険(定期医療保険、終身医療保険、特定疾病保険、介護保険、就業不能保険など)
があります。

あと、民間保険の一種として、共済というものもあります。
例えば、JA共済とかがあります。
共済というのは、限られた範囲の組合員どうしの助け合いの仕組みになります。


2.保険の仕組み


そもそも保険とはどういう仕組みのものか、ということです。

保険の定義を見ておきます。

保険とは、偶然に発生する事故(保険事故)によって生じる財産上の損失(リスク)に備えて、多数の者が金銭(保険料)を出し合い、その資金によって事故が発生した者に金銭(保険金)を給付するための制度です。

要するに、リスク(危険)を分散する、あるいは、リスクをプール(共有化)する仕組みが保険になります。
月々の保険料を支払っていると、いざというときに大きな金額を給付してくれるので、助かるわけです。
ですから、少ない保険料で「いざとなったときの安心を買う」仕組みとも言って良いでしょう。

例えば、月々1000円の保険料を支払えば、重度の後遺障害を負った時に1000万円の保険金が給付されたりするわけです。

この保険の対象も決まっています。
保険の対象は、一定の確率で発生することが予測されるリスクです。
そのリスクが、いつ、誰に発生するかは、誰にもわからない。
つまり、各人が制御できない、コントロールできないリスクが対象になります。
だから、故意に発生させる場合は保険の対象になりません。

では、図で説明します。


この図は、保険の基本構造を示したものになります。

保険には、保険者と被保険者がいて、保険集団を構成しています。
被保険者、これは、保険加入者です。被保険者は、多数います。Aさん、Bさん、Cさん、その他多数という感じです。

被保険者が保険者に対し、保険料を支払って、保険者が管理します。
保険者は、保険料の納付を受け、保険給付などのいわゆる保険事業を行うものになります。
そして、例えば、Cさんに保険事故が発生した場合に、Cさんが保険金の請求をすれば、保険者から保険給付が行われるわけです。
これが保険の基本構造になります。


3.社会保険と民間保険の違い


ここでは、各項目毎に社会保険と民間保険の違いを確認していきます。

特に民間保険との比較を通じて社会保険の特徴を押さえることが大事になります。


(1)加入の仕方


社会保険は、法律により強制加入になっています。
また、加入後も自由に脱退できるものでもありません。

これに対し、民間保険は、任意加入になっています。



第31回第50問の選択肢

日本における社会保険と民間保険に関する問題で、「社会保険では、各個人が自由に制度に加入・脱退することは認められていない。」〇か✖か







この選択肢は、正しいです。



(2)原理


社会保険の原理は、社会的公平性(社会連帯)になります。
つまり、社会保険の原理には、個人的平等よりも困っている人に対処できる方がよいという支え合いとか、助け合いの考え方がベースにあります。

これに対し、民間保険は、助け合いとかではなくて、個人的公平性が原理になります。
つまり、リスクが少ないのに保険料を高く支払う、あるいはリスクの高い人と同じくらい保険料を支払うのは不公平であると考える考え方がベースにあります。これは保険数理上の公平性という考えに基づきます。

では、ここに保険数理上の公平性について深掘りしておきます。

保険というのは、統計学、あるいは、確率論を使いながら、仕組みを回していきます。
例えば、リスクが10倍の人は、10倍の保険料を支払わなければならないというのは、保険的な数理(数学)上は公平な考え方になります。
これを別の視点で考えると、他の人のことを考えず、一人の人に焦点を当てて、メリットとデメリットを考えるという意味で、個人的公平性とも言ったりします。
例えば、交通事故を起こす確率が1%の人の保険料が1万円であるとすると、交通事故を起こす確率が10%の人の保険料は10万円になるという考え方をするわけです。
これは、リスクが高い人ほど、保険料をたくさん支払わなければならないという仕組みです。

みなさんも経験があるかもしれません。車の自損事故とかで自分の保険を使うと保険料が上がってしまう。なので、保険を使うべきか否か?どうしよう。保険を利用して修理をすべきか、自腹で修理をすべきかと悩んだことはありませんか。

民間保険というのは、使えば使うほど保険料が上がるというシステムになっているわけです。リスク確率10倍の人は、10倍の保険料を支払う。こういうのを給付・反対給付均等の原則と言います。
反対給付というのは、保険料のことになります。
民間保険は、給付・反対給付均等の原則が特徴です。



第31回第50問の選択肢

日本における社会保険と民間保険に関する問題で、「民間保険では、加入者の保険料は均一でなければならない。」〇か✖か







この選択肢は、誤りです。
民間保険は、助け合いとかではなくて、個人的公平性が原理になります。つまり、リスクが少ないのに保険料を高く支払う、あるいはリスクの高い人と同じくらい保険料を支払うのは不公平であると考える考え方がベースにあります。こういうのを給付・反対給付均等の原則と言います。
よって、民間保険では、危険度に応じて保険料が決定されるので、加入者の保険料は均一でなければならないという部分は誤りになります。



第31回第50問の選択肢

日本における社会保険と民間保険に関する問題で、「社会保険は、各被保険者の保険料とそれにより受け取るべき給付の期待値が一致するように設計されなければならない。」〇か✖か







この選択肢は、誤りです。
選択肢にある、各被保険者の保険料とそれにより受け取るべき給付の期待値が一致するように設計されなければならないというのは、給付・反対給付均等の原則の説明になります。
給付・反対給付均等の原則については、民間保険の制度設計に見られる特徴になります。
社会保険はリスクに応じて保険料を決定するのではありません。国民年金のように一定の保険料が徴収されるもの。それから、厚生年金や健康保険のように所得に応じて徴収が行われるというものになります。



第35回第50問の選択肢

日本の社会保険に関する問題で、「民間保険の原理の一つである給付・反対給付均等の原則は、社会保険においても必ず成立する。」〇か✖か







この選択肢は、誤りです。
給付・反対給付均等の原則とは、加入者の保険料は均一ではなく、その人のリスク発症確率に見合ったものでなければならないというものです。確率が違う人を同じ扱いにするのは不公平だからです。
しかし、社会保険制度では、所得再分配の機能もあることから、保険料は、その人のリスク発症確率に見合ったものでなく、所得に応じて負担する仕組みになっており、「給付・反対給付均等の原則」が修正されています。



(3)請求権等の権利根拠


社会保険の権利の根拠は、法律です。
ですから、法律を変更すれば、権利の内容が変わっていきます。

これに対し、民間保険の権利の根拠は、契約になります。
ですから、権利の内容を変更する場合には、被保険者の同意が必要になってきます。



(4)市場


社会保険の市場は、政府が独占しています。

これに対し、民間保険の市場は、民間企業間の競争になります。
大手だと、日本生命、東京海上、損保ジャパンとか、三井住友とかがありますが、このような企業間で競争しています。



(5)保険の費用


社会保険の費用は、被保険者の保険料と公費による負担や補助になります。

ここで保険料負担のルールにも触れておきます。

社会保険の場合、勤め人の保険料は、給与に比例します。
ここでは、所得再分配が行われているわけです。

例えば、保険料率10%で考えてみると、
月々40万円の給料の人は、月々4万円の保険料を支払うことになります。
月々100万円の給料の人は、月々10万円の保険料を支払うことになります。
所得が高い人ほどたくさん保険料を支払うことになるわけです。

要するに、所得再分配の機能があって、元気な高所得者(低リスク者)の保険料を、病気がちな低所得者(高リスク者)へ保険給付という形で分配するという形になります。

そして、被保険者から徴収した保険料だけでは運用することが難しいという事情とか、所得再分配という点から、公費負担や補助という形で税金の投入による調整もあります。

これに対し、民間保険の費用は、被保険者の保険料のみになります。また、所得再分配はありません。



第35回第55問の選択肢

公的年金制度に関する問題で、「厚生年金保険の保険料は、所得にかかわらず定額となっている。」〇か✖か






この選択肢は、誤りです。
社会保険の場合、勤め人の保険料は、給与に比例します。
厚生年金の保険料は、被保険者の標準報酬月額と標準賞与額のそれぞれに保険料率をかけた金額になります(厚生年金保険法第81条第3項)。



(6)財政方式


社会保険の財政方式は、積立て方式(現役世代が払い込んだ保険料を積み立て、老後にそのお金を受け取る仕組み)と賦課方式というものがあります。

賦課方式は、今の高齢者のために今の現役世代が保険料を支払うというものになります。

賦課方式によって「世代間扶養」が実現できるようになります。
ただ、今の現役世代の負担は結構大きいものになってきていますので、これはこれで考えものだと言われているところであります。
2022年、令和4年には、65歳以上の高齢者1人に対して、現役世代が2.0人、という比率になっています。



令和5年版厚生労働白書によりますと、我が国の総人口は、2020年で、1億2615万人となっています。
年少人口(0~14歳)、生産年齢人口(15~64歳)、老年人口(65歳以上)は、
・年少人口が1503万人
・生産年齢人口が7509万人
・老年人口が3603万人
となっております。

総人口に占める割合は、それぞれ12.3%、60.0%、27.7%となっていて、1:6:3の割合になっています。

日本の公的年金制度は、戦後、積立方式でスタートしました。しかし、政府の年金運用の失敗などもあり、その後賦課方式に事実上移行しています。

これに対し、民間保険の財政方式は、完全な積立方式になります。


(7)経済変動があった時の耐性


社会保険は、物価が上がるインフレに強いという側面があります。
1973年のオイルショックに伴う急激なインフレ(物価上昇)に対処するため、1973年の厚生年金保険法等の改正によって、物価の変動に応じて支給額を改定する物価スライド制賃金スライド制が導入されました。
ですから、社会保険においては、物価スライド制、あるいは賃金スライド制という形で、物価が上がった分、あるいは賃金が上がった分、保険金も上がるという形で対応できる形になっています。
物の値段が上がり、物価が上昇すると、年金生活者の場合、年金額が相対的に目減りします。インフレによって受給額の実質価値が少なくなると、年金生活者の生活が不安定になりかねないわけです。
そこで、インフレ対策として、日本は、物価スライド制等という年金制度をとっています。これは、毎年の物価上昇に応じて、年金支給額を自動的に引き上げるというものになります。
具体的には、全国消費者物価指数に合わせて、次の年度には、自動的にその分だけ年金額を増やす。これによって年金生活者の生活水準を保つことができるわけです。

これに対し、民間保険は、スライド制でない場合がほとんどなので、インフレに弱いわけです。
例えば、物価が10倍に跳ね上がるというインフレが起きた場合、保険金はそのままなので、何かリスクが起きてお金が支払われたとしても、10分の1しか価値が無くなってしまうことも起こり得るわけです。



第30回52問の選択肢

公的年金制度の沿革に関する問題で、「オイルショックに伴う急激なインフレに対処するため、1973年(昭和48年)改正により、厚生年金の給付水準を一定期間固定することとした。」〇か✖か








この選択肢は、誤りです。
1973年(昭和48年)の厚生年金保険法等の改正によって、厚生年金の給付水準を一定期間固定することにしたのではなく、物価の変動に応じて支給額を改定する物価スライド制や賃金スライド制を導入しております。



(8)人口変動があったときの耐性


社会保険で財政方式が賦課方式の場合、今日のように少子高齢化の社会になって、現役世代が少なくなると多数の高齢者を支えきれなくなるという面があり、人口変動に弱いという点があります。


これに対し、民間保険では、財政方式が積立方式なので、人口変動には影響を受けません。



(9)保険料の減免制度の有無


社会保険には、減免制度があります。
減免制度には、低所得者に対する保険料の減免制度があります。

例えば、国民年金では、生活保護の生活扶助を受ける場合、障害基礎年金の受給権者である場合などは、法定免除として保険料が全額免除される制度があります。
法定免除は「国民年金保険料免除事由(該当・消滅)届」を提出すると、国民年金保険料が全額免除される制度です。

また、保険料の納付が困難である場合等を対象とした申請免除という制度もあります。
この制度では、本人が申請書を提出して承認を受けると保険料の全額もしくは一部が免除となります。

法定免除と申請免除の違いについて

申請免除では、免除承認前に納めた保険料がある場合、申請免除ではさかのぼって免除されず、保険料の返還はありません。
 
これに対し、法定免除の場合、国民年金保険料が免除されるのは、免除事由に該当する状態となった日の前月分からです。届出前から免除事由に該当していた場合は、過去にさかのぼって国民年金保険料が返還されます。

それから、国民健康保険にも同様の制度があり、前年中の所得が一定額以下の場合は保険料の減免が受けられるという制度もあります。

これに対し、民間保険には低所得者に対する保険料の減免制度はありません。



(10)所得税の所得控除の対象になるか


社会保険の保険料は、所得税の所得控除対象です(所得税法第74条)。

民間保険でも、所得税の所得控除の対象になるものがあります。
民間保険に対して支払った生命保険料、個人年金保険料、介護医療保険料(介護医療保険は、被保険者が要介護状態になったときに保険金が支払われるという保険)、地震保険料等の保険料は、所得税や住民税の計算において税法上の控除の対象になっています(所得税法第76条、第77条)。

このように税法上の控除対象にすることによって民間保険加入を間接的に促すというようなことになります。



第31回第50問の選択肢

日本における社会保険と民間保険に関する問題で、「民間保険には低所得者に対する保険料の減免制度がある。」〇か✖か







この選択肢は、誤りです。
民間保険には低所得者に対する保険料の減免制度はありません。



第31回第50問の選択肢

日本における社会保険と民間保険に関する問題で、「生命保険など民間保険の保険料が、所得税の所得控除の対象になることはない。」〇か✖か







この選択肢は、誤りです。
民間保険でも、生命保険、個人年金保険、地震保険等は、所得税の所得控除対象です(所得税法第76条、第77条)。




まとめ

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