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SWを極める講座NO.15 労災保険の仕組み 社会保障
今回の内容は、ユーチューブライブで視聴できます。
労働者災害補償保険(労災保険)は、労働保険の1つになります。
労働保険には、労災保険の他に雇用保険があります。
![](https://assets.st-note.com/img/1731793208-zU0id69kc1mRjhqOsgoQH4Bt.png)
労災保険は、仕事が原因で怪我や病気等をした場合の医療サービスや現金給付になります。
労災保険と他の社会保険との違い
同じ病気や怪我、障害、死亡でも、労災保険を受けるためには、その原因が仕事上の事故であることが必要になります。
第29回第52問の事例問題
事例「先天性の視覚障害で、全盲のCさん(25歳、子どもなし)は、20歳になって翌月から1級の障害基礎年金を受給している。これまでは、仕事に就かず、年金以外にほとんど収入はなかったが、今年からU社に就職し、厚生年金に加入した。Cさんの視覚障害は、今後も回復が見込めないものとする。」
選択肢「Cさんは、先天性の視覚障害により、労災保険の障害補償年金を受給できる。」〇か✖か
この選択肢は、誤りです。
労災保険は、業務上や通勤上などによる仕事が原因で労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して行われる給付になります。したがって、Cさんのように先天性の障害の場合は、労災保険の支給の対象とはなりません。
(1)労災保険の法理
労災保険には、「仕事上の原因による病気や怪我、死亡などに対しては、人を雇って事業を営み利益を得ている事業主が、たとえ事故の発生に過失がなくても、すべてその責任で補償すべきだ」とする法理が根底にあります。
ちなみに、事業主において、事故の発生に過失があった場合、事業主は、被用者に対し、不法行為または安全配慮義務違反(債務不履行)による損害賠償責任を負うことになります。
労働者は、労災保険の給付額を超える損害については、事業主に対して、民事上の損害賠償を請求することができます。
第26回第53問の事例問題
事例「W国から日本に来たKさんは、家電量販店を営むP社に雇用され、その指揮命令を受けて、積み下ろし作業をしていたところ、荷物が崩れて大けがをした。」
選択肢「荷崩れの責任がP社にある場合、Kさんは労災保険給付の価額の限度を超える損害について、民事損害賠償を請求できる。」〇か✖か
この選択肢は、正しいです。
(2)保険者
誰が労働者災害補償保険の保険者としてやっているのか。
国(政府)です。
労災保険は、全国を単位とした国(政府)が保険者である保険です。
要するに、労災保険は、国(政府)が管掌する強制保険制度になります。
では、どこで事務をやっているのか、現業事務はどこがやっているのか。
都道府県労働局や労働基準監督署が中心でやっています。
ですから、労災認定は、労働基準監督署が行っています。
第30回第51問の選択肢
社会保険の保険者に関する問題で、「労働者災害補償保険の保険者は、都道府県である。」〇か✖か
この選択肢は、誤りです。
労働者災害補償保険の保険者は、国(政府)です。
同じような問題が、第36回第53問でも出題されています。
(3)労災適用事業
労働者(外国人を含む)を1人でも使用している事業所は、労災保険の適用事業として強制加入することになります(労働者災害補償保険法第3条第1項)。
要するに、労災保険は、原則として、労働者を使用する全事業、つまり全雇用者に適用されます。
ここは、医療保険や年金保険とは異なります。
ただし、例外として、国の直営事業、非現業(現場で行なわれる労働業務に対して、一般的な管理事務部門を指します)の中央・地方の官公署には適用されません。
では、国家公務員や地方公務員は、労災の補償を受けないのか?
補償はあります。
国家公務員や地方公務員には、国家公務員災害補償法や地方公務員災害補償法があります。
こちらの方で災害補償されますので、労災保険の適用除外となっています。
第30回第53問の事例問題
事例「Aさんは正社員として建設会社に就職した。正社員は他に7名いて、アルバイトとして学生のBさんが雇われている。Aさんは業務上の事由により右足を骨折してしまった。」
選択肢「この会社は、正社員が10名以下なので労災保険は適用されない。」〇か✖か
この選択肢は、誤りです
労働者を1人でも使用している事業所は、労災保険の適用事業として強制加入することになります。
同じような問題が、第35回第53問でも出題されています。
創作問題
「労働者災害補償保険制度に関する問題で、国家公務員や地方公務員は適用除外となっている。」〇か✖か
この選択肢は、正しいです。
国家公務員や地方公務員は、国家公務員災害補償法や地方公務員災害補償法の方で災害補償されますので、労災保険の適用除外となっています。
(4)労災保険の給付の対象者
労災保険の給付の対象となる労働者は、公務員以外の適用事業所で働いて賃金を得ている労働者の全てです。
雇用形態は問われません。
日雇い労働者、パート、アルバイト、派遣も含みます。
また、国籍も問いません。
また、雇用期間も問われません。
そして、最近多くなってきた外国人労働者ですが、日本国内の労働であれば、国籍・在留資格の有無又は不法就労者であるか否かに関係なく労災保険の給付の対象になります。
また、被災労働者である外国人が、本国に帰国しても、そのことを理由として、一旦発生した受給権は失われません(第26回53問で問われています)。
第26回第53問の事例問題
事例「W国から日本に来たKさんは、家電量販店を営むP社に雇用され、その指揮命令を受けて、積み下ろし作業をしていたところ、荷物が崩れて大けがをした。」
選択肢「Kさんが留学生であり、アルバイトとして働いていた場合、労災保険は適用されず、労災保険給付は行われない。」〇か✖か
この選択肢は、誤りです。
国籍は問わず、労働者を1人でも使用している事業所は、労災保険の適用事業として強制加入することになります(労働者災害補償保険法第3条第1項)。
また、勤務形態は問いません。アルバイトでも労災保険の適用はあります。
外国人であるKさんは、アルバイトという雇用形態ですが、労災保険の適用があります。
同じような問題が、第24回第52問でも出題されています。
第26回第53問の事例問題
事例「W国から日本に来たKさんは、家電量販店を営むP社に雇用され、その指揮命令を受けて、積み下ろし作業をしていたところ、荷物が崩れて大けがをした。」
選択肢「Kさんの負傷が業務上の災害に当たると認定されても、KさんがW国に帰国した場合には労災保険給付は行われない。」〇か✖か
この選択肢は、誤りです。
一旦発生した受給権は、外国人が帰国してもなくなりません。
第33回第52問の事例問題
事例「運送会社で正社員として働いているFさんは、合理的な経路及び方法により通勤中、駅の階段で転倒し、負傷した。」
選択肢「Fさんの雇用期間が6か月未満である場合、労災保険の給付は行われない。」〇か✖か
この選択肢は、誤りです。
労災保険においては、給付の対象者の雇用期間は問われません。
(5)特別加入制度
労災保険は、従業員の業務上の災害を補償する制度になります。労災保険の対象者は、労働者です。ですから、経営者は基本的に対象となりません。
ですけれども、労働者災害補償保険制度には、特別加入制度があります。
つまり、業務の実態や災害の発生状況から見て、労働者に準じて保護することがふさわしいとみなされる者については、一定の要件の下に任意で労災保険に特別に加入することが認められています(労働者災害補償保険法第33条)。これは任意加入の制度になります。
特別加入者の範囲について
例えば、中小企業の事業主、個人タクシー、大工・左官などの一人親方などは特別加入が認められています。
特別加入の種類には3つあります。
第1種特別加入 中小企業主及びその家族従事者等
社長や役員などの経営者は、その対象に含まれませんが、労働者と同じように仕事をしている場合に限り、労災に加入できます。
第2種特別加入 一人親方及びその他の自営業者、特定農作業従事者等の特定作業従事者
第3種特別加入 日本国内の事業主からの海外派遣者
第24回第52問の事例問題
事例「Lさんは、飲食店を開くために会社を設立し、正社員としてMさんを雇用したほか、開業当初の手伝いのためにアルバイトとしてNさんを雇った。」
選択肢「Lさんは、飲食店の経営者であり、労働者ではないが、労災保険に任意で加入することができる。」〇か✖か
この選択肢は、正しいです。
Lさんは、飲食店の経営者ですから、原則として、労災保険に加入できません。しかし、経営者であっても、業務の実態や災害の発生状況から見て、労働者に準じて保護することがふさわしいとみなされる者については、一定の要件の下に任意で労災保険に特別に加入することが認められています。
第35回第54問の選択肢
社会保険制度の適用に関する問題で、「労働者災害補償保険制度には、大工、個人タクシーなどの個人事業主は加入できない。」〇か✖か
この選択肢は、誤りです。
労働者災害補償保険制度には、特別加入制度があります。
特別加入制度とは、適用事業に使用される労働者以外の者のうち、その業務の実情、災害の発生状況などからみて、特に労働者に準じて保護することが適当であると認められる一定の者に任意加入を認める制度になります(労働者災害補償保険法第33条~)。
この特別加入制度を利用すれば、大工、個人タクシーなどの個人事業主でも労災保険に加入することができます。
同じような問題が、第28回第54問でも出題されています。
(6)保険料
保険料は誰が負担するのか。
従業員は保険料を負担しません。
労災保険の保険料は、全額会社負担になります。
なぜかといったら、会社が事故を起こさない責任を負っているからです。
労災保険は保険料を全額事業主が負担しますが、このことが他の社会保険と異なる特徴です。
第31回第49問の選択肢
「社会保険制度の財源に関する問題で、労働者災害補償保険に要する費用は、事業主と労働者の保険料で賄われている。」〇か✖か
この選択肢は、誤りです。
労災保険の保険料は、全額会社負担になります。
同じような問題が、第28回第54問、第35回第53問でも出題されています。
では、労災保険の保険料は、どういう風に決まるのか。
事業主が労働者に対して支払った1年間分の賃金の総額に労災保険料率を掛けた額が保険料となります。
保険料率は、厚生労働大臣が業種ごとに定めます。
保険料の算出に用いられる保険料率は、事業の種類によって区分されています。それによって会社の負担分の保険料は決まってきます。
例えば、新聞業の保険料率であれば、2.5/1000(0.0025%)となっています。
1年分の賃金総額が、1000万円であった場合、保険料は、2万5000円となります。
保険料については、事業ごとの労災事故の発生状況によって保険率を増減させるメリット制が用いられています。
より詳しく言うと、メリット制とは、3年度の間で起こった労働災害の多寡に応じて労災保険率又は労災保険料を増減させる制度のことです。
なお、メリット制は、労働災害は対象ですが、通勤災害は対象外になっています。
当然、危ない仕事をやっている会社(例えば、トンネル建設、水力発電施設建設等)の保険料率は高くなります。
これに対し、安全な、例えば、時計の製造や通信業や金融業。このような業種のところでは大けがをするようなことはそうそうありません。ですから、そういったところは、保険料率は低いわけです。
また、同じような建設現場であっても、ある大企業はちゃんとした安全教育をやって、安全に努めている。だから事故を起こさない。ところが、ある中小企業は、従業員がけがをしたり、死んだって、どうせ労災が面倒見てくれるんだという考え方のところでは、たくさん事故を起こしている。それが同じ建設業だからということで、同じ保険料だったら、大企業は冗談ではないと怒ります。ですから、事故をたくさん発生させ、労災保険給付をたくさん使っている会社は、同じ業種、例えば、建設業であっても、保険料率が上がる設定になります。
これをメリット保険料率と言っています。
このように、メリット制が採用されているのは、保険料負担の公平性と災害防止努力の状況により、労災保険料率を上下させることに合理性があるからです。
ただ、このメリット制で問題となるのが、労災隠しです。
何か事故を起こして保険を利用した場合、保険料率が次の年から上がり、保険料も増加してしまうわけです。そのため、企業のインセンティブ(誘因)としては、コスト削減のため、労災隠しが発生するという危険が高まります。
第28回第54問の選択肢
労働者災害補償保険(以下「労災保険」という。)に関する問題で、「労災保険率は、厚生労働大臣が業種ごとに定める。」〇か✖か
この選択肢は、正しいです。
第35回第53問の選択肢
労働者災害補償保険制度に関する問題で、「メリット制に基づき、事業における通勤災害の発生状況に応じて、労災保険率が増減される。」〇か✖か
この選択肢は、誤りです。
労災保険の保険料については、保険料率に基づいて算定されます。保険料率は、災害のリスクに応じて、厚生労働大臣が業種ごとに定めますが、事業主別の保険料率はメリット制に基づいて算定されます。
メリット制は、3年度の間に起こった労働災害の多寡に応じて労災保険率又は労災保険料を増減させる制度を指します。
では、選択肢2のどこが✖なのか。
メリット制は労働災害は対象ですが、通勤災害は対象外になっています。
(7)保険料の徴収方法について
雇用保険の保険料と合わせて労働保険料として一括徴収されます(労働保険徴収法)。
使用者が保険料を滞納している間の事故について
たとえ使用者が保険料の滞納をしている間に事故があったとしても、労働者は、不利益なく通常通り労災給付が受けられます。
この場合、事業主は保険者である国から、遡って保険料を徴収されます。
それとともに、保険給付に要した費用に相当する金額の全部または一部(40%)が徴収されることになります(労働者災害補償保険法第31条第1項第2号)。
事業者は、このようなペナルティを科せられないためにも保険料を滞納しないでしっかりと支払う必要があります。
第33回第52問の事例問題
事例「運送会社で正社員として働いているFさんは、合理的な経路及び方法により通勤中、駅の階段で転倒し、負傷した。」
選択肢「労働者災害補償保険(以下「労災保険」という。)に関する問題で、Fさんの勤務先が労災保険の保険料を滞納していた場合、労災保険の給付は行われない。」〇か✖か
この選択肢は、誤りです。
たとえ使用者が保険料の滞納をしている間に事故があったとしても、労働者は、不利益なく通常通り労災給付が受けられます。
この場合、事業主は保険者である国から、遡って保険料を徴収されるとともに、保険給付に要した費用に相当する金額の全部または一部(40%)が徴収されることになります(労働者災害補償保険法第31条第1項第2号)。
同じような問題が、第26回第53問でも出題されています。
(8)労災保険の給付
労災の対象は、大別して、業務災害と複数業務要因災害と通勤災害があります。
厚生労働省の資料より
![](https://assets.st-note.com/img/1731793258-SagcIEnF04LpHZld2wDGMkzY.png?width=1200)
それでは、個別に確認します。
①業務災害
業務災害は、実際に働いているとき、つまり業務上で起きた事故になります。
要するに、業務起因性が認められる場合の事故です。
②複数業務要因災害
複数業務要因災害は、複数事業労働者の2以上の事業の業務を要因とする傷病等のことです。
なお、対象となる傷病等は、脳・心臓疾患や精神障害などです。
2020年から、複数事業労働者の業務を要因とする事由も追加されました。
ここにいう複数事業労働者とは、傷病等が生じた時点において、事業主が同一でない2以上の事業に同時に使用されている労働者のことです。
③通勤災害
通勤災害は、働くために通勤していたときに起きた事故になります。
ここにいう通勤とは、いわゆる住居と就業場所との往復を合理的経路及び方法で行う場合のことです。
よく仕事と家事を両立しているシングルマザーが、職場に行く前に子どもを保育所に送り届けて、その後、会社に行く。あるいは会社が終わって、自宅に帰宅する途中で、保育所に立ち寄り、子どもを迎えに行って一緒に帰宅する。このようなことはよくあります。
そこで、保育所に行く途中で、交通事故に遭ってしまったら、労災の対象になるのか? 職場と自宅の間で子どもを送り迎えするのに保育所に寄るのが「合理的な経路及び方法」と言えるのか? が問題となるわけです。
例えば、子供の保育園の送迎などは通勤の範囲に含まれます。
このような場合には、労災の対象になります。
なぜかといえば、十分合理的な経路及び方法だからです。
なお、労働者が、故意に負傷、疾病、障害、死亡又はその直接の原因となった事故を生じさせたときは、保険給付を行わないことになっています(労災保険法第12条の2の2第1項)。
また、労働者の重過失等による場合は、保険給付の全部又は一部を行わないことができることになっています(同条第2項)。
第36回第54問の事例問題
事例「Jさんは、以前休日にオートバイを運転して行楽に出かける途中、誤ってガードレールに衝突する自損事故を起こし、それが原因で、その時から障害基礎年金の1級相当の障害者となった。現在は30歳で、自宅で電動車いすを利用して暮らしている。」
選択肢「障害者の所得保障制度に関する問題で、Jさんの障害の原因となった事故が雇用労働者であった時のものである場合は、労働者災害補償保険の障害補償給付を受けられる。」〇か✖か
この選択肢は、誤りです。
Jさんは、休日にオートバイを運転して行楽に出かける途中、誤ってガード レールに衝突する自損事故を起こしています。
このような場合、業務起因性がありません。なので、業務災害に該当せず、労働者災害補償保険の障害補償給付は受けられません。
第24回第52問の事例問題
事例「Lさんは、飲食店を開くために会社を設立し、正社員としてMさんを雇用したほか、開業当初の手伝いのためにアルバイトとしてNさんを雇った。」
選択肢「Mさんが、店に出勤する途中で事故に遭い、けがをしてしまった場合、これは業務上の事故ではないので、労災保険から給付は受けられない。」〇か✖か
この選択肢は、誤りです。
出勤途中の事故は、業務災害ではありませんが、通勤災害として労災給付の対象になります。
なお、自賠責保険についてもここで触れておきます。
過去問で問われたりしているんですよね。自賠責保険は、自動車やバイクに乗る人に加入が義務付けられている強制保険です。
自賠責保険は、対人賠償を目的とした保険になりますので、対物賠償や加害者のいない自損事故は保険の対象にはなりません。
例えば、Mさんが第三者の運転する自動車にぶつけられて、怪我を負った場合には、加害者の加入する自賠責保険からの給付を受けることもできます。当然のことですが、加害者の加入する任意保険からも損害の賠償を受けることができます。
なお、ここは深掘りはしませんが、労災保険と自賠責保険は、いずれも損害賠償的な性格があり、二重取りは許されませんので、両者は、給付金の支給調整という問題があります。
例えば、被害者の損害を填補するために自賠責保険から休業損害の支払いを、また、労災保険から休業給付の支払いを受けるといった二重の利益を得ることはできません。
第24回第52問の事例問題
事例「Lさんは、飲食店を開くために会社を設立し、正社員としてMさんを雇用したほか、開業当初の手伝いのためにアルバイトとしてNさんを雇った。」
選択肢「Lさんに頼まれ、Mさんが近くのスーパーに足りなくなった食材を買いに行く途中で事故に遭った場合、店から離れてしまったので、労災保険の給付は受けられない。」〇か✖か
この選択肢は、誤りです。
使用者であるLさんからの職務上の命令を受けて行動している間の事故は、業務起因性が認められます。このような場合は、業務上と認められますので、Mさんは、業務災害として、労災保険の給付を受けることができます。
第34回第54問の事例問題
事例「大学生のEさん(22歳)は、半年前に父親を亡くし、母親(50歳)と二人暮らしである。母親は就労しており、健康保険の被保険者で、Eさんはその被扶養者である。Eさんは、週末に10時間アルバイトをしているが、平日の通学途上で交通事故に遭い、大ケガをした。」
選択肢「ひとり親世帯などの社会保障制度に関する問題で、Eさんがケガの治療のため、アルバイト先を休み、賃金が支払われなかった場合、労働者災害補償保険の休業給付が受けられる。」〇か✖か
この選択肢は、誤りです。
労働者災害補償保険は、業務上の事由または通勤による傷病などに対して保険給付を行います。
事例では、「平日の通学途上で交通事故に遭い、大ケガをした」とあります。
平日の通学は、業務上の事由または通勤による傷病ではないので、労災の対象にはなりません。
第26回第53問の事例問題
事例「W国から日本に来たKさんは、家電量販店を営むP社に雇用され、その指揮命令を受けて、積み下ろし作業をしていたところ、荷物が崩れて大けがをした。」
選択肢「Kさんが故意に負傷の原因となった事故を生じさせた場合であっても、労災保険給付は行われる。」〇か✖か
この選択肢は、誤りです。
労働者が、故意に負傷、疾病、障害、死亡又はその直接の原因となった事故を生じさせたときは、保険給付を行わないことになっています(労災保険法第12条の2の2第1項)。
保険給付の内容について
業務災害や複数業務要因災害や通勤災害の場合には、労働者の負傷、疾病、障害又は死亡について保険給付を行います。
業務災害や複数業務要因災害や通勤災害の給付内容は、同じになります。
保険給付の考え方としては、引き起こした損害を補填する、つまり、穴埋めをするというものになります。
その事故が起きなかったら、こういう給料を得ていたであろうということで保険給付をしていきます。
ですから、労災保険の給付には、穴埋めとは言えない慰謝料はありません。
要するに、労災が認定されたら、その分を計算して、本来ならばもらったであろうものを穴埋めしていくという考え方をするものになります。
具体的な給付内容として、以下のものがあります。
個別の説明の前に「補償」について説明しておきます。
療養補償給付など、「補償」となる場合。これは業務災害の場合の給付になります。
通勤災害の場合は、「補償」がつかなくて、療養給付、休業給付になります。
これは、業務災害の場合は業務を原因とする災害ですから過失の有無に関係なく事業主に責任があってその補填をするという意味で補償と付きます。
それに対して、通勤災害についてはそこまで事業主の責任は問われないということで、補償という言葉を使わないわけです。
・療養(補償)等給付
医療サービスを無料で受けるというもの
・休業(補償)等給付
これは、休業4日目から給付基礎日額(つまり被災前3か月の総賃金÷被災前3か月の総日数)。
この給付基礎日額の6割*休業日数分が支給されます。
・障害(補償)等給付
病気や怪我が治った、つまり症状固定したあとに障害が残った場合に障害の等級に応じて現金支給が行われるもので、種類としては一時金と年金があります。
・遺族(補償)等給付
労働者が死亡した場合に一定の範囲の遺族に現金給付が行われるもので、種類としては、一時金と年金があります。
・傷病(補償)等年金
病気や怪我が1年6か月経っても治らない場合に、休業(補償)等給付から切り替わって、疾病の等級に応じて現金支給が行われるものです。
・介護(補償)等給付
・葬祭料等(葬祭給付)
・二次健康診断等給付
なぜこの二次健康診断等給付があるのか。
これは労災職業病を回避するためです。
二次健康診断等給付は、職場の定期健康診断等(「一次健康診断」といいます)で異常の所見が認められた場合に、脳血管・心臓の状態を把握するための二次健康診断及び脳・心臓疾患の発症の予防を図るための特定保健指導(栄養指導、運動指導、生活指導)を1年度内に1回、無料で受診することができる制度です。
業務災害・複数業務要因災害・通勤災害による傷病等があった場合の労災保険給付の概要
![](https://assets.st-note.com/img/1731805198-xZnPTqwRg3FkoQmiGaJdVWhc.png?width=1200)
以上のようなもの等があります。
第30回第53問の事例問題
「Aさんは正社員として建設会社に就職した。正社員は他に7名いて、アルバイトとして学生のBさんが雇われている。Aさんは業務上の事由により右足を骨折してしまった。」
選択肢「骨折した事故が労災認定された場合、Aさんが治療のため会社を休み、賃金が得られなくなった初日から休業補償給付を受けることができる。」〇か✖か
この選択肢は、誤りです。
休業補償給付は、休業4日目から支給されることになります。
なお、本問では業務災害になりますが、3日間の待機期間があり、この期間について何らの補償もないとAさんは生活に困ってしまいます。この期間につきましては、原則として、事業主に過失がなくても、1日につき平均賃金の60%の休業補償の責任を負わせています(労働基準法第76条)。
なお、通勤災害の場合には、事業主の補償責任についての法令上の規定はありません。
第36回問題52の事例問題
事例「Hさん(45歳)は、妻と中学生の子との3人家族だったが、先日、妻が業務上の事故によって死亡した。Hさんは、数年前に、持病のためそれまで勤めていた会社を退職し、それ以来、無職、無収入のまま民間企業で働く妻の健康保険の被扶養者になっていた。」
選択肢 「Hさんに支給される社会保障給付として、労働者災害補償保険法に基づく傷病補償年金が給付される。」〇か✖か
この選択肢は、誤りです。
労働者災害補償保険法に基づく傷病補償年金は、療養開始後1年6か月たっても傷病が治ゆ(症状固定)しない場合に、休業(補償)等給付から切り替わって、疾病の等級に応じて現金支給が行われるものになります。
事例のように、労働者が死亡した場合に給付がなされる可能性があるのは、遺族(補償)等給付(年金、一時金)や葬祭給付になります。
休業補償給付、傷病補償年金等で問題になる給付基礎日額について
給付基礎日額ですが、被災前直前3ヶ月間の賃金総額をその期間の暦日数(こよみにっすう)で除した額になります。
ですから、業務上の災害などが発生した日の直前の3ヶ月間の賃金。それを暦日数で割った1日当たりの賃金ということです。
このように1日当たりの賃金額を算出して、これを基本として、何日分という補償がなされるということになります。
なお、複数業務要因災害に関する給付については、2以上の事業の業務を要因とすることから、給付について、特別な配慮をしています。
厚生労働省のホームページより
![](https://assets.st-note.com/img/1731805235-N0qxtYUmzwjdov3VJ7FSAKuG.png?width=1200)
休業(補償)給付や遺族(補償)給付などは、雇用されているすべての会社等の賃金額を基に保険給付額が決まります。
労災保険の対象は、あくまでも業務上又は通勤による労働者の負傷や疾病、傷害、死亡になります。
業務や通勤と直接的な関係がない負傷や疾病、傷害、死亡。
これは労災保険の補償の対象にはなりません。
では、例えば、地震などの天災地変が起きたときに、働いていた労働者は、労災の対象になるか?
企業の側からすれば、地震は自然災害であるから、企業に責任がないと主張するでしょう。
確かに、基本的には業務災害とは認められません。
しかし、地震などの天災地変があろうと、事業場の立地条件や作業条件・作業環境などにより、天災地変に際して災害を被りやすい業務の事業があるときは、業務に起因する仕事上の事故であり、労災の対象になると考えられています。
また、業務上の病気か否かの判断が難しいケースとしては、石綿、腰痛、「過労死」、「過労自殺」、うつ病を含む精神障害等があります。
このような判断が難しいケースでは、自分達で訴えていかないとなかなか認められないのが現状です。
労災保険の請求について
原則として、被災労働者やその遺族からの請求に基づき、労働基準監督署が労災に関する認定を行います。
なお、会社は労働者からの請求があれば、手続きをサポートし、必要な証明を行う義務があります。そのため、事業主が申請手続きを代行することも可能です。
では、労働基準監督署の認定結果に納得がいかなかった場合はどうすればよいのか。
労働者や遺族は、都道府県労働局に設置される労働保険審査官に対して、認定のし直しを求めることができます。
ここでの判断にも納得ができない場合には、労働保険審査会に対して不服申立ができます。
ここでも労災が認められない場合は、最後の手段として、裁判を起こすことになるわけです。
なお、複数の会社等に雇用されている労働者の労災認定においては、それぞれの勤務先ごとに負荷(労働時間やストレス等)を個別に評価して労災認定できるかどうかを判断します。そして、労災認定できない場合は、すべての勤務先の負荷を総合的に評価して労災認定できるかどうかを判断することになります。
それから、労働災害には、同一の疾病などについて健康保険を利用することはできません。ここは全く選択の余地がありません。
仕事中や通勤途中の負傷は、労災保険の適用になります(労働者災害補償保険法第1条、第2条の2)。
誤って健康保険を使用した場合には、労災保険への切り替え手続きをすることになります。
また、同一の支給事由について、労災保険の他に、国民年金、厚生年金が支給される場合、原則として、国民年金、厚生年金が全額支給され、労災保険の保険給付が減額して支給されます。
各保険の関係
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第35回第53問の選択肢
労働者災害補償保険制度に関する問題で、「労働者の業務災害に関する保険給付については、事業主の請求に基づいて行われる。」〇か✖か
この選択肢は、誤りです。
原則として、労災申請の手続きは、怪我等をした労働者本人又は遺族が行うことになっています。
会社は、労働者からの請求があれば、手続きをサポートし、必要な証明を行う義務があります。そのため、事業主が申請手続きを代行することも可能です。
第33回第52問の事例問題
事例「運送会社で正社員として働いているFさんは、合理的な経路及び方法により通勤中、駅の階段で転倒し、負傷した。」
選択肢「Fさんが療養に係る労災保険の給付を受ける場合、同一負傷について、健康保険の療養の給付は行われない。」〇か✖か
この選択肢は、正しいです。
労働災害には、健康保険を利用することはできません。
同じような問題が、第35回第53問でも出題されています。
第28回第54問の選択肢
労働者災害補償保険(以下「労災保険」という。)に関する問題で、「厚生年金保険の障害厚生年金が支給される場合、労災保険の障害補償年金は支給されない。」〇か✖か
この選択肢は、誤りです。
厚生年金保険の障害厚生年金は全額支給され、労災保険の障害補償年金は、減額調整されて支給されます。
(9)自己負担について
業務災害においては、自己負担なしに療養補償の給付を受けることができます。業務災害は、基本的に使用者に補償義務があるからです。
これに対し、通勤災害の場合は、原則として200円を超えない範囲内で定める額を一部負担金として徴収されます(労災保険法第31条第2項)。
第30回第53問の事例問題
「Aさんは正社員として建設会社に就職した。正社員は他に7名いて、アルバイトとして学生のBさんが雇われている。Aさんは業務上の事由により右足を骨折してしまった。」
選択肢「骨折した事故が労災認定された場合、療養の給付について、Aさんに自己負担はない。」〇か✖か
この選択肢は、正しいです。
業務災害に基づく療養補償給付では、労災病院や労災指定病院等において、傷病が治癒するまで自己負担なしに療養を受けることができます。
同じような問題が、第36回第53問でも出題されています。
第33回第52問の事例問題
事例「運送会社で正社員として働いているFさんは、合理的な経路及び方法により通勤中、駅の階段で転倒し、負傷した。」
選択肢「労働者災害補償保険(以下「労災保険」という。)に関する問題で、Fさんが療養に係る労災保険の給付を受けられる場合、自己負担は原則1割である。」〇か✖か
この選択肢は、誤りです。
通勤災害の場合は、原則として200円を超えない範囲内で定める額を一部負担金として徴収されます(労災保険法第31条第2項)。