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ソーシャルワークを極める講座NO.11 厚生年金の保険給付の種類



今回の内容は、ユーチューブライブで視聴できます。また、アウトプットの練習としてガンガンノック編もあります。


厚生年金の給付は、老齢、障害、遺族の各厚生年金として行われます。


1.老齢厚生年金


まず老齢厚生年金から確認していきます。

老齢厚生年金は、老齢を理由として、老齢基礎年金に上乗せして、厚生年金から給付を受けるものです。

厚労省のホームページより


(1)老齢厚生年金の支給要件について


まず老齢基礎年金の支給要件を満たしていることが必要です。

65歳以上であること

②老齢基礎年金の受給資格期間である10年を満たしていること

これにプラスして、

③厚生年金保険の被保険者期間が1ヶ月以上あること

老齢基礎年金は、他の給付の基礎となるので、老齢厚生年金の支給要件にも老齢基礎年金がかかわってきます。

老齢厚生年金の場合、上記要件③にあるように、1ヶ月でも厚生年金保険に加入していれば、老齢厚生年金が給付されます。

老齢厚生年金の支給開始は、原則65歳からになります。

では、老齢厚生年金においては、老齢基礎年金のように60歳からの繰上げ支給や75歳までの繰下げ支給制度はないのか。

あります。


(2)老齢厚生年金の支給額


老齢厚生年金の年金支給額は、報酬比例により計算されます。

計算方法

報酬比例年金額+経過的加算+加給年金額=支給額

報酬比例金額の部分は、平均標準報酬額(過去の標準報酬月額と賞与を合算した額)に被保険者期間と一定の給付乗率をかけて算出します。
つまり、在職中の標準報酬月額、標準賞与額と被保険者期間に比例した年金額が支給されるということです。

経過的加算と加給年金額の部分は、細かいので省略します。


(3)在職老齢年金制度


在職老齢年金制度とは、老齢厚生年金の支給停止をする制度です。

人生100年時代となった今、老齢年金の受給年齢である65歳を越えても仕事を続けたいと思っている人は多いと思います。
では、働きながら年金を受け取ることができるのか。

この場合には、年金額が減らされることがあります。
1カ月あたりの老齢厚生年金額と総報酬月額相当額(ボーナス込みの月収)の合計が、48万円を超えると、年金額が減らされます。

就労しながら老齢厚生年金をもらう場合は、給与と年金の額に応じて、老齢厚生年金の全部または一部が支給停止となります。
なお、基礎年金から支給される老齢基礎年金は、支給停止されません。あくまでも「老齢厚生年金」の額のみ調整されます。
要するに、在職老齢年金は、厚生年金の適用事業所で働いていて、老齢厚生年金の支給を受けている場合について、老齢厚生年金額を調整(減らす)する仕組みになります。



第32回第55問の事例問題

事例は、「Fさん(65歳、女性)は、22歳からアパレル関係の大企業で正社員として働き、厚生年金にも加入していた。その後会社員の夫と結婚し、35歳の時に退職して専業主婦になった。48歳の時に個人事業主として手芸店を開き、現在ではかなりの事業収入を得ている。」

選択肢は、「Fさんは65歳なので老齢厚生年金を受給できるが、事業収入が基準を超える場合は年金額が減額される。」〇か✖か






この選択肢は、誤りです。
事例のFさんは、手芸店をやっている個人事業主であるので、厚生年金の被保険者ではありません。そのため、自営業による事業収入があっても、在職老齢年金制度の適用はなく、老齢厚生年金は減額されません。老齢厚生年金が減額されるのは、被用者(厚生年金の被保険者)として給料を得ている場合になります。
同じような問題が、第35回第55問でも出題されています。




第35回第55問の選択肢

公的年金制度に関する問題で、「老齢基礎年金の受給者が、被用者として働いている場合は、老齢基礎年金の一部又は全部の額が支給停止される場合がある。」〇か✖か






この選択肢は、誤りです。
在職による支給停止の仕組みはあります。しかし、これは老齢厚生年金に対して行われるもので、老齢基礎年金は支給停止の対象とはなりません。



(4)離婚時の年金分割のルールについて


配偶者を扶養する厚生年金の被保険者が負担した厚生年金保険料は、夫婦が共同して負担したものと言えます。そこで、離婚時に、以下の方法により、配偶者の厚生年金を分割する仕組みを設けています。
厚生労働省の年金制度のポイント(2023年版)より

離婚時の年金分割のルールとしては、2つあります。

①合意分割制度

②3号分割制度

①合意分割制度について

合意分割制度は、離婚をした場合、婚姻期間中の報酬比例部分について、扶養配偶者の同意か、裁判所の決定があれば、1/2を上限に分割をすることができるという制度です。

合意分割については、離婚しようとしている夫婦の間で、按分割合の合意をするのは困難なことが多く、家庭裁判所で決めて貰うことも結構あります。

家庭裁判所の決定の場合、特別な事情がなければ、「2分の1に分割する」との決定をして貰えます。

②3号分割制度

3号分割制度は、第3号被保険者であった者からの請求によって、相手方の保険料納付記録を2分の1ずつ分割できる制度です。

3号分割の場合は、扶養配偶者の同意はいりません。
ただ、3号分割制度により分割される記録は、2008年4月1日以降の第3号被保険者期間中の記録に限られます。
2008年3月30日までは合意分割制度でしたが、2008年4月1日以降は、年金分割の手続きが、第3号被保険者の請求のみで済むことになりました。

年金分割の手続きについては、請求の期限に注意してください。
請求期限は、原則として、離婚をした日の翌日から2年以内です。これが経過すると、請求することができなくなります。



創作問題

年金保険に関する問題で、「離婚時の年金分割制度では、婚姻期間中の扶養配偶者の老齢基礎年金の保険料納付記録を分割して受けられる。」〇か✖か






この選択肢は、誤りです。
分割できるのは、老齢基礎年金ではなく、老齢厚生年金になります。
第31回第52問にも同じような問題が出題されています。



2.障害厚生年金


(1)障害厚生年金の支給要件


障害厚生年金の支給要件は、以下の通りです。

①初診日要件
初診日において厚生年金の被保険者であること

②障害程度要件
障害認定日において、障害等級が1級から3級であること

③保険料納付要件
障害基礎年金と同じ保険料納付要件があること

パターンA 初診日の前日に、初診日のある月の前々月までの被保険者期間で、保険料納付済期間と保険料免除期間を合わせた期間(カラ期間は含まない。)が、3分の2以上の期間あること

パターンB 初診日が2026年、令和8年4月1日前にあるときは、初診日において65歳未満であれば、初診日の前日において、初診日がある月の前々月までの直近1年間に保険料の未納がなければよい(直近1年要件)

支給要件の比較

①初診日要件について

障害厚生年金の支給を受けるためには、厚生年金保険に加入している期間中に初診日がある傷病が原因で、障害が生じたことが必要です。(厚生年金保険法第47条)。

ポイントは、初診日において被保険者であった者であれば、障害認定日に被保険者でなくてもよいという点です。

初診日とは、その障害の原因となった病気やケガで、初めて医師の診察を受けた日を指します。

例えば、障害認定日において退職していても、退職前に初診日があった場合であれば、障害厚生年金の給付対象となります。

②障害程度要件について

障害等級は、障害基礎年金とは異なり、1級から3級まであります。

この3級は、厚生年金の独自の給付になります。

また、厚生年金の独自給付として、障害手当金もあります。

障害手当金とは、被保険者期間中に初診日のある傷病が初診日から5年以内に治り、程度の軽い障害が残った場合に支給される一時金です。


(2)障害厚生年金の年金額について


障害厚生年金の年金額は、障害等級により異なります。

1級 老齢厚生年金額(報酬比例の年金額)×1.25+配偶者の加算

2級 老齢厚生年金額(報酬比例の年金額)+配偶者の加算

3級 老齢厚生年金額(報酬比例の年金額)
➡最低保障額 61万2000円


障害厚生年金に該当する状態

*3級の例
脳出血となり、右手麻痺が残り、障害等級3級と認定されたとか。

*被保険者期間の月数が300カ月(25年)に満たないときは、300カ月とみなして算出します。

1、2級には、配偶者がいる場合の加算がありますが、3級にはありません。

また、3級には最低保障額というものが決められて、一定の金額以上の支給が保障されています。
具体的にいうと、年金加入期間が短い人でも年間最低61万2000円の受給が可能ということになっています。

日本年金機構のパンフレットより



第29回第52問の事例問題

事例「先天性の視覚障害で、全盲のCさん(25歳、子どもなし)は、20歳になって翌月から1級の障害基礎年金を受給している。これまでは、仕事に就かず、年金以外にほとんど収入はなかったが、今年からU社に就職し、厚生年金に加入した。Cさんの視覚障害は、今後も回復が見込めないものとする。」

選択肢「Cさんは、先天性の視覚障害により、障害厚生年金を受給できる。」〇か✖か





この選択肢は、誤りです。
障害厚生年金の支給要件は、厚生年金保険に加入している期間中に、初診日がある傷病が原因で、障害基礎年金に該当する障害が生じたことになります。
Cさんの障害は、先天性の視覚障害になりますので、厚生年金保険に加入している期間中に、初診日がある傷病が原因で、障害基礎年金に該当する障害が生じたことにはなりません。
よって、Cさんが障害厚生年金を受給することはできません。



第26回第54問の事例問題

事例「Lさんは、大学在学中に20歳となり国民年金の第1号被保険者となったが、学生納付特例制度を利用し、国民年金保険料の納付は行っていなかった。大学卒業後に民間企業に就職したが、入社1年後に精神疾患の診断を受け、療養のために退職した。Lさんは障害年金を受給したいと考えている。」

選択肢「Lさんが障害厚生年金を受給するためには、精神疾患による障害認定日が厚生年金保険の被保険者期間内でなければならない。」〇か✖か





この選択肢は、誤りです。
障害厚生年金の支給要件のうち、初診日要件は、初診日において厚生年金保険の被保険者であることが必要です。
しかし、設問にあるような障害認定日要件については、認定日に被保険者である必要はありません。あくまでも初診日に被保険者であれば、その後退職していて、障害認定日に資格を喪失していても、障害厚生年金を受給できます(厚生年金法第47条、昭和60法附則第64条第1項)。



3.遺族厚生年金


(1)遺族厚生年金の支給要件


死亡した者について、以下の①から⑤のいずれかに該当する場合に、死亡当時、死亡した者によって生計を維持していた遺族に支給されます。

遺族厚生年金の支給要件としては、短期と長期の要件があります。

★短期要件として
①厚生年金保険の被保険者

②被保険者の資格を喪失した後、被保険者であった間に初診日のある傷病によって、初診日から5年以内に死亡した者

③障害等級1級又は2級の障害厚生年金の受給権者

➡①と②は、遺族基礎年金と同じ保険料納付要件(2/3要件と直近1年要件)があります。

★長期要件として
④老齢厚生年金の受給権者

⑤老齢厚生年金の受給資格を満たした者
➡④と⑤は、保険料納付済期間(保険料免除期間・合算対象期間を含む)の合計が25年以上ある者に限ります。

遺族の範囲について
①子のある配偶者(夫の場合は55歳以上、60歳から支給)又は子
➡夫の死亡時点で、子供がいなくても、妊娠中の胎児が無事に生まれると、遺族基礎年金・遺族厚生年金の対象となります。
②子のない妻又は55歳以上の夫(60歳から支給)
③55歳以上の父母(60歳から支給)
④孫
⑤55歳以上の祖父母(60歳から支給)

です。

遺族厚生年金の遺族は、遺族基礎年金の遺族(子のある配偶者又は子)と比べて、遺族の範囲が広いことに注意をしてください。

*夫は、55歳以上という年齢制限があり、ハードルが高い!

なお、①から⑤までの関係ですが、これは優先順位を表しています。
遺族年金は受給順位が決められていますので、上位の受給権者がいる場合には下位の権利者に受給権が発生しません。



第36回第52問の事例問題

事例「Hさん(45歳)は、妻と中学生の子との3人家族だったが、先日、妻が業務上の事故によって死亡した。Hさんは、数年前に、持病のためそれまで勤めていた会社を退職し、それ以来、無職、無収入のまま民間企業で働く妻の健康保険の被扶養者になっていた。」

選択肢として、Hさんに支給される適切な社会保障給付として、「厚生年金保険法に基づく遺族厚生年金」〇か✖か






この選択肢は、誤りです。
厚生年金保険法に基づく遺族厚生年金は、厚生年金保険の被保険者等に該当する者が死亡した場合、遺族に支給されます。
「遺族」の範囲と順位は、
①妻、55歳以上の夫、子(胎児を含む) ⇦ 夫はハードルが高い!
②55歳以上の父母
③孫
④55歳以上の祖父母

Hさんは、45歳であり、「遺族」に含まれません。



(2)遺族厚生年金の失権


遺族厚生年金を受給している人に以下の事由が発生したときは、遺族厚生年金の権利は失権します。

①受給権者が死亡した場合
②受給権者が直系尊属(祖父母)及び直系姻族以外の人の養子になった場合(これは事実上の養子縁組関係を含む)
③受給権者が婚姻した場合(これは事実上婚姻関係を含む)
④受給権者が離縁し死亡した(元)被保険者との親族関係がなくなった場合
30歳未満で遺族厚生年金のみ受給している妻(子がいない妻)が受給権発生から5年を経過したとき
などです。

⑤について
子のない妻に関しては、30歳未満である場合は、5年間で受給権を喪失します。
これは、子のない30歳未満の妻であれば、職を見つけて5年の間には自分の生計を維持できるようになるだろうということからです。



第32回第52問の選択肢

遺族年金に関する問題で、「受給権を取得した時に、30歳未満で子のいない妻には、当該遺族厚生年金が10年間支給される。」〇か✖か






この選択肢は、誤りです。
30歳未満で子のいない妻への遺族厚生年金の受給は、取得日から10年ではなく、5年間の有期給付となります。
同じような問題が、第29回第53問でも出題されています。



(3)遺族厚生年金の支給額について


原則として、亡くなった方の老齢厚生年金の報酬比例部分の3/4に相当する額です。

ちなみに、遺族基礎年金の支給額は、老齢基礎年金の満額に子の数に応じて加算した額になります。

65歳以上の遺族厚生年金の受給権者が、自身の老齢厚生年金の受給権を有する場合の老齢厚生年金と遺族厚生年金の関係について

この点、一人一年金の原則というものがあります。
つまり、同一制度内では、原則として1つの年金しか選ぶことができないということです。
ですから、老齢厚生年金は全額支給となり、遺族厚生年金は老齢厚生年金に相当する額の支給が停止されます。
要するに、二重取りはできません。

なお、老齢基礎年金と老齢厚生年金、障害基礎年金と障害厚生年金、遺族基礎年金と遺族厚生年金は、1つの年金とみなされるので、併給できます。
下の表の赤色のラインを参照。

但し、65歳以上の場合、特例的に支給事由が異なる2つ以上の年金を受けられる場合があります。
年金の併給(65歳以上の場合)

支給事由が異なる2つ以上の年金を受けられるのは、青色の部分になります。
特徴的なのは、障害基礎年金の場合、支給事由が異なる年金との併給が全て可となっています。

また、遺族の範囲に関わりますが、子のある妻や夫または子には、遺族基礎年金と遺族厚生年金の2つが支給されます。
しかし、その他の遺族の場合には、遺族基礎年金はなく遺族厚生年金のみが支給されることも押さえるようにしてください。



第32回第52問の選択肢

遺族年金に関する問題で、「遺族厚生年金の額は、死亡した者の老齢基礎年金の額の2分の1である。」〇か✖か






この選択肢は、誤りです。
遺族厚生年金の支給額は、老齢厚生年金の報酬比例部分の3/4に相当する額です。



4.年金と他の制度


(1)労災保険の障害補償年金と障害基礎年金


労災保険の障害補償年金と障害基礎年金は、保険としては別物で、元々の掛け金そのものが違いますので併給は可能です。
ただ、同一の障害事由であれば、原則として、障害補償年金の保険給付の一部が減額して支給されます(法別表第1令1条から7条)。
具体的には、労災保険の障害補償給付は、

障害厚生年金と障害基礎年金の両方を同時に受けるときは73%

障害厚生年金だけを受けるときは83%

に、それぞれ減額されます。



第26回第54問の事例問題

事例「Lさんは、大学在学中に20歳となり国民年金の第1号被保険者となったが、学生納付特例制度を利用し、国民年金保険料の納付は行っていなかった。大学卒業後に民間企業に就職したが、入社1年後に精神疾患の診断を受け、療養のために退職した。Lさんは障害年金を受給したいと考えている。」

選択肢「Lさんの精神疾患が業務災害によるものであり、労災保険から障害補償年金が支給される場合、Lさんに対して障害基礎年金は支給されない。」〇か✖か





この選択肢は、誤りです。
労災保険の障害補償年金と障害基礎年金は、保険としては別物で、元々の掛け金そのものが違いますので併給は可能です。
ただ、同一の障害事由であれば、障害補償年金の保険給付の一部が減額して支給されます(法別表第1令1条から7条)。
具体的には、労災保険の障害補償給付は、障害厚生年金と障害基礎年金の両方を同時に受けるときは73%に、障害厚生年金だけを受けるときは83%に、それぞれ減額されます。





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