【京都】イノダコーヒ(1) 個性がきわだつ古都のコーヒ
「変わった味のコーヒーだね」
家族との京都旅行。わたしの案内で連れて行ったイノダ・コーヒ店にて、カップから一口すすってみた母の感想だ。
最初からミルクが入ったコーヒーには、油脂の玉がきらきら光って浮いている。
これが当店では一番美味しい飲み方なのです、と言わんばかりに。
話は初っ端から一旦それるけど……。
わたしの母は大のコーヒー好きで、どのくらい好きかというと、わたしが受験生だった一年間、人知れず願掛けのためにずっとコーヒーを絶っていたくらいの大好物らしい。
願掛けは、とにかく好きなものを我慢するもの……らしい。(わたしには無理だ)
で、当の受験生本人はというと、親の気持ちもしらず、能天気な一年間を過ごしていた。
願掛けするには、あまりに張り合いのない娘だった訳だし、もし当時、わたしがその事実を知っていたら、
「や、むしろ好きなだけ飲んでてよ。どうせわたしって、そんなガチな受験生って感じじゃないし」
思う存分飲んでもらうよう主張しただろう。
ここで、
「お母さんがこれだけ頑張ってるんだ。わたしこそ頑張って勉強しなきゃ!」
などとは決してならないところが、わたしらしいとこだと思う。
いずれにせよ、娘には内緒にしていた願掛けではあったけど、どんな強い想いも、ごめん、伝わらなきゃ意味ないよ……。
とはいえ、願掛けは、人には内緒にするものらしいから、伝えた時点で無意味になるらしい。
その後、すったもんだの挙句、どうにか初志貫徹的に文学部へ進んだ。
さて、イノダのコーヒ。(コーヒーではなく、コーヒ)
うちの母をして『変わった味』と感想せしめるだけあって、確かに変わっているかもしれない。
どう変わっているのかは、なかなか伝えるのが難しいけれど、冒頭でも述べた通り、最初からクリームを入れた状態がベストと考えた提供が、他店との違いとしては一番わかりやすい。
もちろん、望めばブラックで出してくれるのだろうけれど、『味はこのバランスで……』という姿勢に、老舗として長年培った自信があるのかもしれない。
コーヒーには、その店それぞれの個性が出るもので、それは『豆の選定』『豆の熟成』『ローストの具合』『淹れる時の温度や時間』で、がらりと変わる。
その上での仕上げに、油脂がきらきら浮かぶクリームなのだ。
イノダは京都の老舗で、かなりの有名店だ。
東京駅の前の大丸にも支店が入っているし、当然、そうそう頻繁に京都へ行ける訳ではないわたしは、イノダの味が恋しくなったら東京駅へ向かう。
でもやっぱり、イノダは京都で味わいたいな、と高層階の窓から東京の景色を眺めつつ、今すぐにでも新幹線へ飛び乗りたい衝動にかられる。
幸か不幸か、財布の現実が、その衝動をありがたくも止めてくれる。
イノダ、その2へつづく