【飯岡】打ち上げ花火(3)津波の爪痕、帰りにはトンカツうずめ
岩井俊二の〔打ち上げ花火〕では、主人公の島田典道の実家として、現地の釣具店が使われている。
その名も、島田釣具店。
当然、ファンにとっては聖地だ。
「かつて、ここに存在してたんだよね……」
雑草がしげる空き地の前で、ぼうぜんと、わたしはつぶやいた。
東日本大震災の爪痕が、ここにくっきりと……。
◯
すぐ近所には、震災の後に建造されたであろう、緊急避難用の津波タワーがそびえている。
とても、なまなましい。
無事にたっている住宅の方が多いにしても、そのふるびたブロック塀をみると、ある高さを境に、色が違っている。
「これ、津波がきたときの、水没した高さをあらわす水位なんだろうね……」
かなり、なまなましい。
釣具店跡地から東へ少し歩いたところには、玉崎神社がある。
ここも、重要なロケ地のひとつだ。
ドラマ当時は境内全部が土の地面だったけれど、参道の周囲の他は、アスファルトに覆われていた。
その神社の入り口に、とても古い菓子屋さんがある。
やってるのかどうかも判然としないほど、ひっそりとしているけれど、そこで煎餅やソフトクリームを買いながら、お店のおばあちゃんにいろいろと訊いてみると、
「ああ、島田さんのご一家ね、無事ですよ。お店をたたんでから別の場所に引っ越しました」
どうやら震災で亡くなった訳ではないので、そこは安堵できた。
その他、あちらこちらのロケ地をたずねてみる。
主人公たちが通う、豊岡小学校。
クライマックスで、主人公の典道とヒロインのなずなが夜のプールでたわむれる三川小学校。
灯台はもちろんのこと、そこから比較的近い場所にある中池(ちゅういけ)。ここではクラスメイトの男子たちが、花火を見る場所をもとめてさまよって、遠い道のりに喧嘩をした場所。訪ねてみると、現地の父子が、釣りをしていた。
なずなと典道が駆け落ちをはじめる、新畑バス停跡。
飯岡駅はドラマ放映直後に建物が変わってしまったけれど、プラットホームの景色はそんなに変わらない。
各種ロケ地からちょっと離れて、道の駅〔季楽里あさひ〕で一休みしつつ、ジェラートを堪能する。
けっこうな絶品。
この付近の農道もロケ地だ。
クラスメイトの男子4人が、暮れなずむ中を歩き、唐突にその中のひとり、祐介が、
「俺は及川なずなが好きだ、なずなー、なーずなー!」
突然さけびだしたかと思うと、他の三人も次々と好きな相手の名をさけぶ。
「三浦先生ー、三浦晴子先生ー! はーるこー! はーーーるこーーー!!」
「セーラームーン!」
なお、脚本段階では「月野うさぎ」と叫ぶことになってたけど、セーラームーンを知らない人のために、わかりやすく変えたらしい。
最後に、
「観月ありさー!」
と、一番ちびのみのるがさけび、他の三人へ振り返る。
昔の女優さんなので、数年前に作られたアニメ版では、このシーンでいったい誰の名前を叫ぶのか……というのもプチ話題になった。
こういう、見る側が恥ずかしくなるほど青臭い、なんかアオハル的なシーン、嫌いじゃない。
なお、男子のひとり純一が叫んだ担任の三浦晴子。
ラストシーンでは、お祭り会場をさまよってた典道と遭遇し、
「花火が丸いのか平べったいのか」
を確認させてあげるべく、一緒にいた彼氏(結婚予定)の友達で、花火師のヤスさんに頼みこみ、残り玉を打ち上げてもらうことになる。
その花火がひらくシーンで、この物語はラストとなる。
……のだけど。
この三浦先生と彼氏、花火師のヤスさんには、衝撃の後日譚があった!
二年ほど前、典道役の山崎裕太と、なずな役の奥菜恵が「28年ぶりの再会」ということで、一緒に食事をする企画の動画がアップされてた。
しゃぶしゃぶを食べながら、思い出話をするという企画だが……。
典道(山崎裕太)が、
「なずなが夏休み明けに転校してった直後の話なんだけどさ……三浦先生、彼氏と結婚するはずが、破綻しちゃったんだよね。彼氏の友達の、花火師のヤスさんってのがいて、そのヤスさんが三浦先生に惚れて、略奪愛で結婚しちゃったんだ」
その話に、なずな(奥菜恵)はびっくりしたが、それを見てたわたしこそ、
「えええええええ……!?」
腰を抜かした。
ま、あくまで「久々の再会」という形の、アドリブ企画ではあるけれど、このエピソードのインパクトが強すぎて、他の思い出話がぜんぶどっかにすっ飛んでしまった。
◯
聖地巡礼を力一杯たのしめば、とっぷり暮れて、あとは帰るだけだけ。
でもその前に、この空腹をどうにかしたい。
漁港の町だから海鮮物がおいしいのは言うまでもないけれど、豚肉の品質も高くて、上品な甘味がある。
そこで足をむけるのが、とんかつの〔うずめ〕だ。
ここは、地元の人に人気があるそうだ。
〔うずめ〕は、みた感じからして、よくある町の定食屋さん。
それが、よい。
気取らず、美味しく揚げたてで、観光客ずれしてなくて、しかもたらふく食べられる。
ドラマのロケ地群から結構はなれていて、飯岡駅からも5キロくらい西に行ったところにあるけれど、それもまたちょうどよい。
聖地巡礼を堪能した後の帰り道、ふらっと立ち寄れる位置にある。
その揚げたてのトンカツ、肉質もよく、とても食べ応えがあったし、お店のお姉さんの対応も自然体で親切だった。
変におしゃれぶったとこじゃなく、こういうお店こそ、何度もリピりたいよね。
なんて感じながら、数えきれないほど撮りまくった写真をながめつつ、空っぽになった皿を前にし、聖地巡礼の余韻にひたるのだった。