【那須】 北温泉再び(一)および宇都宮・正嗣の餃子
秘湯の宿泊を予約したら『現在は料理の提供を停止しています』と言われた。
今年の3月のこと。
なので……湯治場で、材料もちこみの自炊とり鍋!
「コロナ禍で食事が出ないなら、自分で作ればいいじゃないの」
ということで、秘湯の湯煙にまじって、我らが鍋の湯気が立ち上る(誇大表現あり)。
や、実際は「ああ、どうしよう……」一瞬は迷った。
わたしと夫だけで行くならともかく、今回は前から北温泉を楽しみにしていたCさんが一緒。
夫婦共通の友達だ。
いや待て……こういうシチュエーション、むしろCさんは喜ぶタイプな気もする。
(家で鍋の具材を仕込んで、それを鍋ごと持って行き、夜は三人で鍋をつつく。翌朝は残り汁で雑炊……完璧じゃないか……!)
予想どおり、Cさんはノリノリで賛同してくれた。
家を出る間際、切った白菜、にんじん、大根、ねぎ、しめじを鍋へ放り込んでおく。
汁はペットボトルで調合。昆布だしの素をさらさらと入れて、料理酒をそそぎ、みりん、塩、鶏ガラ出汁の素などを混合し、キャップを閉めたらシャカシャカと振って攪拌。ほんのわずかにレモン汁を垂らし、隠し酸味もしこんでおいた。
鶏肉はブロックで冷凍し、保冷ボックスへ放り込んでおく。現地の炊事場で切るのだ。
豆腐も現地で切る。
ポン酢は小さなペットボトルへ移し入れておく。
締めとして、うどん6玉。
そして翌朝の雑炊用に冷や飯1.5合ぶんと、たまご3個。
完璧だ。
◯
三人で集合を果たした後は、まず宇都宮でお昼ご飯。
「餃子! 餃子しか勝たん!」
Cさんの強烈な願いによって、
「じゃあ〔正嗣(まさし)〕へ行ってみるか」
宇都宮人からこよなく愛されていると名高い、餃子の銘店だ。
……が。
「だめだ、行列が長蛇すぎて、とても並んでられんぞ、これ」
評判の宇都宮餃子を貪る夢は、打ち砕かれた。
ならば、嗚呼、我々はどこで何を食べたらいいのだ。
そう悩みながらも、スマホで必死に検索するが、ふと、そんなわたしへ天啓が降りた。
「店内で餃子が食べられないのなら、車の中で食べればいいんじゃね?」
「それだ!」
Cさんは、喰いついてくれた。期待どおりだ。
宇都宮で評判であるだけに〔正嗣〕は何店舗もあって、その中でも持ち帰り専用店舗へ直行し、車の中で食べれば、並ぶ必要もないではないか。
この日の、わたしの冴えを讃えたい。
やがて。
「ほい、お待ち!」
一人につき三人前18個。合計九人前54個の持ち帰り餃子をかかえ、わたしは車へ帰還。
蓋をあける。
湯気が立ち上る。
餃子の香気が車内へ充満する。
紙箱の中の餃子へ、タレを掛け回す。
「むしろさ、普通にお店で食べるより、こっちの方が楽しいよね」
自画自賛だが、
「ほんと、それ!」
「Cさんがこういうの好きで、助かったよ」
もしかして、普通なら不満に思うかもしれないこの状況、Cさんも夫も大好きなのだ。
だって、イレギュラーな方が、楽しいしね。
〔正嗣〕の餃子は、ニンニクを使用せず生姜が香ばしさを引き立て、かつ、野菜がぎっちり詰まってる。
餃子共和国・宇都宮で、多くの人に愛されるのも当然な味だと思う。
もうね、ぺろり、余裕だったね。
ただ、一方で宇都宮餃子もう一つの雄〔みんみん〕のファンも少なくないらしい。
〔正嗣派〕とは熾烈な争いを繰り広げているという噂もあるが、たぶんそれ『きのこたけのこの争い』と大差ないレベルだと思う。
え、違う?
それはともかく、
(もう一人前くらい行けたな……)
そう思いつつ、進路は北へ、いざ那須の北温泉へ。