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【神保町】びゃんびゃん麺 文字面のインパクトよ

 びゃんびゃん麺。
 中国の伝統的な、平たい麺だけど、漢字が出てこない。
 どうやら中国では3番目に画数の多い漢字らしい。(や、その上があるってどういうこと!?)
 なので、本場では「BiangBiang」とピンイン(中国のローマ字みたいなもの)とか「彪彪」「冰冰」とか「餅餅」とか表記されることもあるようだ。
 しかも長い間、専用の漢字がなかったとも言われるので、わたしの推測では民間では字をあてないまま「びゃんびゃん」と呼び習わしていた可能性あり、という気がしている。違うかもしれないけど。

漢字はこれ。呪いとかに使われそうな勢いで複雑だ。

 どうやらその平たい麺の形状をもって「びゃんびゃん麺」と定義しているっぽい。
 唐の時代にはその原型が見受けられたようで「餅餅麺」というのはあったらしい。上記にも列挙した文字のひとつだ。
 平たい麺を黒酢や唐辛子で味付けしたものだ。
 長安を舞台にした小説とかで、これを屋台に出すと庶民の味っぽい演出ができる。

 その「びゃんびゃん麺」が、日本でも食べられるってんで、前から狙ってた。
 先日、九段下に用事ができたので、そのついでに神保町へ寄ることにした。てくてくと歩いていける距離だし。
 着いたのは12時になる少し前で、どうやら人気店らしく、席がけっこう埋まっていた。
 お店の名は〔秦唐記〕である。
 表にメニューが飾ってあるものの、店内には物理的なメニューは置いていない
 QRコードを読み込んで、そこから品物を選ぶ手法なのだ。
 スマホが前提というところが、現代中国らしい。

秦唐記
秦唐記のメニュー

 ふと見渡すと、レジらしきものがまったく見当たらない
「ああ、電子決済が前提なんだな……これも現代中国らしいや」
 しかも、決済を済ませることで注文が確定という感じだった。

 とはいえ、スマホも電子決済も無理という人のために、どうやら紙メニューと現金でのお支払いも、店員さんに言えば対処してくれるようで、実際、そういうお客さんも一人だけ見かけた。

 辛いのからマイルドなものまで、味の種類は盛りだくさん。
 長安が大好きなわたしは、迷うことなく「西安酸湯麺」を選択した。
 辛くて酸味があるスープだ。

 本当は味的には「麻辣麺」の方が好みだけど、「西安」の二文字には勝てない。
 でも次に来た時は麻辣麺でいこうと思う。

 辛いのが苦手な人は「牛肉麺」か「鶏白湯麺」がおすすめではないかと思う。
 牛肉麺はやさしい醤油系に近い味だと予測。かつて蘭州という、シルクロードの入り口的地点の街で食べた味で、その蘭州の名物でもあった。

 麺の他にも、
「おお、羊の串焼きがある!」
 これも頼む。
 わたしにとっては、シルクロードの旅を思い出させてくれる一品なのだ。
 むしろ西域を旅していた時は、羊肉ばっかり食べてた。イスラム教徒が多い地域へ足を踏み入れると、豚肉を全然見かけなくなるので、必然的に羊がメインになる。

西安酸湯麺

 やがて運ばれてくる、西安酸湯麺。
 これは、あちらにいたころ屋台でさんざん食べた味だ。
 酸味と辛味が調和していて、そのスープが平たい麺に絡んでくる。
 香菜(しゃんつぁい:パクチー)の風味も好き。

 人の味覚と記憶は、密接につながっている。
 西安では、岐山麺という細麺タイプが、これに近い味わいのスープだった。
 細い路地を探索したり、大通りに居並ぶ屋台を物色したり、城壁の上を散策したり、寺院の緑の木陰でひとやすみしたり……そんな毎日を送っていた頃の風景と感覚が、よみがえってくる。

 という感慨にふけっている場合ではなく、店内はあっというまに満席になった。
 食べたら、さっさと出ないと。あとがつかえているし。
 スープまですべて飲み干すと、どんぶりの底麺から「びゃん」の一文字が顔を出してきた。

どんぶりの底から、こんにちはー

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