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【富山】長く愛される町洋食 グリル不二軒
町中華、という言葉があって、本格ではないものの、日本人の舌に根ざした、素朴で、毎日でも食べられる中華料理を指す。
同じように、町洋食という言葉もあってよいと思う。
小さい店構えながら、その土地の住人たちの舌になじんだ洋食だ。
ある冬の最中。
こつぜんと洋食が食べたくなって、近所の町洋食屋さんへ。
道ばたに雪が固く吹き溜まっている寒い空気の中、扉をあけたら途端に、ふわっとラードの温かな香りにつつまれる。
ちょっとかじかんだ手でメニューを手に取り、定番のカツレツか、カキフライあたりを頼む。
付け合わせに出てくるスパゲティは、柔らかく茹でた、たっぷりデンテ。
パスタは絶対にアルデンテ派のわたしだけど、町の洋食屋さんでは、むしろこっちであってほしい。
建物も、数十年の年月をへて、いぶし銀な雰囲気に沈んでいるのが、よい。
ま新しい店構えだと、なんだか、その、味わいが半減する気がして。
自分の人生よりもずっと長く続けている、経年変化に満ちた建物が、町洋食にはやどっていてほしい。
◯
さて。
手打ちうどん〔アラキ〕を目当てに富山まではるばる車を走らせたものの、二泊三日のうち、行けたのは二日目のお昼だけ。
日曜と祝日は休業日なので。
北関東へ帰る最終日。
魚介類も食べたし、富山を去る間際には何を食べたら……と思ったら、美味しい洋食屋さんがあるという情報を得た。
洋食屋なんて、どこにでもある……ものの、『その土地の洋食』を味わうのは、とても風情があるし、意義もある。
ローカルの私鉄の踏切そばにある、その〔不二軒〕というお店は、ずいぶん長らく、土地の人に愛されてきているそうだ。
わたしが求める、理想的洋食屋さんに、とても合致している。
店内へ入ったとたん、期待通り、ふわっとラードの香ばしさに全身を包み込まれて、これだけで、うっとり陶酔しそう。
まだお昼前だというのに、一階のカウンター席は全部うまっていて、二階の座敷へ通された。
そう、テーブルではなく、畳がしかれた座敷なのだ。
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メニューを手に取って、その安さに驚きつつ、
「より、コスパがよさそうなものを……」
貧乏性のわたしは、なるべく安く、それでいて量を食べられるものにしようと、血走った目で、これから胃袋へおさめるべきものを見定める。
「よし、特ランチだ!」
まあ、わたしらしい選択だと思う。
魚、エビ、ハンバーグ、唐揚げが乗っていて、これで730円。
「俺は、とんかつWだな」
夫婦それぞれ、ボリューム重視である。さすが、夫婦だけのことはある。
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他に、鮭のステーキ、ホタテ貝のステーキ、かきフライなども気になって、最後まで真剣に悩んだものだったけど。
特ランチの各種フライへ、ウスターソースをたっぷりかけまわす。
普段は、もっとどろりとしたソースを使っているけれど、こういう町洋食には、やはりさらっとしたウスターが最もつきづきしい。
付け合わせのナポリタンも、期待通りの柔らかさ。
ランチプレートから立ち上る、油の芳醇な香りを胸いっぱいに吸い込んで、いざ実食。
ご飯とともに口へ放り込むのだけど、このご飯も、地味に美味だった。
米も良いのだろうけど、たぶん、水も上質なんだろうと思う。
わたしが住む北関東も、水のおいしさにかけては負けてはいないと思うけれど、いかんせん、やっすい米ばかり買っているもので、たまにこういうご飯に出会うと、たちまちまいってしまう。
口の中にブラックホールでも飼っているのかというくらい、ほいほいと吸い込んでゆく。
満ち足りた気分で、富山を後にした。
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◯
ところで、わたしの近所にある町洋食。
車を停めるのが不便で、なかなかいけないでいたが、そのうち閉店してしまった。
コロナ禍に、耐えきれなかったのかもしれない。
店も人も、生きているだけで、もう奇跡。