【青森】その5 さよなら青森また会う日まで
地元おこし、というのはとても難しい事業だと思うけれど、成功を収めた例も確実にある。
青森の外ヶ浜にある〔マツオスーパー〕が、そのひとつだ。
青森が産んだ作家・風祭千さんがSNSでも触れていて、最初はなんのことかわからなかったけど、風乃まちさんという方が中心になって活動しているとのこと。
その企画の一環として、地元のマツオスーパーでは、店舗面積の半分くらいを使い、寄贈された本を展開している。
くわしくは、風乃まちさんのWEBサイトを見てほしいけれど、一種の聖地的に賑わっているのだ。
ツーリングで訪れる人もいる。
マツオスーパーでは〔マツオの一撃〕という、ホタテを贅沢に使ったホタテドッグを売っていて、かなりの人気商品。
なお、時間が遅かったせいか、わたしは食べ損ねた……。
そんな〔マツオスーパー〕さんへ、今回、わたしの『もののふうさぎ!』を寄贈させていただこうと持参してみた。
風祭さんに付き添ってもらって。
自分一人だけでは、気恥ずかしくて、拙著を受け取ってもらうなんてとても出来やしなかった。
需要、あるといいけどな……と気後れしながらも、恐る恐るお渡しする。
風祭千さんの『チューニング!』が展示してあって、よく見れば、幾度となく読まれたであろう跡がついていて、嬉しさがこみあげる。
好きな作品が、いろんな人にも読まれているって、ほんとうに嬉しい。
マツオスーパーでは、たびたびイベントを起こして、あちこちからお客さんが来るそうだ。
今まで何の縁もゆかりもなかった小さなスーパーだったけれど、またいつか、ここを訪れたい魅力を放っていた。
後日。
文芸社さんからマツオスーパーさんに、書籍がたくさん寄贈された。
同じNEO作家の月森乙さんも、たんまり送ったらしい。
もうね、いろんな人たちが協力したいと思ってしまう魅力がある企画ってことだよね。
◯
この旅は、わたしにとって風祭千さんの『チューニング!』のロケ地訪問。
その文字空間に登場した、あれやこれやの場所を訪れるのが主目的だったけれど、それももうすぐ終わり。
その最後の場所は、作中でもクライマックスとなる『Aフェス』が行われた会場。
モデルとなったのは『あぶらかわ音楽祭』というイベントで、作中での場所は、油川市民センターの体育館とのこと。
なにしろ、作者さんご本人が車の助手席に乗って案内してくれるのだ。
こんな贅沢なロケ地訪問はない。
ファンまるだしで、特等席で作品世界を味わっているようなものだ。
他の人がみたら、どの自治体にもあるような、何の変哲もない体育館かもしれない。
でも、ここが作中クライマックスの舞台になったと思うと、風景に彩りときらめきが宿る。物語の登場人物たちがその場で動く光景が、脳裡によみがえる。
◯
もう、この旅も終わりで、明日、地元へ戻る前に、おみやげだけは確保しておかなければいけない。
青森の市街地へもどると、風祭さんの案内で、観光物産館の〔アスパム〕へ。
この建物、昨夜、見た!
市街地を歩いていると、三角形の巨大建造物が青く照らされていて、異彩を放っていたけれど、これは観光物産館だったのだ。
これを見上げるわたしの脳内では、
「これは、悪の組織の本拠地なんだ。あの最上階には、悪の親玉が不敵な笑いで腕組みし、主人公たちを待ち構えているんだ。
敵を倒しながら最上階を目指し、ついに対峙する!
やがて、窓がパリーンと割れて、ガラスが飛び散る中を、倒された悪の親玉が落下してくんだ……!」
楽しい妄想が繰り広げられていた。
そのすぐそばには、ねぶたの製作所がいくつも立ち並んでいて、風祭千さんの詳しい解説を聞かせてもらいながら見学する。
あと三ヶ月ほどで迎える本番にそなえ、中では何人ものねぶた作家さんたちが、せっせと立ち働いていた。
まだ針金の骨組みの状態ながら、すでにして表情がうかがいしれるほどに組み上がっている。
本番をいよいよ迎えるその瞬間には、
「あそこにある高架下をくぐる時に『もっと下ろせ、上がつっかえているぞ!』という怒号が響いたりするんですよ」
臨場感のある解説で、風祭千さんが語ってくれた。
◯
明けて翌日。
さよなら、青森。
でもその前に、行くべきところがある。
「成田本店さんへのおみやげ、渡しそこねてた! 風祭先生にも渡すのを忘れてた!」
間抜けな理由ながら、またお会いすることができた。
二日連続で会うことになり、風祭さんとお互いに喜びあう。
いざ、成田本店しんまち店を再訪すると……。
「ああ、うちのお嬢さま(SNS担当)、今日もお休みなんです」
作家さんがプライベートで訪れる際には、9割の確率でお休みの日にあたっちゃうジンクスは、強烈だった。