【京都】京の紅葉と、料理屋〔志る幸〕にただよう幕末の残り香
「ねえ、のどか。京都の紅葉を見にゆこうよ」
何年か前、友達のあんじーに誘われた時、
(そういや、京都へ行くのはいつも秋だけど、紅葉をわざわざ見に行ったこと、なかったっけなあ)
計画は、決まった。
ターゲットは東福寺。
二泊三日の旅。
初日も二日目も、京都の老舗・イノダのコーヒで朝食を摂りつつ、その日の計画を練って、動く。
京の旅は、やはりイノダからはじまる。
清水寺も見事な紅葉だったけど、なにしろ人が多すぎ問題。
いつ、いかなる時期へ行っても、清水寺は常に混雑している。
けど、参道にひしめくおみやげ店を覗くのはとても楽しい。
中学生の頃、わたしはここで、信楽焼のおたぬき様を買ったっけな。
同じ混雑するにしても、東福寺はもっとゆったり紅葉を眺めていられる。
とは言っても、こちらも観光客がどっとおしよせるけど、清水寺のような超過密ではないのが、ちょっと助かる。
通天橋という、本堂と開山堂をむすぶ橋の廊下をわたると、眼下に見事な紅葉がひろがっている。
こんな場所でも、あんじーと二人で旅すると、くだらない抱腹絶倒な話題がつきない。
他へもらすと末代までの恥になるような、アホな会話だ。
観光客がぞろぞろと橋廊をわたる中、腹筋を崩壊させ、今にも窒息死しそうなこの二人へ、痛い視線がそそがれる。
オリンパスのPENを買ってまもない頃だったので、レンズをせっせと交換しながら、なるべく映える写真を撮りまくる。
いっぱしのカメラマンになった気分で悦にはいるわたしは、ちょっとカッコ悪いけど。
そういえば以前、仕事で知り合ったカメラマンさんが言ってた。
「のどかちゃん。カメラマンのプロとアマの違い、わかる? それはね……プロを名乗ったら、その日からプロなんだよ」
◯
夕食は、京都の市街地にある〔志る幸(しるこう)〕と決めていた。
普段は、
「赤味噌こそ最高! 特に八丁味噌こそ無敵!」
と思っているわたしだけど、京都ではさすがに白味噌を味わいたい。
志る幸では、白味噌、赤味噌、すましの三種類を用意しているけれどね。
なんやかやで、白味噌には京都の洗練がやどっていると思っているから。
その名のとおり、つまり「しる」がついているとおり、汁物を主としているらしい。
頼むのは、名物の「利休辨當」だ。
型押しした混ぜご飯を中心に、焼き魚やおひたしなどの料理が品よく配置してある一膳。
しかし、これだけが目的ではない。
なんとこの志る幸、幕末の大歴史事件の舞台となった場所に立っているのだ。
新選組が、池田屋事件で大活躍する前夜。
勤王志士側のテロリストが、この場所に潜伏していたのだ。
それは小高俊太郎と云い、新選組による捕縛により、とんでもない計画を自白。
それは「御所へ火を放って襲撃し、天皇を連れ去る」という、途方もない内容。
……や、それのどこが「勤王」なん?
自分達に都合のよいテロでしかないじゃん!
ともかく、この自白が発端となり、池田屋事件が発生し、新選組の名は一気にとどろくことになった。
そんな歴史に思いを馳せながら、利休辨當を味わう。
たまらん。
あんじーは、わたしの歴史語りをただひたすら聞くばかりなので、退屈してないか心配になったけど、
「のどかの解説、わかりやすくて楽しいよ」
珍しく、わたしのことを褒めてくれたので、ますます饒舌になっちゃうのであった。
もうね、しょうがないよね、歴史大好き人間としては。