【神田】 あんこう鍋いせ源 その2 と、運を使い果たしたライブ!
あんこう鍋を前に、うきうきしながら、じっと沸騰を待つ。
やがて……。
「よし、ウドに色がついたよね」
店員さんの説明をしっかり守り、火を弱める。
小鉢に取って、いざ食べ始め。
割り下は醤油ベースで、ほんのり甘いが、べとべとしていない上品さ。
あんこうはゼラチン質がぶよぶよしていて、噛むごとに旨味がにじみでて、肌にもめっぽうよさそうだし、秘伝の割り下と融合し、口の中を満たす。
あるいは白身の部分が、ほんのひと噛みで、ほろほろとほどける。
具の半分くらいは、あんこうの各種部位で、けっしてケチケチしていないのが嬉しい。
きわめつけは、中央に鎮座するあん肝。
ちょっぴりずつ箸でちぎり、舌の上へのせる。
とても滑らかで、臭みがほとんど無く、濃厚な旨味が溶け出す。
上品なチーズにも似ている。
満足して、ほぼ全てを食べ切った時、頃合いを見計らってくれたのか、またお店の人があらわれ、
「おじやです」
ご飯と卵を持ってきてくれた。
しかも、客にやらせるのではなく、お店の人の手で作ってくれる。
プロの鋭い目つきで、割り下をちょうどいい量に調整し、火をつけ、ご飯を投入。
その隙に、卵をかき混ぜるのだけど、これが『カカカカカカカカカカッ』と小気味のよい音をたてるのだ。
溶き卵を流し入れ、具合をみながら火を止め、さいごに大量の青ネギで表面を覆い尽くす。
こんなの、美味しくない訳がないよね。
◯
ところで、本来の目的は、秋葉原でのライブ。
ということは、神田淡路町へは徒歩圏内ってことで、わたしは鋭く閃いたのだ。
「じゃあついでに、ひさびさ〔いせ源〕へ行けるじゃん、やほー!」
という訳で、お腹も気持ちも満足したところで、わたしの好きなネットラップのライブへ向かった。
通勤の最中にもよく聴くくらい好きなラッパーさんだ。
コロナ禍で、こういう場所へ出るのをひかえていたから、実に二年半ぶりだ。
今回は、お昼すぎから夜まで、たっぷり6時間のライブ。
そのネットラッパーさん、しばらくライブをやらないということで「今を逃したら、チャンスがなくなる──」ということで、家は遠いけど頑張って出向いた次第。
演者はお酒をかっくらいながら、最後には、へべれけに酔っ払ってダウンするライブ。
お酒が尽きたところで、主催者の友達がさらなる追加を差し入れに来た。
わたし、ステージでの、主催者さんと友達同士のやりとりを、ぼんやりのほほんと眺めていたが、やがて……、
「え、あ!?」
かなーり遅れて、ようやく気づいた。
それは、わたしの推しだった。
普通ではけっして会うことの叶わない、わたしのすきぴな推しだった。ファン数、数百万人レベルの人だ。(そしてわたしはファンクラブ会員だ)
考えてみれば、別に不思議じゃない。
なにしろ、その推しとライブ主催者は昔からの友達なんだから。でも忙しい人だし、来るとは想像できていなかった。
やがて……。
その推しは客席側へ周り、この20人ばかりの小さなライブハウスの中、なんとわたしの真横にならんで一緒にノリまくった。
なんたる奇跡!
来年に開催される、推しのライブには落選したものの、思いがけないところで、その不運をすっかり回収して余りある夜になってしまった。
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