【浅草】駒形どぜう 意外と好評・どじょう鍋
時おり〔浅草女子会散歩〕なんてものを企画して、友達を誘うことがある。
どこでご飯を食べようかという話になると、ひとまずいくつか候補を挙げてみるんだけど、なぜか高確率で選んでもらえるのが〔駒形どぜう〕だったりする。
どじょう鍋なんて、敬遠されても不思議じゃないんだけど、その分だけ、わたしが懸命にその美味しさをプレゼンするせいかもしれない。
いやもう、本当に美味しいんだから。
浅い鉄鍋に、長細いどじょうが並んでいて、それを出汁の効いたわりしたで、ぐつぐつ煮込む。
鉄鍋の下にあるのは、真っ赤に熱した炭火だ。
煮たってきたところで、備え付けのネギを「これでもか!」というくらいたっぷり盛り盛りにのせる。
そのネギが、くたぁ〜となって、汁を吸う。
好みに応じて、七味唐辛子や粉山椒をふりかけるのもいい。
これを、つまりどじょうと大量のネギを、熱いご飯にちょいと乗せて、はふはふと食べる。
どじょう汁も絶品。
どろっと濃厚なお味噌汁に、どじょうの身が入っていて、実に出汁がきいているのだ。
強いどじょうの風味には、薄い味噌ではなく、このくらい強い味噌っぷりが実によく合う。
「え、どじょう鍋って、泥くさそう……」
なんて怪訝に思ってた友人一同も、この辺で考えを変えてくれて、
「もしかして、美味しいんかも……」
というふうに傾いてくれる。
で……実際に食べてもらった後の評価は、
「めっちゃ美味いじゃん、どじょう鍋!」
100%の確率で、喜んでくれる。
わたしは「ふっふっふ……!」と、陰謀が成功した黒幕のような笑みを浮かべるわけだ。
場合によっては、次以降の女子会散歩でも「あそこ行こうよ」と言ってくれる。
ま、他にもおすすめしたいお店がたくさんあるので、
「や、今度は別のでもよくない?」
こちらが途惑うレベルで、気に入ってくれたりする。
○
ある時、別系統の友達三人で、
「浅草を浴衣で散歩しよう!」
となったことがあった。
わたしをいつも生暖かい笑みで見守ってくれるKさん。
それから、家出が趣味の家出娘。
この二人は、おたがいに初対面だった。
家出娘は……周囲をものすごい勢いで振り回す子なので、それを笑って許してくれそうな友達として、一緒に誘えるのがとても寛容な、というより、そういうの込みで面白がってくれそうなKさんしかいなかったのだ。
で。
待ち合わせ場所の、吾妻橋のふもとの交番前。
「家出娘が……来ない。連絡もない」
わたしとKさん、二人そろって首をひねっていた。連絡しても、返信は無し。
家出の果てに、東京で試しに生活することになった家出娘は、この時新宿に住んでいたけど、交通機関に慣れていないだろうからと、乗り換え経路を事前に教えておいた……はずなのだけど。
「やっと連絡来た! ……え、ちょっと待って、これどういうこと?」
途惑うわたし。
家出娘は、わたしが教えた経路をガン無視し、まったく別の路線で迷子になって、随分と遅れてしまったらしい。
いや、そこまでは、まあいい。とにかく、いい。
問題は……。
「えっと、Kさん、なんか……家出娘、遅れたから先にレンタル浴衣屋さんへ行ってる、とか言ってるんだけど」
わたしは自前の浴衣で着ていたけれど、Kさんはそのレンタル屋さんで着替える予定でいた。
だから、合流してから一緒に行くことになっていたし、そもそも、遅刻したついでに自分だけ先にそっちへ行くとは。
いや待てい!
まずは来るなら、待ち合わせ場所でしょが!
一向に姿を見せないから、心配しとったんだけど!?
Kさんが、笑う。
「のどかを、そこまで怒らせることができるって、貴重だね」
いや、もうね、ほんとKさんでよかった。他の友達を誘ってたら、これ、確実に激怒される事案だったわ。
すったもんだの挙句、ようやく三人そろうことが出来たので、若干とほほな気分で駒形どぜうへ向かった。
Kさんは一緒に何度か来たことがあったけれど、家出娘は初のどじょう鍋デビュー。
「何これ、美味しい! のどかさんが言ったから、半信半疑で来てみたけど、イメージ裏切られたよ、すごい!」
とても喜んでくれた。
大幅に遅刻したことも、待ち合わせ場所をすっとばしたことも、反省した様子はないけれど、ま……喜んでくれて、わたしも嬉しいよ、と思いながら、味噌田楽をほおばった。