【沖縄】その3 憧れのジンベエザメ先輩
沖縄2日目。
この日以来、わたしはジンベエザメを、尊敬することに決めた。
だから「ジンベエザメ先輩」と呼ぶことにした。
◯
ちゅらうみ水族館は、とても広大で、入り口ではさっそく、ジンベエザメの銅像が出迎えてくれる。
これだけでも、ジンベエザメの雄大さの一端が味わえるというものだ。
見どころなんて、当然語り尽くせないので、すっぱり割愛するにしても、どうしても外してはいけないのが、そう、
「ああ……ジンベエザメ先輩」
アクリル壁を隔てた水中を、悠然と泳ぎ征くジンベエザメ。
世の中の細かいことなど、知ったこっちゃなくて、その大きな口で水を吸い込みながら、我が道を泳ぐ姿。
せかせかしたところが、微塵もない。
眺めているだけで胸にじんわりと宿るこの謎感動。
だから、この出会いの瞬間、
「……これからは、先輩と呼ばせてください」
つぶやかないでは、いられなかった。
美ら海水族館へ行ったことのある人は、きっと多いから、経験者なら共感してくれるに違いない……よね?
ヒトデに触れるコーナーで、きゃっきゃとはしゃぐのも、よい。
チンアナゴの可愛さに、癒されるのも、よい。
エイの泳ぎっぷりも、なかなか悠然としているし、それもよい。
同じ水槽で、普通にサメが平和に泳いでいる事実に、驚愕を覚えるのも、よい。(エサさえあれば、わざわざ狩なんて疲れること、しないんかな?)
イルカショーでイルカのオキちゃんと出会い、水飛沫を全身にあびて、テンションMAXになるのも、よい。
でも、ジンベエザメ先輩に出会えてこその美ら海水族館だと、わたしは断言したい。
動物園や水族館では、時おり、まるで哲学をしているかのような表情の動物や水棲生物に出会えるけれど、ことジンベエザメ先輩に関して言えば、その哲学ですら「小さきこと」として、気にも留めてないのではなかろうか。
立ち去り際、わたしはジンベエザメへ向かって、深々と、丁寧にお辞儀をした。
◯
最後に。
水族館には、骨格標本の展示エリアもあったりする。
他の水族館はどうだか知らないけど、少なくともわたしがたまに出向く、関東人にもおなじみの大洗水族館には、それがある。
もちろん、美ら海水族館にも。
「なあ、のどか。ああいう巨大な口の標本とか見ると……やりたくならねえか?」
「愚問なり」
つくづく、わたし達は夫婦だな……そう思う。
や、籍を入れたのはこの後なので、夫婦になるべくしてなった、というか。
◯
なお、夕飯にはタコスと決めていた。
当然これも美味しかったけれど、ふと脳裡によぎったのは、
(高校生の頃、近くにタコス屋さんがあって、常連だったけど、『沖縄発祥のお店』とか謳ってたから、てっきり沖縄料理だとばかり思ってたっけ……)
友達にドヤ顔で『タコスは沖縄料理なんだよ』と教えてあげたら、逆に『バカだなあ、メキシコ料理だよ』と生暖かい目で見られた、ほろ苦い憶い出に、おもわずニヤニヤとしてしまった。
些細ながらも恥ずかしい思い出ごと噛み砕くかのように、また一口、タコスへかぶりついた。
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