特許データの面白さ
ずっと「フォローさせていただく専用」だったNOTE。最近の盛り上がりを見て、自分の仕事も書いてみたくなりました。
私は「サーチャー」(データベース検索技術者)という仕事をしています。専門分野として、特許情報を扱っています。最近、ビッグデータという言葉も目新しくなくなってきましたが、特許情報って「元祖ビックデータ」みたいなところがあり、世界の主要特許庁が発行している公報データや審査経過情報、引用/被引用情報が、古くまで遡ってデータベース化されているんですよね。CSVデータなども簡単にとれます。
今日はAIを使った画像診断を例題に、特許データの特徴や面白いところなどを書いてみます。米国特許と欧州特許(広域特許)を対象にしました。
もくじ
・特許出願の増加時期は?
・出願人の国籍(居住国)で多いのは?
・どんな会社が出願している?
・消えた企業と技術者の行方?
・特許情報の面白さ
特許出願の増加時期は?
米国でも欧州でも特許出願が増えていおり、特に米国での増加が著しいです。また「2015年以降、出願に急ブレーキ!?」のように見えるのですが、これは特許情報の特質によるものです。世界中ほぼ全ての国で、特許出願されてからしばらく「出願内容は秘密(非公開)」です。出願内容が公開されるのは出願後1年半(18ヶ月)という国が多くて、今(2018年7月)ですと「2016年末までの出願が、公開情報として出そろった」段階になります。
(母集団は特に説明のない場合「米国に出願されたもの」「欧州に出願されたもの」の20年分合計、です。)
出願人の国籍(居住国)で多いのは?
米国、欧州に出願しているから欧米企業?かというと、確かに米国(US)、ドイツ(DE)、オランダ(NL)なども多いのですが、他には日本、イスラエル、韓国などからの出願も多いです。
「アメリカからはきっとGEメディカル?」「いやいや、IT企業が医療向けの画像処理の開発を?」など、色々な企業名が頭に浮かぶ方もいらっしゃるのではないでしょうか?そこで、国別に企業名をチェックしてみます。
どんな会社が出願している?
この記事では「米国」と「イスラエル」に所在地のある企業をピックアップしてみます。
グラフ化していない国で、出願件数トップだったのは
・日本・・・東芝
・オランダ・・・フィリップス
・ドイツ・・・シーメンス
・韓国・・・サムスン でした。
予想通りといえば予想通り、なのですが、特許情報の世界では「研究開発投資をしているであろう、と容易に予測できる顔ぶれが登場する」ということは、正確に検索ができている目安になる、とも言えます。
逆に考えると「医療向け画像処理の特許を調べているのに、GEやシーメンスが出てこなかったら、母集団が適切にとれていない可能性が高い」ということです。
さて、米国企業では GE以上に出願件数の多かったHeartflow。
https://www.heartflow.com/
画像ベースの冠動脈血流モデルを開発してきた会社とのこと。
また、イスラエル企業で出願最多だったSYNC RXは、自動オンライン画像処理を使用して心臓血管カテーテル治療をサポートする技術を開発していた模様ですが、現在、Webサイトにアクセスできません。
ここから、SYNC RXの行方を、特許情報を切り口に探ってみます。
消えた企業と技術者の行方? (SYNC RX)
イスラエル企業で出願件数最多のSYNC RX社ですが、2018年7月現在、Webサイトが繋がらなくなっています。(URLの痕跡のみがありました)
この企業が特許出願を行った時期を見ると、3年前を最後に出願が行われておらず、技術開発を断念したようにも思えます。
このような場合、
・会社は買収されたのか?存続しているのか?
・開発断念したとしたら、技術者はその後どうしているのか?
といった事も、特許情報から推察できます。
企業買収の場合、ネット検索等で「企業買収」のニュースがヒットすれば、ある程度判断がつきやすいです。が、SYNC RXのケースでは、買収のニュースもヒットしなかったのです。
そこで「特許の権利維持状況」を見ると
特許権の維持費用(Fee)は近年も支払われていますし、名義変更が行われていないので、間接的ではありますが「会社自体は存続しており、特許も持ち続けているようだ」と考えるのが妥当と思われます。
そして技術者は?というと・・・
これは「発明者」で検索します。より近年に、別の会社で医療用画像AIの出願をしていたら「別の会社に移った」と判断できるからです。
実際に、SYNC RXの特許で確認できた発明者を検索すると
このように
・イスラエルの別の企業(ニュートリシール)に移った技術者がいる
・2016年には出願している(優先日)。SYNC RX最後の出願の翌年!
(この人は、すぐに転職したのね・・・)
といった事まで、特許情報から読み取れます。
特許情報の面白さ
この記事でも取り上げてみたように
・技術の流れ(盛り上がってきた時期)
・どの国の、どの企業が参入している?力を入れている?
・開発は続けている?それとも断念した?
のような、マクロ的に捉える要素もあるし、
・技術者はどこに行った?
・具体的には、どんな内容の発明をしている?
など、個別にデータを見る要素もある。
技術の側面と、権利情報・企業情報の側面の
両方を持っている所も、データとして面白いです。
この記事が「こんなデータもあるんだな」と知っていただくキッカケになれば嬉しいです。
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