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プレプリントの普及と先行技術調査
こんにちは!特許調査の仕事をしてます、酒井といいます。こちらは学術論文のプレプリントと投稿用サーバー(以下、プレプリントサーバー)についての記事です。「学術論文のプレプリント利用が加速しているらしい」「先行技術調査の選択肢が増えるかも?」「出願予定の場合は要注意?」・・・というような話を書きます。
この記事を書こうと思ったキッカケはこちら。
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[お知らせ]「文献」情報中にプレプリント情報の搭載を開始しました。
(2022年3月2日)
J-GLOBALでは、2022年3月2日に、10種の基本情報「文献」中に新たにプレプリント情報の登載を開始いたしました。
対象プレプリントサーバーはarXiv,medRxiv,bioRxivとなり、当初2021年データを登載、その後2020年データを登載予定です。
「J-GLOBALにプレプリントが収録される事になりました」というお知らせです。が、普段の仕事で「特許比率」が高いと「プレプリントって何?」ってなりそうですよね。(私も最近までそうでした。)
プレプリントとは
プレプリントとは「査読前に著者自身がプレプリントサーバーに投稿する論文」です。(中略)COVID-19流行を契機として投稿数が大幅に増加したこともあり、近年注目度が急速に高まっております。
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従来の論文は「投稿」「査読」「出版」を経て公開されるのが一般的でした。これに対してプレプリントは、研究者自身がプレプリントサーバーに投稿し、すぐに閲覧可能になるため、速報性が高いです。
なお、査読は経ていないため、査読を経た論文よりは信頼性に劣る場合もある、とされています。
最近、プレプリント投稿数が増えている
数年前から「プレプリントサーバーが世界的に増えている」という指摘があったそうなのですが、
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COVID-19以降「査読を待たずに、研究成果を迅速に情報共有しよう!」という動きが広まり、特に医学生物分野を中心に、プレプリントの普及が大きく進んだ、と言われています。
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新型コロナウィルス感染症により、投稿が伸びたプレプリント。
従来、論文誌を出版していた学術出版社大手4社も、プレプリントサービスへの参入をそれぞれに準備しています。
プレプリントは研究情報の新たな公開形態として、
地位を確立しそうな流れですよね。
プレプリントの収録を進めてきたJ-GLOBAL、さすが!と思います。
プレプリントサーバーはたくさんある!
J-GLOBALに収録されるプレプリントの範囲は
対象プレプリントサーバーはarXiv,medRxiv,bioRxivとなり、当初2021年データを登載、その後2020年データを登載予定です。
とのこと。
つまり、下記3つのサーバー
arXiv https://arxiv.org/ (物理学, 数学, 計算機科学等)
medRxiv https://www.medrxiv.org/ (臨床医学)
bioRxiv https://www.biorxiv.org/ (生物学)
に投稿された、
2021年分、2020年分のプレプリントを収録する、という事なのですが・・・
上記のようにプレプリントサーバーは「分野別」に設置されているケースが多いです。そして、主なサーバーだけでもこんなに⇩あります!
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ここに載っていないサーバーもあるでしょうから、かなりの数ですよね😅
つまり、J-GLOBALに入るのは「メジャーなサーバー3つだけ」とも言えます。
プレプリントは検索できる?
はい!J-GLOBALに未収録の部分については
対象のサーバーにアクセスすると、検索できる例が殆どです。
bioRxiv https://www.biorxiv.org/ (生物学) の例です。
トップページに簡単な検索窓もありますし、Advanced Searchを開くと・・・
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日付検索やキーワード、フルテキスト、引用論文など、
色々な検索機能がついています。
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特許調査(先行文献調査)との関係?
私がざっとネット検索した範囲では、特許とプレプリントの関連を論じた日本語記事は見当たりませんでした。(見落としはあるかと思いますが)
外国語でひとつ、見かけた論文がこちらです。(全文表示は有料)
Preprint servers and patent prior art
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冒頭部の要旨はこんな感じです。
COVID-19以降、プレプリントサーバーの利用が爆発的に増えた。
しかし、プレプリントサーバーでの研究内容開示は、その後の特許保護の取得を非常に困難にする可能性がある。
プレプリントの刊行物は、多くの場合、後から提出される特許出願に新規性または進歩性を欠くようにする「先行技術」であり、どちらも特許法の下での主要な要件である。
プレプリントがインターネット上で公開されるようになる以前、プレプリントは「一般に入手可能」でなければ先行技術とはみなされませんでした。参加者を限定して開催される会議で配布されたプレプリントは、必ずしも先行技術とは言えませんでした。しかし、インターネット上のプレプリントサーバーで公開された情報はあらゆる研究結果を誰でも、どこでも入手できるようにしました。
上記の論文は主に研究者に向けて書かれているようで
「自分のプレプリントが先行例になって、自分の発明を権利化できない可能性があるから、気をつけて!」というトーンで書かれていましたが、
今後プレプリントの利用が一層広まった場合には、
プレプリントサーバーが無効資料調査、先行例調査の情報源のひとつに
加わったりするのかも・・・?しれません。
同様に(GitHubが流行っている?)
プレプリントサーバーとは異なるのですが、
最近「GitHubで投稿論文を管理してます」的なお話もちらほら見かけます。
卒業論文、修士論文、博士論文は github/gitlab/bitbacketのprivate利用をお勧め
ネットで検索すると、本当にたくさん出てきます。
そして、若手研究者の間で広まっているのかな?という印象です。(推測)
こういった所も、将来、何かしらの情報源に成長していきそうに思います。
「検索できうるもの」は年を追う毎にどんどん増えているのと、
ユーザーが多い所に情報が集まる性質もあります。
楽しみながら情報をアップデートしていきたいものです😄