僕の部屋を会場に、の夢(2022.11.21)
自宅。
現実にはありえないのだが、豪華なタワーマンションの上層階に独りで住んでいた。間取りは、二十畳ほどのワンルーム。
玄関の反対側、奥の壁に、ドアがある。僕の部屋はあくまでもワンルームであり、隣の部屋は他人の所有。本来なら、ドアは不要なのだ。しかし、うちの玄関と同じ造りのドアが、しっかりと設置されている。
隣家との境界なのだろうから、そのドアを自分が開けたこともないし、誰かが開けることもないと思っていた。ところが。
開かずの扉だったはずのドアが、開いた。派手な服を着た三十代くらいの女性が出てきた。ということは僕の部屋に入ってきた。部屋を横切り、うちの玄関から外へ出て行った。僕の存在には気付かないようだった。突然のことにどうして良いか分からず、息を殺してじっとしていたからだろうか。
女性が開けっ放しにしていったドアから、彼女が所有している部屋の様子が見えた。美容院のような椅子と大きな鏡が並んでいる。彼女は美容師なのか。
ほどなく、女性がうちの玄関から、また入ってきた。彼女の知り合いらしき人たちを引き連れて。十人以上いる。そして、僕の部屋を会場に、パーティーを始めた。
女性が連れてきた客の中に、僕も知っているメキシコ人のプロレスラーがいた。他人の家で勝手に始めたパーティーをやめさせることよりも、プロレスラーの彼と話してみたいという欲求が上回った。
なぜか、プロレスラーの方も僕のことを知っていた。一緒に来ているスタッフから、パーティー会場を提供した人はプロレスファンであるという情報を聞いていたという。日本語も話せるようだ。
まず僕は、試合会場で何と呼ばれていますか、と聞いた。ファーストネームの方だと確認した上で、以後、○○さんと呼ぶことにした。
二十年前、東京・中野に住んでいて、総合格闘技のジムに入門したことなど教えてもらった。メキシコ時代のことを聞きたかったが、なぜかはっきりとは答えてくれなかった。もっと話をしたかったが、パーティーの流れで席が離れてしまう。
いつの間にか、手にトランプのカードを持っていた。テーブルを囲んで、数人がババ抜きをしているのだが、知らないうちに僕にも札が配られていたようだ。途中からだが、混ぜてもらう。
ゲームが進むうちに、いつの間にか、僕の手元にはカードではなく、柔らかいゴム製の、苦しげな表情の不気味な顔の付いたオタマジャクシのようなものが何匹かいた。大きさや尻尾の曲がり具合が、一匹ずつ違っている。
テーブルには森に囲まれた山の模型があった。山のところどころがくり抜かれている。ババ抜きから、手元にあるオタマジャクシを、尻尾と同じ形の穴に差し込むゲームに変わっていた。
間違った穴に差し込もうとすると、ゴムのおもちゃであるはずのオタマジャクシが、ちがう~、とか、できない~、などと気味の悪い声でささやく。怖気を震わせる声を聞いているうちに、すべてのオタマジャクシが所定の場所に収まったとき、何か良くないことが起きるのではないかと、不安になってきた。百物語の最後のロウソクが消えたときのように、得体の知れないものが現れるのではないか、何かしらの呪いがかかるのではないか、と。しかし、誰もやめようとせず、黙々と続行する。もはや、誰が勝ちなどというルールはない。
そして、最後のオタマジャクシが差し込まれたとき。
パーティーの主催者が、僕に向かって大声を上げた。
彼女がすごい剣幕で言うには、私がおしゃれな客だけを集めたおしゃれなパーティーの中に、どうして、あなたみたいな、おしゃれのかけらもない、うだつの上がらなそうなダサい男が紛れ込んでいるのよ、ということで、さんざっぱら僕のことをなじってきた。
勝手にひとの部屋で宴会を開いておいて、なんという言い草か。さすがに腹が立ったので、ここは俺の部屋だ、お前の部屋はそのドアから向こうだと、少し荒い口調で言った。隣人は驚いて、たじろいだ。僕はなぜか時代劇の奉行風に、今後こちらに入ることまかりならん、と告げた。そして、パーティーはお開きとなった。
オタマジャクシの山はどうなったか、ゲームの参加者に確認したら、悪いことも良いことも、特に何も起きなかったようだ。
プロレスラーが連れてきたのだろう、メキシコ国旗の色のポンチョにソンブレロといういでたちのミュージシャンが、メヒコ風の音楽を陽気に奏でる。バンドの生演奏をバックに、お客はふたつの玄関から帰っていく。
みな、にこやかに、僕に手を振りながら去っていく。まるで映画のエンドロールのようだと思った。