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百万文字の命 #9 【ペアnote/絵本】
「花売りなんて、珍しいね。」
世間話なんてこれまでした事のなかったカブールは、しどろもどろミーナに話しかけました。
「そう?私には、これしか出来ることがないから、、」
ミーナは笑顔でそう答えましたが、カブールの目には無理に笑っているように見えて、次に何を話せばいいのか分からなくなりました。
しばらくの沈黙の後、ミーナが話しはじめました。
「花は、人を笑顔にするの。私は、笑顔を見るのが好き。だから、ここで花を届けているの。」
カブールは、驚きました。
この街では、言葉は消耗品。誰もが自分のためにしか言葉を使いません。街からは、ハートメイトの声は聞こえても、人の声は聞こえてきません。人を笑顔にするために、自分の声で花を売るなんて話は、見たことも聞いたこともありません。
「ミーナのハートメイトは?」と、カメレオンのレブルが聞きました。
「ここにいるわ。」手に持っていた花籠から、蜂が一匹飛び出しました。よく見ると、触角が片方しかありません。
「ハチさんよ。よろしくね。」と、ミーナが言いました。
カブールは、また驚きました。蜂がハートメイトなんて、これまた聞いたことがありません。
「おいおい、蜂がハートメイトって、珍しいな。初めて見たぜ。ハチさんは、喋れるのかい?」
レブルが明るい調子で問いかけました。
「いいえ、喋れないわ。私にとってハチさんは、ハートメイトというより、大切なお友達なの。」
と、ミーナは言いました。
ハチさんは、くるりと柔らかな弧を描いて、ミーナとカブール達を繋ぐように、辺りを旋回しました。