新世界にて 他二編
こちらは本編が二分か三分という縛りの中で作った作品ですのですぐに読めると思います。
よかったら読んでね。
【新世界にて】
霧島 はるか
登場人物
・彩恵(32) 女 グラフィックデザイナー
・慶(24) 男 新卒営業マン
・詩織(22)アパレル店員
1彩恵の家 キッチン
皿に勢いよく投入されるシリアル。
皿に盛りつけられるクッキー。
彩恵「できたよ~」
盛り付けをしながら声を掛ける白いパジャマ姿の彩恵(32)。
2同 リビング
彩恵 「お待たせ~」
と言いながらリビングに入ってくる彩恵。
彩恵がテーブルに料理を置き始める。
ワイシャツに少しきつそうなスウェットのズボンをはいた慶(24)とダボついたパジャマ姿の詩織(22)がゆっくりと起き上がり、テーブルの上のシリアルを眺める。
二人とも床で寝ていたようだ。
彩恵 「二人とも爆睡だったね」
彩恵がスプーンを慶と詩織に手渡す。
受け取る慶の手首には包帯。
彩恵、気まずそうな表情で口を開く。
彩恵 「もう、あと少し」
慶と詩織がぎょっとして彩恵を見る。
詩織 「どっちもですか?」
彩恵、うなずく。
彩恵、二人をうかがうように見る。
慶、シリアルを見つめている。
詩織、慶を見て、彩恵を見る。
彩恵、詩織を見つめ返す。
詩織も彩恵を見つめ続ける。
3同 玄関
ドアノブに鎖が巻き付けてある。
ドアはソファでふさがれている。
END
【そこでおどる】
霧島 はるか
登場人物
・文乃 20代
・ナナツメ 20代
・よう子 30代
1病室 扉
扉少し開いていて、隙間から目がこちらを覗いている。
2病室
病院のベッドで黒いスウェットを来た文乃(20代)が寝ている。
そこへ青いワンピース姿のよう子(30代)
がやってくる。
よう子の手には目玉が握られている。
よう子に気づき、身体を起こす男。
よう子が無理やり男の口に目をねじ込む。
抵抗する文乃。しかし、よう子に目を飲み込まされてしまう。
3病室 扉
扉少し開いていて、隙間から目がこちらを覗いている。
4病室
ベッドの上で、文乃が呆然と虚空を見つめている。
文乃の腕には無数のリストカットの後。
文乃の手首には目玉が描かれている。
いつの間にかベッドの脇に黒いワンピースを着たナナツメが腰かけている。
ナナツメの右頬には目が三つ、左頬には目が四つ描かれている。
ナナツメを一瞥する文乃。
ナナツメが文乃の耳元で何か囁く。
無表情のまま聞く文乃。
×××
文乃とナナツメがベッドで寝ている。
文乃の手首の目玉が描かれた部分から血が流
れている。
END
【排水溝】
1 僕の自宅 キッチン 夜
風呂から出てくる僕(二十一歳)。立ち止まり、キッチンをじっと見つめる。
2 画面暗転
オペレーター 「はい、119番です」
僕 「どうしましょう」
オペレーター 「どうなさいましたか?」
3 僕の自宅 キッチン 夜
僕が呆然と立ったまま、スマホで119番に通報している。シンクには血にまみれた包丁がある。僕の片方の手首は切れていて、血が流れている。僕は手首の傷口をまじまじと見つめている。
僕 「手首をね、切ってしまったんです」
オペレーター 「はい?」
僕 「別に死にたかったわけじゃないんです。いや、死にたかったのかな。とにかく、よく分からないんですが、手首をきってしまいまして。なんでだろう。変ですよね。理由を聞かれてもわからないんです。それにさっきまで、明日も頑張ろうって思っていたんです。明日はね、とてもいいことがあるんですよ。いいこと。あれ、そんなことあったかな。なんでそう思ったんだろう。でも確かに、死にたいなんて思うようなことはなくて。でも、お風呂からあがって、キッチンの横を通ったら、いつの間にか手首を切っていたんです。おかしいですよね。僕も自分で何を言っているのかわからなくて。原因なんてなかった。いや、本当になかったかな。待ってください。わかりました。お風呂からあがったとき、ふとキッチンの排水溝を見たんです。あれです、排水溝が原因です。それだ。そうに違いない。とにかく、死ぬ気はなかったと思います。あったかもしれませんが。排水溝のせいですよ。早く救急車をよこしてくれますか?あのね、出血が、とても酷いんです」
END