心不全を評価する採血検査とは? ~診断と管理のための重要な指標~

 心不全は、心臓のポンプ機能が低下し、全身に十分な血液を送り出せなくなる病態です。その診断や重症度評価、治療方針の決定には、さまざまな採血検査が役立ちます。本記事では、心不全の評価に必要な採血検査について詳しく解説します。


1. 心不全の負荷を知るためのマーカー

BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)

BNPは、心臓が負荷を受けた際に心室から分泌されるホルモンで、心不全の診断に非常に重要な指標です。特に急性心不全の評価に有用で、数値が高いほど心不全の可能性が高まります。

  • 正常値:100 pg/mL未満

  • 心不全を疑う値:300 pg/mL以上

  • 重症心不全の可能性がある値:900 pg/mL以上

NT-proBNP(N末端プロBNP)

BNPと同様に心負荷の指標となるホルモンですが、BNPよりも半減期が長く、慢性心不全の評価に適しています。

  • 正常値(年齢によって異なる):

    • 50歳未満:400 pg/mL未満

    • 50~75歳:900 pg/mL未満

    • 75歳以上:1800 pg/mL未満

BNPまたはNT-proBNPが基準値を超えている場合、心不全の可能性が高く、さらなる精査が必要です。


2. 腎機能と心不全の関係

心不全と腎機能は密接に関連しており、心腎連関(Cardio-Renal Syndrome)と呼ばれる概念が注目されています。心不全が腎機能を悪化させ、逆に腎機能低下が心不全を悪化させる悪循環が生じるため、以下の項目のチェックが欠かせません。

BUN(尿素窒素)・Cr(クレアチニン)・eGFR(推算糸球体濾過率)

  • BUN(尿素窒素):腎機能や脱水の影響を受ける

  • Cr(クレアチニン):腎機能の指標

  • eGFR:腎機能を年齢・性別に応じて計算した値で、60 mL/min/1.73㎡以下の場合、腎機能低下を示唆

腎機能が低下すると、体内の水分やナトリウムの調節が難しくなり、心不全が悪化することがあります。


3. 電解質バランスの異常を見逃さない

心不全の進行や治療により、電解質バランスが崩れることがあります。特に以下の項目は定期的にチェックする必要があります。

ナトリウム(Na)

  • 低ナトリウム血症(135 mEq/L未満)は予後不良のサイン

カリウム(K)

  • 高カリウム血症(5.5 mEq/L以上)は致命的な不整脈のリスク

  • 低カリウム血症(3.5 mEq/L未満)はジギタリス中毒や不整脈の原因

利尿薬やRAA系阻害薬(ACE阻害薬・ARB)を使用している患者では、特に注意が必要です。


4. 肝機能への影響もチェック

うっ血性心不全では、肝臓に血液がうっ滞し、肝機能障害が起こることがあります。

AST・ALT・ALP・γ-GTP・T-Bil(総ビリルビン)

  • AST・ALTの上昇:肝細胞障害の可能性

  • ALP・γ-GTPの上昇:胆汁うっ滞の可能性

  • T-Bil(総ビリルビン)の上昇:右心不全やうっ血性心不全の兆候

肝機能異常は、特に慢性心不全の患者で見られやすいので、定期的な評価が重要です。


5. 炎症や感染の有無を確認する

CRP(C反応性タンパク)

  • 急性心不全の増悪時に上昇することがある

  • 感染や炎症のマーカーとしても使用される

心不全の悪化時に感染症を合併している場合、CRPの上昇が見られることがあります。


6. 貧血が心不全を悪化させる?

貧血は心不全の予後を悪化させる要因の一つとされ、以下の検査項目が重要です。

Hb(ヘモグロビン)、Ht(ヘマトクリット)、鉄関連(フェリチン、TIBC)

  • Hb低値(12 g/dL未満):心不全のリスク因子

  • フェリチン低値(100 ng/mL未満):鉄欠乏性貧血の可能性

  • TIBC(総鉄結合能)・UIBC(不飽和鉄結合能):鉄代謝の評価

心不全の患者では鉄欠乏を合併しやすく、鉄補充療法が有効なケースもあります。


7. 甲状腺機能異常が心不全を引き起こすことも

甲状腺ホルモンの異常は、心不全の原因や悪化因子となることがあります。

TSH・FT3・FT4

  • TSH高値・FT3/FT4低値:甲状腺機能低下症(心不全を悪化させる要因)

  • TSH低値・FT3/FT4高値:甲状腺機能亢進症(心拍数上昇・心負荷増大のリスク)

特に高齢者の心不全患者では、甲状腺機能異常が隠れていることがあるため、注意が必要です。


まとめ:心不全管理には採血検査が不可欠

心不全の診断や重症度評価、治療効果の判定には、さまざまな採血検査が必要です。BNPやNT-proBNPを中心に、腎機能、電解質バランス、肝機能、炎症マーカー、貧血、甲状腺機能まで幅広く評価することで、適切な治療方針を立てることができます。

心不全の診療において、これらの検査結果を総合的に判断し、患者の状態を正確に把握することが重要です。

いいなと思ったら応援しよう!

Yusuke
いただいたサポートは医療系クリエイターSAKAIの活動費として活用させて頂きます。