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伝わる言葉は動かすデザイン
文字を並べることで人を動かす
私たちは日々「言葉」に触れていますが、そのありふれた中にも「惹かれる言葉」というものがあるように、「言葉」はとっても身近な創造物。
ただ文字が並んでいるだけなのに、泣かせること、笑わせること、怒らせることもできる。身近だけれど深くて不思議な創造物が「言葉」だと思います。
星を繋いで物語をつくる
誰もが言葉を使っている表現者なのに、小説家や雑誌編集者、広告コピーライターが並べる言葉は何かが違う。それは何故なんだろうという点に対して、僕は、この方々は「公約数を見つけるのがとても上手である」ことだと思っています。これは「点と点を結んで、それを星座として表現する力」。夜空の光を結んで絵を物語るなど、とても大きな想像力な気もしますが、膨大な言葉の選択肢を書き物も星座と同じ。
ものを生み出す人は星座を見つけるのが上手い。歴史的にも優れたデザイナーは言葉もやっぱり魅力的。素敵な言葉がさまざまな立場で生まれています。
「住宅は住むための機械である」
ル・コルビュジエ
「より少ないことは、より豊かなこと」
ミース・ファン・デル・ローエ
「服装は生き方である」
イヴ・サンローラン
「流行とは時代遅れになるもの」
ココ・シャネル
「締め切りが完成」
仲條正義
どれも言われてみれば「なるほど!」と感じる腹落ち感があり、モヤモヤと悩んだ時に先人の言葉はいつも拠り所になってくれる。偉人の言葉ほど本質的なスタンスで切り出していて、ハッとさせられるものばかりといえます。
「シンプルは究極の洗練である」
レオナルド・ダ・ヴィンチ
これは深い。
複雑なものよりもシンプルなものがより高度な洗練を持っているということ、そのものを伝えていますが、さまざまな分野で能力を発揮してきた彼だからこその説得力があります。ですが、現代の僕たちにも理解できないわけじゃない。超共感。
「人に分け与えて初めてデザインと言う」
榮久庵憲司
これも深い。響きます。
榮久庵さんは卓上しょうゆ瓶などで知られる日本デザインのパイオニア。手がけたデザインはどれもロングライフで今だに鮮度の落ちないものばかりで、この言葉の意味をデザインが証明していると言えます。
デザイナーは創造に向き合って自分なりの形を削り出している。だからこそ、作品同様に言葉も独特に削り出され、シュッとコンパクトに納められたセンテンスのなかにも哲学を感じるのでしょう。
カタチより言葉という選択
生活に浸透した言葉のなかにもデザイナーの提案から始まったものがあります。
例えば、「日曜大工」。
戦後の日本デザインを作り上げた知る人ぞ知るデザイングループ「KAK(カック)」。工業デザイナー秋岡芳夫、河潤之助、金子至で構成された伝説的なデザイングループでしたが、古く50年以上前に彼らが提案した一つが「日曜大工」です。「自分のほしい物を自分でよく考えて自分でつくり出す」という行動そのものを広めるためには、一つの絶対解的なプロダクトではないわけで、一人ひとり違ったものを提案するためには「言葉でデザイン」することが適していると考えたのでしょう。この後に秋岡さんが提唱した「消費者をやめて愛用者になろう」というこの言葉もキャッチー。秋岡さんのデザインのように時代の変化を超えていくには、言葉という「形なきデザイン」が必要なのかもしれません。
社会が動く時にも言葉が生まれる
社会にインパクトを与えたモノやコトは、やはり言葉が逸品。
例えば、Appleの「iPhone」。
これは「Phone」と言う部分が言葉のデザイン。iPhone登場以前からPDAなどと呼ばれるスマートフォンなるものは存在していたなか、15年前にAppleは「電話の再定義」として「iPhone」と命名したものを発売。iPhoneのプレゼンテーションはとても有名ですが、「アップルは3つの製品を発表する。1つは新しい電話、1つは新しいインターネットデバイス、1つは新しいiPod。これらはバラバラではなくて、発売するのは1つの製品なんだ。」というところ。ん?あれ?電話とコンピュータとプレイヤーを合体して電話って、コンピューターと音楽プレイヤーはメインじゃないの?って思いますよね。本来そっちの方が使用頻度高いのに。実際私たちもスマートフォンの電話機能はほとんど使わない。その手の中にあるのはコンピューターで、いろいろな機能がある。でも、iPhone以前のスマートフォンが流行らなかったのはその複雑性。いろいろすぎて、最新ガジェットへの理解がある人とか、一部のユーザーにしか魅力が響いてなかった。
ですが、Appleの凄さは「再定義」という言葉。誰にとっても電話は身近ですから「電話が変わる」というメッセージにすることで、ビジネスパーソンだけの道具じゃ無くなった。全世代の人にとって役立つと宣言している。造形が先か、言葉が先か、そこはよくわかりませんが、社会に浸透させたのは、一貫性のある言葉の力があってこそだと思いますし、僕はそれがデザインの仕事でもあると思っています。
Appleは親近感の演出がうまい。同時期のiMacだったりMacのボディにはハンドルがついていて、それって常時使うようなものじゃないけれど、親近感には大事な造形。「開けられるよ、動かせるよ、触ってみてよ」というメッセージング。デザイン的な言葉で言えばシグニファイアを活かした代表例。
同様にプロダクトでいえば、もっと古くなりますが、SONYの「ポケッタブルラジオ」もすごい。50年前に生まれた当時世界最小のトランジスタラジオTR-63のキャッチフレーズなのですが、その前までのモデルTR-55はポケットには入らなかったサイズでしたが、進化して一段と小型になったことをアピールするために「ポケッタブルラジオ」と呼んで売り出したと言う話。
でも実際はワイシャツのポケットに入らなかった絶妙サイズだったらしく、PRのためにセールス担当のワイシャツのポケットを少し改造したらしいという噂も。そこまでしてでも「ポケットに入る」というメッセージがプロダクトには必要だったわけで、訴求したい「意味」に全てが従うことの重要性が語られていますよね。
広告のキャッチコピーこそ、社会を動かすデザイン。JR東海の「そうだ、京都、行こう。」佐々木宏さんによるもので、 これは空気がデザインされてますよね。「京都に行こう」ではだめ。ワイワイ感が出ちゃう。内から湧き出てくるような、「あ、そうだ」って大人の気持ちを癒すか感じ。「気づき」を生み出すデザインが仕込まれてる。逆に、伊勢丹の「恋がし着せ、愛が脱がせる。」眞木準さんが作ったコピーは超直球。気持ちいいくらい、言葉がダイレクトに代弁している。
何のためのデザイン?その答えが言葉にある
自分お仕事で言えば、宮城県蔵王町のPRキャラクター「ざおうさま」。このキャラはネーミングから開発したのですが、そもそもこのキャラのミッションは「地域をPRする」こと。蔵王町という場をアピールしたい。町には魅力的な資産がたくさんあるのですが、それ全てを伝えて伝わるわけがない。ですから、唯一無二の地域の名前を伝えるためにニックネームではなく、名前の中に「ざおう」のワードが組み込まれていることが必須で、どこにも負けないNo.1の美しい風景を「キング」として擬人化。あとはもう、言葉に忠実にデザインするだけ。
手前味噌をもう一つ。東北のJRの駅ナカ商業施設「tekute(てくて)」。これも機能からのネーミング。寄り道に程よい駅ナカを訴求するには行動を印象づけたいわけで、「立ち寄って行く場所」だから、「〇〇してく」「〇〇よってく」。だから、tekute。ふらふらと立ち寄るのだから一筆書きで、ワクワクしたリズムも大事だから凸凹にしたい。そうすると、クルクルした一筆書きロゴになる。そしてこれもあとは、言葉に忠実にデザインするだけ。
やっぱり、伝えたいコンセプトから名前を開発して、造形はそこに従うプロセスで考えると、全てがブレないし、強くなる。
伝わる言葉は動かすデザイン
いいアイデアは、いい言葉になる。すなわち、いい言葉があれば、いい行動にもなる。「いい言葉」とは「伝わる言葉」のこと。「優れたクリエイションは人を動かす」とも言われるように、伝わる言葉とデザインって、ニアリーイコール。「デザインは言葉を発している」と捉えれば、逆に言葉からデザインも成立しないと弱いということ。
ここで僕がお伝えしたいのは、「言葉でモノゴトをデザインしよう」ということです。普段はカタチで創造している方も、もっともっと「言葉」にも踏み込んでみたら、面白いのではないかということ。もちろん、得手・不得手、そこは言葉のプロではないわけで汗をかくと思いますが、デザインをする人は「気づきのプロ」なので、きっと、言葉も独特の視点で生まれてくると思いますし、それは社会にとってもプラスになることにも繋がるのではないかと。もっと、「おしゃべりなクリエイターさん」が増えたら、面白いかも!というお話。
いいものは言葉に滲み出ている
社会に広がったなんかいいなという商品には、言葉のデザインが組み込まれているものばかりだと思います。何故その言葉なのかな?って、紐解いてみると、楽しいかもしれません。是非そんな暇つぶし、やってみてください。