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この道40年、肉屋の仕事に迷いなし

僕は精肉店という仕事を生業にしています。一般的には肉屋と言ったほうがわかりやすいでしょうか。いつだったか、東京で羊肉を販売している方が「肉屋」ですと自己紹介しているのを聞いて、ものすごく違和感を覚えたことがあります。肉なら羊も豚も鹿も『肉屋』なんでしょうね。関西のご同業、ならびに飲食関係者のみなさん、いかがですか。もしかしたら、いやいやいやいや違うやろ!って突っ込みたくなる人もいるんじゃないかな。牛で育った関西人にとっては、肉と言えば牛肉であり、肉屋と言えば牛肉専門店ですからね。しかし、ところ変われば違うみたいです。

さて、僕は精肉店、いや、肉屋、まぁ、どっちでもいいのですが、肉屋でいきましょうか。その肉屋をやってますが、サカエヤはチャンネルが4つあります。店頭販売(小売り)、オンラインショップ(通販)、レストラン部門(セジール)、そして、飲食店向けの『業務用卸』部門です。

今日は、『業務用卸』の話を少しさせていただきますね。バッティングする会社は、食肉卸問屋、総合食品会社、最近では農家(生産者)が加工会社と組んで飲食店に卸すパターン。あと、業界自体がブラックなややこしいところもあるので、実態がつかめない会社もあるようです。内臓扱ってる会社に多いかな。と、まぁ、だいたいこんな感じです。それこそ20年前は、同じ肉屋とバッティングすることが多かったのですが、BSE以降は肉屋に力がなくなり、もともと肉屋に卸していた食品会社や食肉問屋がとってかわったというわけです。

で、それらすべてを一括りにすると『業務用卸』というジャンルになりますが、知ってほしいのは、僕が、というかサカエヤがやってることと他社がやってる『業務用卸』は中身がまったく違うということです。これはね、キュウリとナスほど違うのです。野菜というカテゴリーは一緒ですが、キュウリからすれば、ナスと一緒にしてくれるな、という感じです。

問屋はじめ食肉会社は、仕入れた枝肉を捌いて(骨抜いて)部位ごとに分けて真空パックして箱詰め。肉屋に箱ごと卸したり(ボックスミート)、部位ごとに塊のまま飲食店に卸したりします。加工会社が入っているところは、肉屋や飲食店の要望に応えて、細分化したカットで納品したりする場合もあります。

一方、サカエヤの場合は、シェフに合わせて肉を仕上げていくので、常に枝肉が手元にあり、日々枝肉を観察できる状況でないと、僕が目指す仕事ができないのです。ビジネス的な表現をすると、中長期的にお金を寝かせる必要があります。つまり、冷蔵庫は在庫だらけということです。枝肉で仕入れて最低でも10日、長いと60日は寝かせます。わかりやす言うと『熟成』ですが、僕がやってる熟成はメディアなどで情報公開されているものとは違うのです。このあたりは長くなるのだ別の機会に書きます。熟成の経過途中でシェフの好みに仕上げていくのですが、これは問屋では絶対ににできないことです。逆に1日でも早く売って金に変えなければ次の枝肉が仕入れられないというのが問屋の仕事です。ビジネスですからね。

僕はもともと小売りの肉屋からスタートしているので、ショーケースにかなり固執しています。格付けにとらわれず、滋賀だからといって近江牛だけを販売することもせず、同業他社とはかなり違うことをやってますが、それはビジネスより楽しさ、人とのつながりを優先しているからです。その上でしっかり利益がとれる仕組みができれば、僕はだれも不幸にならないと思うのですが・・・どうすればおいしくなってくれるのか、枝肉を見ながら毎日そればかりです。

あとね、飲食店が食肉販売の許可をとって肉屋みたいなことをやってますが、応援したい気持ちもあり、見ていて危険だなと思うこともあります。そして、なによりも肉屋の仕事を軽く見てるんじゃない?と、なんとも複雑な気持ちになるのです。

肉屋として生きてきて、先月で40年が経ちました。昨日も今日も、肉を捌いていて、また新ことを見つけてしまいました。体力はさすがに20代のときのようにはいかないまでも、経験に勝るものはなく、ますます楽しい、けれど難しい。生き物相手ですからね。

この道40年、納得できる仕事はいまだできていないけど、世界中でたった一人でも、僕の肉が食べたいと言ってくれる人がいるまでやり続けます。

「この道を行けばどうなるものか、危ぶむなかれ。危ぶめば道はなし。踏み出せばその一足が道となる。迷わず行けよ。行けばわかるさ」

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新保吉伸/Niiho Yoshinobu
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